2008年07月12日

「中世のアウトサイダー」フランツ イルジーグラー、アルノルト ラゾッタ 白水社

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タイトル通り、都市などの一定のまとまりを有する多数派(社会集団)に対して、その周辺に存在する少数派に注目して採り上げたもの。いつの時代にもこの手のアウトサイダーは存在し、現代でもホームレスや外国人の不法滞在者など、都市が抱える社会の構図は変わらないんだなあ~と痛感した。

豊富な古文書が残るドイツの資料を元に、そうした人々の生活の有様や彼らに対する人々の態度や扱われ方などを紹介している。

私は以前からそうなのだが、こうした小集団とかどちらかというと社会から疎外された人々に対しての関心が高く、体制からうさんくさく見られながらも真に『自由』な態度(しばしば「死への自由」に過ぎないかもしれないが)で生きていく姿に憧れる。

もっとも自分はアウトサイダーにまでなる度胸はないものの、そこそこそういった人と知り合いになってしまうのもその故か・・・・?

まあ、それはおいといて。
時々図版なども入っていて、飽きないし、読んでいて単純に面白いです。

例えば、中世において、乞食は立派な職業であり、貧者の生計の糧として社会的に承認されていた。病人や不具者、子供、老人などそれしかできない人々は、積極的にそれを職業として肯定され、キリスト教的精神から、食事や宿泊施設が提供されていたそうです。

一方でいつの時代にもいる、怠けてるだけで働けるのに乞食として生活しようとする者には、社会から種々の規制や罰則が課されていたのも頷けます。特に都市外部からの流入者に対しては、ひときわ厳しい目で見られていたようです。

他にも今に至るまで、西欧の都市で扱いが微妙なジプシーなど、自分たちと価値観も生活習慣も異なるまさに異分子で偏見に満ちた目で捉えながらも、彼らの占いなどには積極的に頼ったり、複雑に交差する交流があったりする。

あと娼婦なんかも必要悪として、消極的肯定とでもいうべき態度で都市からも認められていたものの、明確に差別はあり、それでいながら都市の上層部市民も頻繁に利用していたりとこれまた現代と変わらない姿が描かれています。

そしてその娼婦の市内での管理をしていたのが実は刑吏で、娼婦達から納められるお金も相当なものだったらしい。その刑吏自体が、同時にまたアウトサイダーであるのも道理である。ふむふむ。

まあ、思いつくままに書き記したが、こういうのがお好きな方には宜しいかと。時代は変わっても、国は変わっても、人々の心だけは変わりがないことを感じます。

アウトサイダーに対して、優しさをもって接する人もいれば、拒絶をもって接する人もいるのも変わりません。ただ、口先でいう以上に実際にどう接する事ができるかは、その人の度量や人生観によるんでしょうけどね。

本書は、読んで悪くない感じです。阿部謹也氏の本等と比べると、魅力は落ちますけどね。
【目次】
第1章 周辺集団とアウトサイダー
第2章 乞食とならず者、浮浪者とのらくら者
第3章 ハンセン病患者
第4章 心と頭を病む人びと
第5章 風呂屋と床屋、医者といかさま医者
第6章 大道芸人と楽士
第7章 魔法使い、占い女、狼男
第8章 ジプシー
第9章 娼婦
第10章 刑吏とその仲間
第11章 結論でなく、いかがわしい人びととまともな人びと
中世のアウトサイダー(amazonリンク)

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「ハーメルンの笛吹き男」阿部 謹也 筑摩書房
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「甦える中世ヨーロッパ」阿部 謹也 日本エディタースクール出版部
「名もなき中世人の日常」エルンスト・シューベルト 八坂書房
「中世ヨーロッパの都市の生活」ジョゼフ・ギース、フランシス・ギース 講談社
「中世社会の構造」クリストファー ブルック 法政大学出版局
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posted by alice-room at 05:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 歴史A】 | 更新情報をチェックする
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