普段知ることのない職場として『屠場』を紹介している本かと思って読んだのですが・・・岩波だったし・・・。勿論、どういう職場かも説明されているのですが、かなりの部分が職業蔑視と被差別部落差別に関する話で、正直期待外れでした。
歴史的積み重ねによる偏見や、経済的目的の為の差別の悪用などによって、不当にただ働きをさせられたり・・・という部分を読むと確かに酷いし、あってはならないことだとも思うが、同時に本書の主張には違和感を感じざるを得ない。
搾取されている人民を助けなければ、弱者は連帯しなければ・・・的な
発想&行動って、あまりにも思想的に偏ってない? なんか大昔の社会党系や共産系のアジ演説かと思うほどで、素直に同意できない。
機械化は人間性を喪失するとか、仲間は助け合うのが美徳だとか、本書が書かれた当時であっても、もうそれって忘れ去られたお題目以上の価値はないでしょう。チームワークは大切だけど、馴れ合いとは違う。
どんな仕事でも人は喜びを見出し得るし、努力や向上心は必須でしょう。工場労働であってもしかり。この著者には「TOYOTA's way」でも読んでみろといいたい! まあ、「GOAL」でもいいけどね。
民衆の立場にたって、権力批判(体制批判)という安っぽいジャーナリズム根性が鼻について嫌な感じがした。
興味深い点は、多々あるし、昔は酷かったというのも恐らく事実だと思うのですが、あまりにも特別扱いし過ぎるでしょう。普通の事務員でも過酷なノルマ仕事でつぶれたり、駄目になった人はたくさんいるからね。別に屠場に限定されないでしょう。国内工場を海外に移し、リストラなんてありきたり過ぎて、何を今更だし。それ自体は、純粋な経済活動としておかしくないでしょう。
金持ちとそれ以外の溝は、時代・地域を越えて、それこそ普遍的でしょう。職人技、職人技というけれど・・・そんなの日本の職場なら、当たり前です。大田区の職人技ではないですが、それなりの製造系の会社なら、こだわりとプライドとそれを支える絶え間ない努力&向上心を持つ人が必ずいますよ。
事務職やソフト開発、営業等職種を問わず、大変な努力をして誰からも尊敬を勝ち得るに値する仕事をしている人がいて当然なのだけど・・・。
本書は、なんか視点がおかしいです。機械を使ったり、コンピュータを使う仕事は全て、非人間的で職人技とは異なる世界というのは、あまりにも物事を知らな過ぎますね。
四国のハムの例は、実は知り合いから少し聞いたことがあったのだが、う~ん、実態はいろいろと違うらしい。勿論、知り合いを経由してなのでそれなりのバッファーがかかっているとしても、この本が偏った視点で書かれているのは間違いないだろう。
正直、労働組合史とかそういう系のノリの本です。あまりまともに採り上げるべきではないような気がします。あくまでも個人的な見解ですけどね。
【目次】ドキュメント 屠場 (岩波新書)(amazonリンク)
日本一の食肉工場―東京・芝浦屠場
「職場の主人公は労働者だ」―横浜屠場
仕事師たちのゆくえ―大阪・南港市場
「自由化」という逆風のなかで―四国日本ハム争議
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「世界屠畜紀行」内澤旬子 解放出版社