2008年06月15日

「昭和初期の博物館建築」博物館建築研究会 東海大学出版会

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本書で扱われるのは、上野にある東京国立博物館と国立科学博物館の二つの建築物である。両者は元々1つだったものが、大正14年に自然科学系資料を東京博物館(現在の国立科学博物館)へ移管し、東京帝室博物館(現在の東京国立博物館)は、歴史系・美術系としての性格を明確にしたそうです。

東博(東京国立博物館)は、年間パスポートをもっているのでそこそこ頻繁に行っているし、文庫分片手に用もなく椅子に座って読書して時を過ごしていたりして身近に感じていました。

しかし、本書で紹介される建物の意匠は今までも気になってはいましたが、漠然と疑問に持つだけだったのが目から鱗とはまさにこのことです! 休憩室の換気口金物とかいつも椅子に座って眺めた時に気になってたんで、やっぱりきちんと意図して作られてたんだなあ~っと率直に嬉しくなりました。

当時は展示物の照明として、天然の自然光を利用せざるを得ないところもあり、当初は自然光を間接的に取り込む前提で展示室が作られていたというのも実に納得のお話でした。しかも、相当に試行錯誤と事前に調査・実験が繰り返され、その経過も資料としてまとめられたうえでどのように展示物が見えるか、見えたときの感じ方までも含めたかなり突っ込んだ調査であり、当時の関係者のひとかどならぬ熱い想いをうかがわせます。

予算や資源の制約、意見の対立等々、いつでもどこでも生じる普遍的な問題ですが、それらを一つ一つ克服しながら、より願わしい理想の形へ一歩で近づけようとする強い意志。まさに、あの時代の中で人々の想いがこもっています。

いやあ~実に面白いです。

西洋式的な建物がもてはやされた明治から一転して、東洋的・日本的な建物こそ、日本人が作り出すべき建物とする様式論の変遷など、まさに建築は時代の産物であることを痛感させられます。

今でこそ、数年前に修復されたあの表慶館も味わいがあるとおもわれていますが(踊るサテュロスが展示されてたとこ)、本館を再建する際には、どうしょうもない安っぽい西洋かぶれ的な散々たる評価をしています。本館のデザインと調和しなかったら樹木をまわりに植えて隠せばいいとか・・・おいおい~本音ベースだとかなり凄い発言がされていたようです。それが故に、読んでて楽しいのですが(笑顔)。

最新式の技術もふんだんに採用され、国産技術の向上にもずいぶん資したようです。シャッターとかいっぱいあるんだって。

そうそう、あと館内にある75台の電気時計は、どの時計も同じ速度で進み、同じ時刻を示すんだって。これらは子時計で地下の設備室に隠された「親時計」によって制御されているんだそうです。へええ~。

とにかく、知られていない建物の素晴らしさを教えてくれる素晴らしい本です。巷にあふれる「博物館に行ってみよう~♪」的な薄っぺらなものではなくて、こりゃやってくれるね!と思わず、感嘆しちゃう情報の宝庫です。

科学技術館のステンドグラスとかも、確かに見たとき、なんでこういうのがここにあるんだろう・・・と思いましたが、その裏に製作者は誰なのか?という謎があったり、本当に楽しいし、興味深い!

だてに日本を誇る収蔵物があるだけではなく、それを支える器としても建物自体が既に、価値ある存在であることに気付かされます。心ある方、是非、読んでみて下さい。なんか嬉しくなって、博物館(or科学技術館)に出掛けたくなる事、間違いなしです。


話が前後してすみません。これも忘れないうちにメモ。東博は元々上野にあったのではなく、湯島聖堂にあったんだって! これって絶対に知っている人は、ほとんどいないと思います。私は、あの近くで働いていたことがあり(神田明神の前を毎日通って通勤してた)、湯島聖堂にも入ったことありますが、かなりの異界な感じの場所なんですよ~。

あの湯島聖堂の建物が実は、博物館として利用されていたとは・・・・!! 意外!意外過ぎる~! 
是非、行った事ない方、一見の価値ありです。東京もこうしてみると、なかなかに面白いです(満面の笑み)。
【目次】
第一章 東京博物館本館
ステインドグラスの製作者は誰か
本館復興計画案の推移
科学の殿堂を支えた技術
石材に職人の技を見る 石工 森田定吉さんに聞く
展示配置図

第二章 東京帝室博物館
形態決定のプロセス
宮内省設計技師
実施設計での意匠
復興本館の照明計画
国宝を支えた技術
陶芸家が鬼瓦を造形
「国産化」建築の極み-昭和十三年、東京帝室博物館の意味
上野の総理官邸
展示配置図
昭和初期の博物館建築―東京博物館と東京帝室博物館(amazonリンク)

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東京散策シリーズ~神田明神、湯島聖堂、東京国立博物館(1月2日)
posted by alice-room at 18:00| Comment(2) | TrackBack(0) | 【書評 建築】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。日本の近代建築についてウェブで調べていて、こちらにたどり着きました。

実は私の亡き祖父が宮内庁で、東京帝室博物館の展示物の照明のための採光についての仕事をしていたと聞いています。こちらの記事を読んで、驚くとともに嬉しくなりました。alice-room様が当時の関係者の熱い思いを汲み取ってくださり、きっと祖父も喜んでいると思います。早速、「昭和初期の博物館建築」をアマゾンで注文しました。

思い立って祖父の名と「採光」をキーワードにサーチしたところ、1936年の日本建築学会雑誌に採光についての調査・実験を報告した祖父の論文がみつかり、入手することができました。

こちらのブログの記事がきっかけで、30才頃の祖父と論文の上で出会うことができました。感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございます。
Posted by beaver at 2009年02月28日 11:58
beaverさん、初めまして。
こちらこそ私のブログの記事が少しでもお役にたったのなら、本当に嬉しいです♪

しかし世の中って、不思議ですね。
私もこの本を何の気なしに読んだら、とっても興味深く、人々の熱い想いの片鱗を知り、思わず感じたことを書いたのですが・・・。

それがネットを通じてそんな風にお役に立ち、またきっかけになってbeaverさんの祖父の方の論文にまで辿り着くなんて、そんな素敵な事はありません!!

まさに、こういった嬉しいコメントが頂けるようなことがあるので、私もブログを書いていて良かったなあ~と実感しました。

こちらこそ、本当に有り難うございます。大変嬉しいです。また、頑張ってつたない書評ブログですが、継続していきたいと思います(笑顔)。

Posted by alice-room at 2009年03月01日 20:35
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