
もう何冊もゴシック建築に関する本や大聖堂に関連した本を読んできたが、本書はちょっと毛並みが違うタイプの本です。建築史や美術史的な観点からではなく、また中世特有のあの熱情に駆られた民衆の精神や社会的側面からでもなく、職人達の視点から見たものというのがもっとも適切なのかもしれません。
サブタイトルに「聖なる建築物をつくった人々」とあるが、それが指すのは民衆ではなく、職人の方だったりする。その意味で、「カテドラルを建てた人びと」とは似ているようで微妙に違いがあるのでご注意を! あちらの方がはるかに面白く、感動的ですらあった。
写真や図版が多く、ヴィジュアル的に分かり易いのは長所だが、大した分量の無い本の為、説明がいささか散文的で面白みに欠ける。基本的に知っていることばかりだったのだが、シャルトル大聖堂に関する文章で大変珍しいものが引用されていた。これはシャルトル好きの私としては、めっけもの! それだけで読む価値があった。
なんせ、シャルトル大聖堂が今の言葉でいうならば建築確認を受けたところ、あちこちに不備・欠陥が見つかり、このままだと崩れてしまう危険があるから修繕せよという報告書なのだから、実に興味深い! 是非、原文でこの資料を探して読んでみたいものである。現代フランス語に翻訳されたものを日本語に更に翻訳しているわけだが、フランス語で読んでみたいと心から思う。やっぱ、アテネ・フランス通わないといけないかなあ・・・。
以下、抜き書きメモ。
シャルトル大聖堂の鑑定(「教会参事会記録簿」1316年) P164~
シャルトル大聖堂の建築の品質を心配していた司教座聖堂参事会は、鑑定を依頼した。鑑定を行ったのは、国王付きの建築家ニコラ・ド・ショーム、パリのノートルダム大聖堂の建築家ピエール・ド・シェル、パリの木大工の親方代表ジャック・ド・ロンジュモーである。
参事会に対し、私たちはここに、丸天井を支える4つのアーチが十分堅固なものであること、それらのアーチを支える柱が十分な強度を持っていること、ヴォールトの要石が十分堅固であることを確認する。
鑑定に当たっては、丸天井を取り除く必要があると思われる場合でも、その半分以上を取り除いてはならない。足場については錯綜したステンドグラスの上部分から組み、この足場によって、大聖堂の内陣仕切りと、下を行き交う人々を守る。
また、この足場を利用して、鑑定に必要な、丸天井内部に造られるべき別の足場を組む事とする。
年齢順に、イタリア出身のシャルトル司教座聖堂参事会員ジャン・ド・レアテ、施行者シモン・ダギュオン、木大工シモン、施行に関わった親方代表ベルトー面前で、パリの建築家ピエール・ド・シェル、国王陛下付きの建築家ニコラ・ド・ショーム、パリの木大工の親方ジャック・ド・ロンジュモーが発見した、シャルトルのノートルダム大聖堂の欠陥をここに述べる。
私たちはまず、中央交差部の丸天井を検査した。この部分は修繕が必要である。早く修繕しないと、大きな危険を引き起しかねない。
さらに、丸天井を支える飛び梁を検査した。この部分は、目地の目塗りをし直して再検査する必要がある。早く行わないと、大きな損害を引き起しかねない。
さらに、柱廊玄関上部の歩廊の柱を大々的に修繕する必要がある。また、各開口部の中に、その上のものを支える支柱を立てるのが望ましい。その際、1本は、角の支柱の上にある外側の台石から取り、もう1本は大聖堂の主要部分の増強部から取る。さらに、上からの加重を小さくするために、この支柱を補強する。必要だとおもわれるあらゆる固定材を使用する事。
さらに、衝撃を与えることなくマドレーヌ像を元の場所に戻す方法を吟味し、それをベルトー氏に伝えた。
さらに、大塔において(私達の鑑定では、これも大がかりな修繕が必要である)、一方の側面に亀裂が入り、小塔の一つが破損していることを確認した。
さらに、正面の柱廊玄関にも欠陥があった。屋根が破損しているのである。各屋根に支えとして鉄製のつなぎ材を設置する事が望ましい。そうすれば、あらゆる危険を取り除くことができるであろう。
さらに、中央交差部の丸天井にて作業を行うために、錯綜したステンドグラスの上から第1の足場を組む事に決定した。
さらに、小天使が取り付けられた真束が完全に腐っている上に、身廊のもう1つの真束とぴったり合っていないことを確認した。そのもう1つの真束が、木組みとの上部接合部分において破損しているからである。いい作業をしたいのであれば、後陣の上にある真束を二層にし、小天使を第2の真束に取り付ければいい。こうすれば、後陣の外構えに用いられた木材の大部分は、再利用することができるであろう。
さらに小さな鐘がいくつか設置された鐘楼も、満足のいく状態ではない。鐘楼が建設されたのが随分前で、もはや古くなっているからである。大きな鐘が設置された鐘楼も同様である。これらは早急に修繕を施す必要がある。
さらに、屋根組みに用いられているつなぎ材4本は、一方の端が腐っているため、取り替えるべきである。もしそれらを取り替えたくないのであれば、私たちが提示した方法でそれらのつなぎ材を修繕する必要がある。
V・テルモ篇「考古学会議」(1900年)所収 H・プランディエ訳
【目次】大聖堂ものがたり―聖なる建築物をつくった人々 (知の再発見双書 136)(amazonリンク)
第1章 新たな世界
第2章 建築家
第3章 表現手段
第4章 建設現場
資料編 大聖堂の建設者たち
ブログ内関連記事
「カテドラルを建てた人びと」ジャン・ジェンペル 鹿島出版会
「ゴシックとは何か」酒井健 著 講談社現代新書
「シャルトル大聖堂」馬杉 宗夫 八坂書房
「ステンドグラスの絵解き」志田政人 日貿出版社
「フランス ゴシックを仰ぐ旅」都築響一、木俣元一著 新潮社
「ゴシックということ」前川 道郎 学芸出版社
「図説世界建築史(8)ゴシック建築」ルイ・グロデッキ 本の友社
「図説 大聖堂物語」佐藤 達生、木俣 元一 河出書房新社
「SD4」1965年4月 特集フランスのゴシック芸術 鹿島研究所出版会
「ゴシックの図像学」(上)エミール マール 国書刊行会
「ゴシックの図像学」(下)エミール マール 国書刊行会
「ゴシックの芸術」ハンス ヤンツェン 中央公論美術出版
「ゴシック美術」馬杉宗夫 八坂書房
「大聖堂のコスモロジー」馬杉宗夫 講談社
「世界の建築第5巻 ゴシック」飯田喜四郎 学習研究社
「凍れる音楽-シャルトル大聖堂」建築行脚シリーズ 6 磯崎新 六耀社
「Chartres Cathedral」Malcolm Miller Pitkin
う~、もっといっぱい読んでいるのですが、キリがないのでこの辺で。
ご興味のある方、うちのブログ内検索してみて下さいませ。
Quand les cathedrales etaient peintes.1993
となつてゐます。
古代の寺院と同様、ロマネスクやゴティックの建築も建てられた頃には彩色されてゐたと云ふ意味でせう。
フランスのamazonにありました! また、改めて検索してみると、フランス語で書かれたゴシック関係の本って多いですねぇ~。
とにかく、知りたい事がある以上、読むぐらいはできるようになりたいです。学生時代以来ですがフランス語は・・・。目的がある以上、頑張って原書での読書を目指したいです♪