2008年09月11日

「ウォール街を動かすソフトウェア」手塚 集 岩波書店

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先日「まぐれ」を読んで、モンテカルロ・シュミュレーターについて興味が湧いていたところ、本書でちょうどそれを分かり易く採り上げていたので読んでみました。

結論から言うと、これは実に良い本です!

まず第一に、
知りたかったモンテカルロ法の本質を理解できたうえに、それが有する限界(乱数があくまでも擬似的なものの為、必ずしも期待通りの理論値に収束しない場合が有り得る)なども分かって、大変勉強になりました。

細かい計算部分は、正直言って100%理解できていませんが、その式が意味するところはなんとか分かりました(と思う)。


第二に、
まさにこのモンテカルロ法によって、途中返済なども含めた複雑な金利計算が可能になり、住宅ローンを証券化したモーゲージ証券の一大デリバティブ市場が拡大していったことを知った。

こう書くとピンとこないかもしれないが、これがまさにサブプライム問題に直結していたりする。恥ずかしながら、本書を読むまで私の中ではそれらが全然結び付いていませんでした。サブプライム問題の基底にも、デリバティブがこれほど関与しているとは・・・。

う~ん、90年代以降の金融問題って、改めて考えると即ち、デリバティブなんですね! LTCMの破綻を契機にしたアレもそうだし・・・。

他にも、おおっ、そうか!っていう感じで勉強になることが多いです。しかも、非常にシンプルに書かれていて数式も最低限度以下しか使われていません(でも、わかんないとこあったけど)。

いやしくも『金融』機関の関係者なら、知っておいてしかるべきでしょう。たぶん、みんな知らないだろうけどね。関心もなさそうだし・・・。

まあ、他人は他人として、単純な知的好奇心のある方でもすんなり読めると思います。もっとも "finance" の講義を受けたことがある方なら、既知のことばかりでしょうけどね。裁定価格理論とか、基本中の基本事項です。

でも、モンテカルロ法が原爆開発の為に生み出された手法というのは知らなかったなあ~。今から20年ちかく前か、その時、教わった記憶がないんだけどなあ・・・。ちぇっ! 知ってたら、修論に絡ましても良かったのに!

数学に抵抗感がなく、経済に興味のある方なら、かなりお薦めです。初心者向けの非常に良い本ですが、最低限度の数学的素養がないと、薄くて分かり易いけど、ついていけないでしょう。ご注意を。

と同時に、本書より分かり易く書かれた本はたぶんないでしょう。
【目次】
1衝撃の手法、ウォール街を走る
2黄金の国ジパングから現代のデリバティブまで
3天文学的な数値計算―デリバティブの怪物
4マンハッタン計画とモンテカルロ法
5ディスクレパンシー法―二一世紀の技術
6未来を予測するソフトウェア
ウォール街を動かすソフトウェア (岩波科学ライブラリー)(amazonリンク)

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posted by alice-room at 21:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 実用・ビジネスA】 | 更新情報をチェックする
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