2005年12月01日

「性風土記 」藤林 貞雄 岩崎美術社

まあ、民俗学系の本で性風俗を扱う本というとだいたい想像がつく向きも多いかと思います。パターン的には、社会学としての解説がメインのものと全国から集めた事例集がメインのものの2つがあるように思いますが、これは事例集の方ですね。地方各地に残された風習や習俗に関する伝聞や文章を集めています。

特に、著者が非常に真面目な方でともすると、卑俗で野卑なものになりかねない性風俗を真摯に調査しようという姿勢が結構好きですね。逆にいうと、猥褻っぽいものを期待してはいけません(笑)。

内容として興味深かったのは、処女を忌み、見ず知らずの他人や年長者によって女にしてもらって初めて一人前になり、嫁にいけるという習俗が昭和になってもまだ存続していたらしいことが想像を超えていて驚きでもありました。西洋の中世にあった領主の初夜権と似ているようですが、あれは強制的な領主の横暴ですが、日本の場合は習俗から自ら進んでそれを行うというのが対照的に異なっています。どうやら、神とすることによって初めてうまくいくようになるという考えがあり、神を代行するものとして他人が出てくるものなのだそうです。

この本には書かれていませんが、古代文明の神聖売春のようなものに近いような気がします。年頃になった娘は全て神の神殿に巫女として奉仕し、自らを売って得たお金を神殿に奉納して初めて、人間の女となり、故郷に戻って結婚が許されたというあの話です。容姿が美しくない女性はいつまでも買手がつかず、巫女から解放されなかったというエピソードがおまけについてましたが、あの手の考え方が昭和になっても日本で存続していたのは、凄いですねぇ~。

そうそう、嫁盗み、なんて話も載っています。いわゆる略奪婚みたいなものを想像しますが、事実は全く異なっており、資力の無い次男・三男が結納などの経済的負担無しに婚姻をする為に、いささか非合法的な手段を取るものであり、軟禁はするものの、最終的に親からの了解を取り付けるまでは一切、暴行等手出しはしないのが原則なんだそうです。しかも当事者個人だけが行うものではなく、周りの人に相談したうえで協力して行い、連れていく時にはちゃんと親に誰が連れていったのかを連絡する役目の者がいるのが普通なんだそうです。勿論、交渉がまとまらなければ、女性は無事に自宅に帰されるのであり、当時の社会情勢から生まれたそれなりに合理的な習俗・習慣だったようです。

それを字づらだけで追うと、原始人が力ずくで拉致して嫁にしたように誤解されますが全然違うと書かれています。なかなか勉強になりますね。(でも、源氏物語の若紫はどう考えても不法監禁と略奪婚だと思うけどなあ。美男子だから許されるのかな?(笑))

女護が島伝説。好色一代男で有名なあの島ですね! それにまつわる話がいろいろと載っています。私がこの本を買おうと思ったのは、実はこの章に惹かれてだったりします。名称はよく聞くものの、内容がはっきりとは分からなかったので、資料として読んでみたかったのですが、まあ、悪くはないかな。想像の範囲内ではありましたが、今までほとんど知らなかったので参考になりました。

あとは、普通の男女の性器にまつわるものとかのお話かな。金精様とか。まあ、持っていても悪くないかな~っていう程度の本です。読み易いですけどね。必携の本とまではいかないです。お好きな方は、ついでにどうぞって感じでしょうか。

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posted by alice-room at 00:29| 埼玉 ☁| Comment(2) | TrackBack(0) | 【書評 未分類A】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>古代文明の神聖売春のようなものに近いような>気がします。年頃になった娘は全て神の神殿に>巫女として奉仕し、自らを売って得たお金を神>殿に奉納して初めて、人間の女となり、故郷に>戻って結婚が許されたというあの話です。容姿>が美しくない女性はいつまでも買手がつかず、>巫女から解放されなかったというエピソードがおまけについてました

二つの話が混じっている気がします
容姿の美しくない女性はいつまでも帰れなかった
のエピソードは
古代バビロニアの習俗
(その土地の女性は 既婚未婚問わず 一生に一度は 神殿で見ず知らずの男に身を任せ「枕賃」は 神聖なものとして神殿に奉納される)

 もう一つの方は 別の地域の「聖娼」の
ことで 高貴な家の選ばれた娘達が神殿で
「娼婦」として過ごし 任期を終えたら
家に帰り 普通に結婚もする だったと
思います
(聖娼は 日本の斎宮、斎院 とちょうど正反対になるんですよね)

>処女を忌んで云々 という話を聞くと
私は 京都祇園の戦前の「髷替え」を連想します
今の小学校高学年~中学生くらいの年齢で
戦前は舞妓に出たのですが、出て2年ほどすると
? 「水揚げ」(処女を買われる)の為に
「水揚げ」専門の旦那(お客の中にいる)と
一夜を過ごすことになるのです
はれて一夜が明け、髷が変わると
舞妓という芸妓修業中の身であるにもかかわらず
正式に旦那を持てるようになるというのです

旦那を持つ とは 廓内では 結婚のような
ものですから こういう話と上に上げられている
習俗の共通性を強く感じます

廓の習俗は保守的なようですから 古い
習慣が残っていたのでしょうね・・・まぁこの
場合は商売気の関係もあるのかもしれませんが。

細かいつっこみ お許し下さいませ
Posted by 琵琶 at 2006年07月12日 13:01
琵琶さん、
>細かいつっこみ お許し下さいませ
いえいえ、ご指摘有り難うございます。たぶんおっしゃられたように、勝手に一緒にしてしまったのだと思います。あやふやでおぼろげな記憶で書きなぐってますので、正直なところ、そういう勘違いがたくさんあると思います(苦笑)。他にもお気づきの点があれば、また教えて下さい(御辞儀)。本当は、きちんと資料を読み返せばいいのでしょうが、ダンボールの奥底にあり、出すだけで大変な作業になりそうなもんで・・・失礼しました。

「水揚げ」って、確かいろんな意味でパトロンというか後見人になり、面倒を見てくれる人―――旦那―――が初モノを頂くっていうアレですよね。まあ、持ちつ持たれつ、バックがついて初めて一人前になるのは、どこの世界も一緒ですね。水商売でヤクザ屋さんがケツモチとして、何かあった場合に揉め事を処理してくれる一方で、ミカジメ料を取るのも広い意味で言えば、似たようなものだし・・・ちょっと拡大解釈過ぎ?

そうそう、京都の舞子さんから芸妓さんに変わると髷もそうですが、簪も変わりましたよね。以前、京都の御茶屋さんでそんな話を聞いた覚えがあります。白塗りの化粧をしてこなくて、おかみさんに怒られていた芸者さんを思い出しました(笑)。

日本の文化もそういう意味では、本当に興味深いですね。今週末はそういえば、祇園祭ですね。遊びに行きたいなあ~。

Posted by alice-room at 2006年07月12日 23:52
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