2008年11月08日

「陸軍中野学校」斎藤 充功 平凡社

「昭和通商」という陸軍の息のかかった商社が存在し、それを隠れ蓑にして中野学校のOBが諜報活動を行ったり、アヘンの密売をしていたというのは、初めて聞く話で大変興味深かったです。

もっとも満州帝国の建国当初の予算の大半をまかなっていたのがこのアヘン販売による利益であったことが昨今では、有名になっていますのでそれを考慮すれば、当然、有り得た話でしょう。

もっとも、こういった知られていない会社以外でも大手の財閥系商社が軒並みその手のことに協力・関与していたのは自明であり、本書で大仰に採り上げられた昭和通商と比較して、相対的な位置付けは分からない。

そもそも本書自体の独自の調査結果や資料はほとんどなく、既存に出回っている本からの孫引きと当てずっぽうの推測の混合レベルで終わっている。それが大変残念だ! 着眼点は面白いのだが、著者の水準が低過ぎる気がしてならない。

最低でも、一次資料ぐらいは自分で当たって調べるべきだろう。本書は各種メディアからのスクラップブックといった感じです。

稀に出てくる著者自身が見つけた情報も裏付けがきちんと取られておらず、全く信憑性が無いように思えてならない。

ただ、本書を今後関連情報を探すきっかけには使えると思う。台湾で軍隊を創設時、日本陸軍の有志(?)”白団(パイダン)”により陸軍のノウハウが伝えられたのは、NHKスペシャルで見ましたが、あそこにも中野学校のOBが関与しているとは知りませんでした。

あと、戦後の大物フィクサー児玉とかね。あれもみんな絡むんだ。他にも内閣調査情報調査室とかの創設の話もあったが、正直構成がヘタ。

なんか素人がとにかく集めた情報を切り貼りしているのが、歴然としているのである程度割り引いて適当に読まないといけません。まあ、著者の経歴を見ても、きちんとした論理的思考は苦手そうなのが、分かるんですけどね。

流し読みなら可かと。お薦めはしません。インテリジェンスの意味さえあやふやな理解をしているレベルです。
【目次】
序章 幻の商社「昭和通商」
第1章 知られざる阿片ビジネス
第2章 陸軍中野学校の誕生とその教育
第3章 陸軍中野学校と太平洋戦争
第4章 特務機関の栄光と挫折
第5章 陸軍中野学校が戦後に遺したもの
終章 中野学校終焉の地を訪ねて
付記 ワシントンで繰り広げられたソ連の秘密戦
陸軍中野学校 情報戦士たちの肖像 (平凡社新書)(amazonリンク)

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ラベル:書評 昭和史 諜報
posted by alice-room at 08:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 歴史B】 | 更新情報をチェックする
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