2006年01月02日

「聖骸布血盟」フリア・ナバロ ランダムハウス講談社

seigaifu.jpg明けましておめでとうございます。今年一冊目のレビューです。 皆さん、今年も宜しくお願いしま~す!!

本屋で平積みのものを見たときから何度も手に取り、読んでみたいなあ~と思っていた本でした。ちょっと前に「トリノの聖骸布」の本を読んでいましたが、すっごく面白かった本でそれもお薦めですが、その本で出てきている仮説をほとんどそっくり採り込んで脚色してあるような感じです。勿論、小説は小説として独自の面白さがあるんですが、原著の著者がベストセラーだったあの本を読んでいるのは間違いないでしょう。それがいい意味で解釈・発展させられて小説化されています。以前に羽村さんからコメントでこの本を紹介されましたが、本当に面白いです(笑顔)。

聖骸布を保管するトリノの大聖堂で相次ぐ火事や事故の数々。歴史的にみても偶然と言うには不自然なほど、度重なるこれらの出来事の背後には、何かがあると思われた。そして、それらの事故の現場で発見される舌を切り取り、指紋を消した焼死体や不審人物。イタリアの美術品特捜部の部長は、直感的にそれらの事柄が偶然ではなく故意によるものではないかと思い、捜査を進めていく。捜査に当たる特捜部の面々には、情報の専門家や美術史学の博士号を持つ者もおり、優れた学識と専門知識を駆使しながらも、一流の直感に従い、歴史の闇に隠された真実へと迫っていく。

一方、キリストのお姿を写したと言われるキリスト教世界においては、唯一無二の聖遺物を巡って過去において秘匿されてきた真実の存在。いにしえより連綿と受け継がれてきた秘密結社の存在とその存在理由。彼らは決して歴史の表面に出ることないが、古代と代わらず、この現代において社会において枢要な指導者的地位を占め、彼らの属するべき組織の使命の為に、献身的な犠牲を捧げている。彼らの使命とは何なのであろうか?

現代で進行する事件と共に、並行的にイエスが起こした奇跡である聖骸布伝説の真相が語られていきます。更にその過程で登場してくる、あの謎に満ちた伝説に他ならないテンプル騎士団が下巻以降に大活躍をしてきます。聖地エルサレムを奪還し、キリスト教国を打ち立てた彼ら。ソロモン神殿跡に本拠地を定め、イスラム教への理解も深く、西欧に初めて近代的な金融機構を生み出したともされる彼らの行動には、謎が多く残っています。本書に出てくる話は、ある程度まで史実に残っていることであり、それを踏まえてこれまでたくさん出されてきた類書「トリノの聖骸布」「レンヌ=ル=シャトーの謎」の美味しいところを十分に取り入れてうま~く料理しています。

本当に、途中まではすっごく面白いです。元旦から、一気に読み巻くってしまいましもん、私。でも、あれだけ引っ張っていてラストが無理矢理というのが非常に残念。後半から謎解きに参加して、いい具合に歴史的な謎に肉薄するジャーナリストも結局、なんの役にも立たないで中途半端な役所なのは??? 強引に、謎解きの過程で解明した事実を集約して最後にまとめようとしているんだけど、ここもいささか投げやりでいただけない。最後の最後まできっちりとしめて欲しかったけど、とりあえず謎が解ければ、出てきた人達をみんな殺しちゃうってのは、乱暴過ぎませんか???(生き残っている人もいるけどさ)

これ以上書くと、ネタバレになりますので控えますが、最後の部分の7分の1か8分の1はつまんないです。途中まで興味深く引っ張ってきただけに口惜しい限り。最後の謎解きもそれぞれの組織がどのように行動しているのかいまいち分からないところがあるし。ここまで来たんだったら、バチカン内部の組織にまでもっとも克明に叙述してくれてもいいのにね。ちぇっ、いささか消化不良気味。

とまあ、不満も残りますが、途中までは文句無く面白いと思います。とりあえず、楽しめたのも事実。この本に書かれていることのどこまでが事実で、どこからが有名な本の仮説であり、どこから小説独自の脚色なのか、それが分かるともっと楽しめるかも? 知らなくても楽しめるけど、トリノの聖骸布に関して基本的な知識があればあるほど、本書は楽しめると思います。できれば、「トリノの聖骸布」だけでも先に読んでおいた方が絶対に面白いですよ~♪

なお、基本的に本書はいわゆる陰謀史観によるものです。ルイス・バーデュー氏の著作に似ているかな?あそこまでアクション・シーンに固執したエンターテイメントになってないけど、どちらかというとそれ系です。そうそう、著者の母国のスペインでは、映画化が決まっているそうです。そのうち、DVDかなんかで観てみたいですね。日本で公開するなら、映画館で観るのも考えますが、その前にダ・ヴィンチ・コードを今年は観ないとね♪

そうそう、本書全体を通して似ているかなあ~と思ったのが「クムラン」。こちらの方が出来はいいかもしれません。ご興味のある方はそちらもどうぞ! メチャクチャに奥が深いです。

