2005年12月25日

「鯰絵」宮田 登、高田 衛他著 里文出版

しんよし原大なまずゆらひ

他の亙版の本や、印刷博物館で本物の鯰絵を見て漠然と関心を持っていました。鯰が地震を起こすので鯰が暴れないように押さえつけておくのが要石(かなめいし)。茨城の鹿島明神が要石で鯰を押さえているというのが、なんともユニーク。絵面も面白いし、なんか惹かれてしまう魅力があります。

鯰と地震の話は、誰でも知っているくらい有名ですが、地震が起こった後に鯰のせいだというだけで終わらないのがイイ! 地震は、確かに建物を壊したり、世の中を混沌とさせるのですが、壊れたら新しいもので立て替えなければならなくなるように、必然的に新しいものを生み出す原動力にもなるんですね。逆に、マイナス面のイメージが強い地震を積極的に、「世直し」鯰などという絵で捉えるような考え方があったというのには、驚かされます。

切腹鯰、小判が腹からザックザク

江戸時代にあった身分制度や武士よりも羽振りのいい商人の存在など、社会的矛盾などへの鬱屈した思いが、こういったものにも反映されているのかも? 今の日本にもある閉塞感にもつながるような気がします。

まあ、そういう背景的なものをおいておいても、単純に見ていて楽しいです♪(笑顔)

鯰の宝船

鯰に乗った宝船に、落語鯰亭の一席。何故に鯰が宝船とかかわりを持つかと言いますと・・・? この絵とかってどういう意味だか想像つきます? 資産を持つものにとっては、地震等の災害は損失以外の何物でもないわけですが(当時、保険がないので)、持たざるものにとってはむしろ、建設ラッシュなどで雇用が増えるし、資産家からの出費で貨幣流通量も増え、景気がよくなるわけです。要は、不況だから政府主導で公共事業を増やせというケインズ経済学そのまんまだったりします(笑)。

まあ、実際、それで庶民にとってはかえって景気が良くなったものも多く、社会全体面からも地震はマイナス面ばかりではなかったようです。

鯰と職人達

特に地震で儲かった建築絡みの職人達が、大恩人の鯰様を囲んで楽しく一席を設けている風景です。ヒューザーの社長や姉歯建築士とかも混ざっていそうですね(苦笑)。

仮宅遊

吉原も当然そのままでは営業できず、復旧されるまでは仮宅での営業となります。あくまでも応急処置としてなので、通常の面倒な手続きを省き、その分値段を安くしたので通常にも増して、商売大繁盛!! まさに鯰さまさまってな感じも嘘ではないようです。

しっかり品定めをしている鯰のお客さんがなんとも心憎いです。まさか、ひやかしじゃないでしょうね(笑)。

この本は、資料としてはなかなか興味深いものがたくさん集められています。資料としては結構、有用かも? その一方で、鯰絵の資料ではなく、鯰の資料であったり(鯰の種類についての写真)、集まられている文章も鯰絵の範疇から悪い意味でそれていて、なんでこの本に入っているのか分からない文章も散見されるのはどういうことでしょう? 編集者の意図をいささか疑う側面があるのも事実。7千円出す以上、資料集としてなら、それに徹して欲しかった。言葉を悪く言うと、ただなんでもいいから鯰絡みのものを集めたとさえ言えてしまうのが悲しい。

面白い本であり、嫌いではないが、7千円の価値はない!と思う。それゆえ特価書籍として出回っている事実は首肯できる結果である。3千円以下で新品が入手できるはず、それ以上の価値を見出すのは難しいかもしれない。

おしいんだけどねぇ~、あまりにも無駄が多い。情熱に伴う余波としての無駄ではなく、ただ紙面を埋める為の無駄としか思えないのが、非常に悲しく感じる。何故、せっかくの鯰絵なのに、そのテーマでもっと&もっと掘り下げないのだろうか?あれだけの大部の作りに、値段設定。どう考えても一部のマニア的な層しか買うわけない商品なのに、その層の目の肥えた人がこの本を欲しがるとも思えない。少しはそそられるだろうけど・・・ね。それだけが本当に残念!

面白い素材と資料が集まっているのになあ~。安いのがあれば、手元に置いておく資料系の一冊でした。

鯰絵―震災と日本文化(amazonリンク)

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posted by alice-room at 15:44| 埼玉 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 美術】 | 更新情報をチェックする
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