2008年09月07日

「戦術と指揮」松村 劭 PHP研究所

なんとか潜在顧客を掘り起こそうと『戦術』をやらたとビジネスに関連付けて説明する趣旨が一部に出てくるが(出版社からしてビジネス系だしね)、その意味では完全に失敗だと思う。

著者自身がビジネスに関しては、素人のようで対応付けようとする戦術とビジネス手法が妥当でないと思われる点がしばしば見受けられる。むしろ、自衛隊の作戦参謀であった経験を踏まえ、淡々と自らのご専門について書かれた方がはるかに有意義であったろうと想像される。

それをいかように応用するかは、あくまでも読者側に委ねるべきでしょう。ビジネスとか余計なことを言う割に、本の内容そのものも戦術に関するお話だけに限定されています。

また、戦術の大切さを非常に力説され、勿論、一つ一つの戦闘の勝利が戦略的勝利を支えるというのも分かるのですが、わざわざこの手の本を読んでまでビジネスに利用したいと考える読者層なら、まず部長相当以上のマネジメント層でしょうし、だったら、戦略に資する戦術手法の選択という視点の方がはるかに有用だと思うですが・・・???

内容的には、「大戦略」とかのウォーゲーム好きに受けそうな戦術想定集です。良くも悪くも戦術のみに限定されてますので戦略立案に関して何の参考にもなりません。

まあ、ずらずら~っと批判的なことばかり書いてますが、私的には学ぶべきものがありました。本の主題ではありませんが、軍の組織における『参謀』の役割と機能というのが大変(!)目からウロコでした。

上意下達式のタテの方向に物事が流れる組織で、ヨコ方向に繋げていく『参謀』という存在に改めて強い関心を持ちました。これを知っただけで読む価値がありましたね。

以下、読書メモ:
軍隊(師団を例としている)では、指揮官が一人で決心する。けっして合議しない。指揮系統は明確である。指揮官は歴史的にみれば、原則として部下の生殺与奪の権をもっているが、今日においては、そのいくつかは制限されている。

 指揮官と、その部下である参謀の地位・役割は明確に分けられている。参謀には一切の指揮権はない。参謀は無私の精神によって、指揮官を「補佐」することが使命である。
 
 軍の組織は、上から師団長―連隊長―大隊長―中隊長―小隊長―分隊長である。会社では、社長―事業本部長―工場長―製品部長のラインに相当する。会社の重役は参謀であるのか社長から権限の一部を委任された指揮官なのか分かり難い。
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 軍隊では、作成の成否の責任は、師団については師団長、連隊については連隊長がすべてとる。以下、分隊長にいたるまで、それぞれの指揮官に責任がおかれている。

 しかも戦場においては、突然、指揮官が戦死することが予想される。そのときは自動的に指揮権はつぎの位のものがつぎ、さらにその人が戦死すると、次々位者がつぐことになっている。
 
 さて、師団長、連隊長、大隊長には参謀がつく。参謀組織は、一般参謀と特別参謀に区分され、一般参謀は指揮官を兼務することはない。特別参謀は指揮官を兼務する事があるが、参謀と指揮官の権限は明確にわけられ、その参謀を支援する事務参謀部員も区分されている。

たとえば、師団通信参謀は、同時に通信大隊長であることが多い。しかし、彼を支援する事務参謀部員は師団司令部に席を持ち、大隊長としての彼の補佐をする参謀は、通信大隊に席を置く。混同したり、兼務する事はない。

 一般参謀は「監理・行政」「人事」「情報」「作戦」「兵站」に区分される。そして一般参謀は、そのすべての領域に発言権がある。たとえば、情報参謀であっても、作戦、人事、兵站などに発言権をもっている。

 一方、特別参謀は「総務」「通信」「工兵」「輸送」「航空」「整備」「補給」「化学」「衛生」「会計」「厚生」「警務」などにわけられ、専門的事項に関して、全一般参謀に対しての、調整権をもっている。いわば、一般参謀が横軸、特別参謀が縦軸ということである。

 この結果、軍隊の参謀組織は「縦割り」ではなく、「網型」となっている。このような師団参謀組織の利点は、いずれの参謀も、師団長が承知している状況と同じ範囲の状況を、承知することである。

 なぜならば一般参謀は、すべての領域に発言権があり、最高会議につねに参加する。一方、特別参謀は、自分の専門領域に関して、すべての一般参謀と調整するので結果的にすべての状況を知ることになるのだ。

 連隊、大隊の参謀も、それぞれの指揮官と同じ状況を承知する。したがって、担当参謀が留守の場合には、どの参謀でも、自動的に代役がつとまるのだ。

 これにより、会社や一般官僚における、縦割り組織のもっとも悪い欠陥、参謀の官僚化(自分の領域しかわからない、他参謀の領域に口出ししない、踏み込まない。他参謀の代役をしない。自分の領域の利益のみを考える)などが、軍隊の参謀組織では、おこらないのだ。

 軍隊の参謀組織は一見、複雑で人員が必要なようであるが、参謀全員が師団長のつもりで状況を把握し、師団長の立場にたって問題解決を考えているので、複雑な作戦を、迅速に計画するには、最良の組織となっている。
一切の指揮権が無いんですね参謀って。それでいて、全ての情報を知り得る権限を有するのか・・・。昨今では、体のいいプレイング・マネージャーなどという言葉で一見効率良さそうな・・・その実、ピンポインでの過剰負荷と機能不全な組織などがありますが、『参謀』的な機能を軽視し過ぎた弊害かもしれませんね。

いろいろな点で、大変興味深い限りですね!ふむふむ。
【目次】
第1章 戦いに勝つための9の原則
第2章 基本演習―敵と味方を考える21の質問
第3章 集団における命令の下し方
第4章 『Simulation1 中川盆地における戦闘』―問題解決の思考順序を学べ
第5章 『Simulation2 海に浮かぶ、仮想島“Q島”』―少人数をひきいる現場指揮官の決断
第6章 『Simulation3 Q島における三鷹戦闘団の戦い』―大組織を動かす指揮官の決断
戦術と指揮―命令の与え方・集団の動かし方 (PHP文庫)(amazonリンク)

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ラベル:書評 戦術
posted by alice-room at 08:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 未分類A】 | 更新情報をチェックする
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