2008年07月27日

「若者はなぜ3年で辞めるのか?」城繁幸 光文社

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「いやあ~あっ、私のこと?」とか思いつつ、どうせありきたりな薄っぺらな口先だけのお話でお茶を濁すかと思いきや、あにはからん。表面的な現象を見て、一見もっともらしそうなメディア的に支持される解説などとは、全く一線を画しています。

疲弊した制度して年功序列を批判し、時代は変わってきている、やれ成果主義だ裁量労働制だと目先だけのものしか見えていない方とは一味も二味も違います。

あくまでも本質を見通した視点で、現代の日本社会に蔓延する問題を分析していくのは、まさに読む価値のある内容です。
例えば、現在の日本で導入されている成果主義は、企業自体が成長せず、ポスト(それに伴う昇給)を用意できなくなった現状のもとでの年功序列を維持する為のものでしかなく、労働成果に見合った報酬の現時点での分配では決してないことを指摘しています。

労働組合も結局、年功序列の中で利益を得られる人々の既得権益を守る為のシステムに過ぎない点など、その指摘は的確にして刺激的です。

その一方で単なる批判ではなく、明確に自分が拠って立つポジションを明示したうえで、どうすればより多くの人にとっての『真』の公平に近づけるのか、その提言も大いに勉強になります。

例えば、タイトルに対する回答。
従来型の本社で一括採用、全国の事業所や部署に分配のスタイルから、各部署で必要なスキルと人数を提出し、それぞれに見合う人材を個別に採用していくといった形への移行。それに伴い、明確な目的意識を持った優秀な学生が入社するが、彼等は軒並み意識水準が高いが故に、年功序列の結果として生じる若年時の長期の単純作業に甘んじる事をしない。それ故の早期退職率の高さとする。

(かつての職場でも海外の大学院に企業留学して帰国後、限りなく単純作業をしている先輩がいた。話してみると、非常に優秀で、だてに名門大学出ではないなと思ったが、その人物がキャリアパスからして自分の数年後だと思ったら、悲しくて涙が出そうになったことを思い出した。「数年後に君も行かせるからTOEIC頑張っておきなさい。」そう部長に言われた時の私の気持ちは、喜びでは決してなかった。だからこそ、会社を飛び出したのだが・・・)

まして、企業が縮小均衡していくような時代、ポストが減る一方で上が詰まっている現状では、現場で仕事のできる人ほど、割が悪くなるのが明白だからだ。

友人との話や私の経験からも、社員としての部下を増やさずに、経験の浅い派遣を入れるだけで数値的な労働力は足りているからとして、仕事を割り上てるマネジメント層。言葉はカッコイイがプレイング・マネージャーなど冷静且つ的確な判断のできるプロの管理者とは思えない。

海外に仕事を発注するのも良いだろうが、そのマネジメントって本当にできているのか、リスク管理も含めてトータルコストで計算できていないのが実情だろう。愚かだ・・・しかし、それでもやらねばならぬ日本企業は喜劇だろうか?悲劇だろうか?

「格差社会の弊害」というコピーに騙されている人々がどれほど、実情を分かっていないか、本書を読むと痛感する!
実態は年功序列を維持する為の小手先の修正主義でしかないが故の格差の助長であることをズバリ指摘している。

本当の成果主義でないことから生じる問題を、メディアや政治家がいかにすり替えているのか、決して感情的にならず淡々とした口調で語られるが故にその根の深さを感じずにはいられない。

年金制度問題や公務員の天下りもまさに、この『年功序列』を好み、それを維持してきた故に生じた現象であることを明確に示唆し、同根であることが分かる。

その他、数々の示唆に富む指摘は、非常に明快で論理的だ。TVや新聞記事では見えない背景が本書を読む事で一気に解明する。もっとも、知っている人は既に知っている事なのだろうが、私は本書を読んで自分の頭の中が大変整理されたのを感じました。

この手のテーマに関心のある方。すぐに読める本です。しかし、内容は実に豊かです。読んでおくべき本の一冊でしょう。

あっ、老婆心ながら・・・ただ何も見えずに会社で働いている方、本書は読まない方がいいです。思いっきり人生がブルーになります。下手したら、全面否定されていると思っちゃわないように! 説得力があるだけに、生きていくのが辛くなる方も多々いると思いますので、そもそも問題意識のある方だけ読まれた方が無難です。

私は人生を後悔してはいませんが、本書を読んでマジ、やばいなあ~と思いました。本人の能力とは別な次元で決まる転職市場の論理など、ある程度は分かっていましたが、結構厳しい現実があります。

あと・・・
タイトルはちょっともったいないですね。書店で目を留めるにはいいのでしょうが、内容はタイトルの薄っぺらさとは異なり、しっかりしています。
【目次】
はじめに 「閉塞感の正体」を見きわめる
第1章 若者はなぜ3年で辞めるのか?
第2章 やる気を失った30代社員たち
第3章 若者にツケを回す国
第4章 年功序列の光と影
第5章 日本人はなぜ年功序列を好むのか?
第6章 「働く理由」を取り戻す
若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来 (光文社新書)(amazonリンク)
posted by alice-room at 23:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 実用・ビジネスA】 | 更新情報をチェックする
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