
前半と後半は全く異なったものを一冊まとめたことに注意!
後半の絵画評論については、そもそも当該絵画自体があまり私の好みではない為、興味が持てなかったし、評論自体も私を惹き付けるものではなかった。
しかしながら、前半のゴシック建築についての部分は、やっぱり私の好きなユイスマンスだと言えよう。まさにゴシック教会とは、象徴表現にこそ、その意義を見出し得る存在であり、本書の表現を借りるなれば「物質的研究」などでは、その本質を理解し得るものではないだろう。
ごく当たり前のように聖ディオニュシオスが出てくるのが、イイ!(「目に見える生物も事物も、目に見えぬものの光り輝く象徴である」という言い回しを引用している)
エミール・マールの著作を読んでいる事が前提の文章が端々に見られる。
逆に言えば、ゴシック建築に関する基本的な資料が頭に入っていない状態で本書を読んでも、それは真の理解に成り得ないし、ユイスマンスの言わんとする意図が汲めるとはとうてい思えない文章が書かれている。
幸いなことに門外漢とはいえ、一応はそれらの基本資料は読んであるので、私の独り善がりであることを差っ引いても、このうえもなく、共感でき、ユイスマンスがそれほどまでに思う気持ちが痛切に感じられる。
勿論、本書で書かれている錬金術的図像については、そのまま首肯するには、ある種の抵抗を覚えるものの、ニコラ・フラメルの「大聖堂の秘密」を読んでいれば、これも言わんとするところは、十分にその意を汲めるところだろう。
少なくとも予備知識無しに、本書の前半を読んでもそれは無駄だと思う。私自身が知らなかったら、全然理解できなかったと思うからでもある。昔、シャルトル大聖堂に行ったことがない時に読んだ、「大伽藍」は全然その面白さを理解できなかったが、それと同じではないかとも思う。
後半は逆に私の知識がないから、つまらないだけけもしれない。
本書は読み手をかなり選別する作品ではないだろうか? これを読んで楽しめる方は、それなりの素養(準備)がある人だと思われる。
ただ、私は前半を非常に興味深く読めた。同好の志には、一読をお薦めしたい。
【目次】三つの教会と三人のプリミティフ派画家(amazonリンク)
三つの教会
ノートル=ダム・ド・パリにおける象徴表現
サン=ジェルマン=ロクセロワ
サン=メリー
三人のプリミティフ派画家
コルマールの美術館におけるグリューネヴァルト
フランクフルト・アム・マイン
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