2008年08月09日

「吉野葛・盲目物語」谷崎 潤一郎 新潮社

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久しぶりに物語らしい物語を堪能した。私のイメージする『日本』というものに近しい感じを覚えた。

吉野葛は、南朝が歴史上では終わった後も実は続いていたという由緒ある(?)地を舞台にしている。古代が現在に連綿と引き継がれるその土地でのありそうな・・・お話が訥々と語られていく。

私の関心を引いたのは、五鬼継。
正確には大峰山脈の釈迦岳の東南にある前鬼山中腹にある集落に、五鬼熊・五鬼童・五鬼上・五鬼継・五鬼助などの家が、修験道のために宿坊を営み、案内役を勤めていたことを指す。
 
 彼等は、七世紀末に活躍した修験道の開祖・役行者が打ち負かし、服従させたと言い伝えられる前鬼・後鬼のうち、前鬼の子孫とされる。

 なお、山上ヶ岳(大峰山)山麓の天川村洞川には、後鬼の子孫と伝えられる人々があり、結婚は彼らの中だけで行われていたという。
思わず、八瀬の鬼を思い出してしまう。奈良の地は、相も変わらず鬼が棲まう土地かと久しぶりに思いを深くした。

来月行きたいけど・・・ツレの希望で別な場所になりそうだな・・・。

まあ、それはいい。夏休みにローカル電車を乗り継いで、観光客も寄り付かないような辺鄙な土地を放浪する際、こういった文庫本を持っていきたい。電車の乗り継ぎに2時間も次が来ないときに、読むにはうってつけだろう。途中下車の旅には、このうえもない友になりそうだ。

一方、盲目物語は、お市の方をヒロインにその側に仕えた者(盲目の座頭)からの視点で描かれている。太閤殿下(秀吉)との確執、因縁は有名だが、知っていても読んでいて面白い。

当事者から微妙な距離に位置する者からの視点で、人の心の機微を見事に描いている。文体もなかなか味があり、素敵で魅力的な物語です。人には、生き甲斐が必要ですね。

これはお薦めしてよい小説でしょう♪

吉野葛・盲目物語 (新潮文庫)(amazonリンク)
ラベル:小説 書評 歴史
posted by alice-room at 08:37| Comment(3) | TrackBack(1) | 【書評 小説B】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
私は洞川の河原の洞窟で子供の頃にテントを張って、二度ほど大峰山の沢を目指した事があります。大変不便な所で、奈良交通のバスに乗っているだけで気分が悪くなったのが思い出されます。

谷崎が取材する頃には、より特別な雰囲気があったものと想像します。改めて読んでみたい小説です。
Posted by pfaelzerwein at 2008年08月09日 14:41
alice-roomさん、こんばんは
谷崎の『吉野葛』を読まれたのなら、花田清輝『室町小説集』もお薦めです。
第一話「『吉野葛』注」は、谷崎の小説を材料に使っています。
ご存じかも知れませんが、花田清輝は、澁澤龍彦のお気に入りの作家で、
澁澤の小説のスタイルに影響を与えています。
後南朝つながりで、TBさせていただきますので、よろしくお願いいたします。
Posted by lapis at 2008年08月09日 23:02
pfaelzerweinさん>
おはようございます。
小説の舞台を実際にご存知でいらっしゃるんですね。おお~凄い! 洞窟にテントとは、子供時代でなくてもワクワクするシチュエーションですね!

そうですか、そんなに不便な場所なんですか・・・おっしゃられるように、当時の取材時だったら、その雰囲気たるや格別のものだったんでしょうね。
貴重な情報を有り難うございます。 奈良は桜井を基点にたまにうろうろする程度なので、機会があれば、もう少しあちこち彷徨ってみたいです!!

lapisさん>
いつも本当に素敵な情報有り難うございます。花田清輝『室町小説集』ですね、ばっちり読書リストにメモしました(笑)。
>花田清輝は、澁澤龍彦のお気に入りの作家で、
澁澤の小説のスタイルに影響を与えています。
おおっ、そうなんですか。名前は聞いたことがありますが、読んだ事のない作家さんで知りませんでした。
枕元にある積読本が少し解消した段階で、読んでみたいです♪ TBも合わせてどうも有り難うございました。


Posted by alice-room at 2008年08月10日 08:33
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花田清輝『室町小説集』
Excerpt: 室町小説集 作者: 花田 清輝 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 1990/10 メディア: 文庫  花田清輝の『室町小説集』は、後南朝の歴史を背景に、三種の神器の1つ、「曲..
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Tracked: 2008-08-09 22:47