2008年11月09日

「男が女を盗む話」立石 和弘 中央公論新社

源氏物語の中でも若紫が大好きで、学生時代は原文でそらんじていた私ですが(あと夕顔のところも)、今年は源氏絡みで盛り上がっていることもあり、少し気になっていたタイミングで見つけて読んだみました。

但し、時間がなくて飛ばし読み。

源氏物語に限らず、古典の中で「女性を略奪して妻にする」類型とおぼしき題材を採り上げ、昨今の映画やアニメまで幅広くカバーしつつ、論拠を示しながら詳細に分析していく。

従来、何気なく読んでいた箇所が筆者の視点でみると、そこの背景にある当事者の女性の心情は、表面的に現われているものとは全く異なるものとなり、大変興味深い。

ある程度、古典を読んで分かったうえで、筆者の視点を取り入れることで更に読みを深化させていけるのではないかと思う。

その反面、あくまでも筆者の視点は、現代人としての価値観の下で、当時の女性の置かれた状況を理解し、心情を解するという枠の中で進むため、そこが明確な限界であるようにも感じられた。

即ち、当時の人が当時の価値観の中で幸せを定義した場合、筆者の考える現代人的な幸せとは異なるのが当たり前であり、当時と今のそれぞれの幸せについて絶対的な良し悪しはないのだが、暗黙のうちに現代の価値観を押し付けていることを認識できていない。

まあ、この手の文化論にありがちではあるが、西洋人が西洋以外を理解・評価する際に、自分の尺度でしか判断できないのでいるのと同様に、現代人は現代の価値観というtemporaryな尺度でしか、歴史上の一時期を測ろうとしないものである。しかもそれを無自覚でやるので、タチが悪い。

その辺をクリアすれば、面白いかもしれないが、そこから何が言いたいのか?という点については、何も無い様な気がしないでもない。まあ、視点移動の一つとしてなら、価値を見出せるかもしれない。

だが、あえて読む必要は感じなかった。

男が女を盗む話―紫の上は「幸せ」だったのか (中公新書 1965)(amazonリンク)

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posted by alice-room at 01:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 未分類A】 | 更新情報をチェックする
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