2008年09月16日

「悪魔のダンス」サダム フセイン 徳間書店

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あの一方的でおよそ公正さのかけらも無いアメリカの侵略戦争の裁判で処刑されたサダム・フセインにより書かれた小説です。

舞台は1500年前のイラク近辺に住む部族。強欲な人物が、よそ者として他の部族に接近し、様々な陰謀を用いてまんまとその部族のリーダーになります。彼はバックにローマ帝国の司令官を携え、配下に従えた部族民を搾取して、ひたすら金銀財宝の蓄積を図ります。

やがて、以前の部族リーダーの娘が誇り高く立ち上がり、反旗を翻してその強欲な人物から、部族としての誇りを取り戻すまでを描いた作品です。

物語自体は、実にオーソドックスな勧善懲悪モノで、アラブ的正義を伝統的価値観に基づき、シンプルに表現しています。決して傑作とは言えませんが、本作品には明確な主張と意図があり、ローマ帝国とはアメリカ帝国主義の暗喩(どっちかというと明愉っぽいけど)に他なりません。

誰もが首肯できる伝統的な『正義』を声高らかに、誇り高く主張しています。まあ、ブッシュさんには書けないでしょうね。

日本のマスコミやアメリカのメディアなど、歪められた情報からでは、想像もできない気高い精神性が感じられます。

また、本書の「はじめに」と「おわりに」では、小説とは全然別な現実のフセインをとりまくアメリカの陰謀や情報操作の一端が紹介されています。

例えば、フセインが捕まった時の映像は全てヤラセであり、盛大な銃撃戦の逮捕後、薬物注射で意識の無いフセインをわざわざ数日後、あの穴に入れて、もっともらしく映像を撮ったとか。

フセインの裁判にあたって、常にリアルタイムと称して20分後(都合の悪い部分を編集する為)の映像が公開されたとか。そもそも裁判は、種々の観点から国際法上も違法であると誰もが主張した代物で、かつての極東裁判を髣髴させる内容だったそうです。

最初はアメリカを非難していた元国連事務総長のアナン氏が息子が散々石油絡みの利権で横領の限りを尽くしていた点をアメリカに突かれ、うやむやになったこととかもしっかり本書では触れている(←以前、何かのメディアでこの特集を見たこともあります)。

他にも無数のアメリカによる情報操作の事例が紹介されたりします。ここに書かれたもの全てが事実かは私も裏をとってないのですが、少なくとも何割かは、確かに私も海外のニュース記事で知っていたことなので、おそらく殆どが事実だと思います。

いかに日本が、そして自分がメディアに踊らされているのかを痛感させられます。アメリカもそうですが、日本のメディアなんて今も昔も大本営発表しかしないもんなあ~。イラクに関する日本のTV見るなら、間違いなく本書を読んだ方が何百倍も有意義です。

とにかくフセインは悪い人物だから処刑されても当然と思っている無知な人は、一読をお薦めします。フセインが決して善良だとは思いませんが、ブッシュ大統領よりはなんぼかマシだろうと思うのは人として当然だと思います。少なくとも、今現在も不法にイラク駐留し、フセインの時よりもはるかに多くの無実の人々を死にいたらしめている現状は、肯定できないでしょう!

あっ、でも最低限、アラブの歴史とか伝統的価値観については、分かっていないとこの小説を理解できません。単なる小説として読んでは、全然面白くないかも? ご注意を。

(余談)
世界初のフセイン作品の翻訳らしいのだが、翻訳者はジャーナリストの方。でも、どういう関係の人物か不明。それによっては、本書自体もバイアスがかかっている可能性があります・・・?

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posted by alice-room at 23:42| Comment(0) | TrackBack(1) | 【書評 小説B】 | 更新情報をチェックする
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サダム・フセイン「悪魔のダンス」を読んだ
Excerpt: サダム・フセイン「悪魔のダンス」を読み終った。 サダム・フセインがアメリカのイラク攻撃直前に書き上げていた小説。ヨルダンで刊行されるや、たちまち発禁になった問題の書
Weblog: 大津留公彦のブログ2
Tracked: 2009-01-07 23:58