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聖骸布血盟 下巻(amazonリンク)

関連ブログ
「トリノの聖骸布―最後の奇蹟」イアン・ウィルソン 文芸春秋
『トリノの聖骸布』の印影は復活の時のものか
「荒俣宏の20世紀ミステリー遺産」集英社
「テンプル騎士団 」レジーヌ・ペルヌー 白水社
「レンヌ=ル=シャトーの謎」 柏書房 感想1
「聖ヴェロニカの陰謀」ルイス・パーデュー 集英社
「クムラン」エリエット・アベカシス著 角川文庫 
posted by alice-room at 14:03| 埼玉 ☁| Comment(8) | TrackBack(2) | 【書評 海外小説A】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
明けましておめでとうございます!

今年も多くの興味深い作品のレビューを心待ちにしております♪

聖骸布と併せてモザイク画や地下墳墓の石棺彫刻など、初期キリスト教におけるイエスの図像を調べていくとかなり深まりそうなネタですね。

私のレビューはちょっと辛口になってしまいましたが、下巻はまだなのでまたがんばって読んでみます(^^;;
Posted by Megurigami at 2006年01月02日 17:44
明けましておめでとうございます。
モザイク画や初期キリスト教徒が残した魚の絵なども興味深いですね、ほんと。個人的には特に聖遺物関係になんか惹かれてしまいます。

この本は、小説としては結構辛いものがあるかもしれません。私の場合は、ちょっと違う見方をしていたので楽しく感じたのかも? 今年もいろんな本を読んで行きたいですね!今年も宜しくお願いしま~す。
Posted by alice-room at 2006年01月02日 21:19
新年からお越しいただき、ありがとうございました。今年も興味深い本の紹介、楽しみにしています!

いつもながらの面白いレビューを書いていらっしゃいますね。私は、どうしても小説としての欠点が気になってしまった作品でしたが、現代の事件と平行して描かれる聖骸布伝説は面白かったです。伝説に関する素材の料理の仕方は、文句なし。その分、最期の展開やキャラクターの描き方が残念でなりません。(でも、次回作にも期待してしまいます。)
Posted by ありま at 2006年01月05日 13:50
ありまさん、明けましておめでとうございます。こちらこそ、コメントどうも有り難うございます。おっしゃる通り、小説としてだけみるとちょっと・・・?かもしれませんね(同感です)。特に最後のアレは~、ちょっと困りますね。

でも、ほんと素材がいいとそれだけでここまで引っ張られてしまうといういい例でした。こういうの弱くって・・・(笑)。これを読んでしまうと、聖骸布自体への興味が益々増してしまい、次の公開時には絶対に行くぞ~!! なんて勝手に思っております。トリノで是非、本物を見たいですねぇ~。今年も宜しくお願いします。
Posted by alice-room at 2006年01月05日 22:28
新年早々TBありがとうございます。
私もダヴィンチコードにはまった一人です。
元旦には映画のCMが流れていましたね。
コードを読んでいる人にはすぐわかるシーンがありました。
ラングドンが例のビネガー入りのものを投げ上げるシーンが。
映画が楽しみですね。
今後ともよろしくお願いします。
Posted by bonejive at 2006年01月06日 22:31
bonejiveさん、こんばんは。CMはちょこっとしか見てないんですよ~。そのシーンまだ見ていないかも? どんなだろう?見てみたいなあ~。意識してCM探してみま~す!!
映画面白いといいですね。私も楽しみです。こちらこそ宜しくお願いします。
Posted by alice-room at 2006年01月06日 23:07
今、読み終わりました。
絶対alice-roomさんは読んでらっしゃると確信して
ブログ内検索をかけたらやっぱり!
素材はピカ一ですよねえ。
二重の構成にしたのもいいと思うし、alice-roomさん
のお話を伺うと、生地にもいろいろいいネタを
盛り込んでいるようで・・・・
面白かったし、一気読みはしましたけれど・・
な~んか「けれど」がついちゃうんですよね。
最後はがっかり。
最終段階にかかったとき不安はあったんです。
ページ数に比べて話しの展開が、っていう。
やっぱりがっくりでした。
美貌で秀才のソフィアさんにも感情移入できず、
単なる捜査官の給料でアルマーニ衝動買い?!
ジーンズなんかのカジュアル服もしっかりヴェルサーチ??
どんだけ金もってんじゃい?!
なんてね。
嫉妬心??ははは、でも、女性読者にこの感情を
抱かせたら駄目ですよ~(笑)
Posted by OZ at 2010年02月28日 03:51
ストーリーの出だしから、しばらくは結構読者を引っ張るので、期待させてくれるんですけどねぇ~。

逆に最後の方がおっしゃられるように、ちょっと・・・なあ~? というのは残念ですよね。

>嫉妬心??ははは、でも、女性読者にこの感情>を抱かせたら駄目ですよ~(笑)
しかし、OZさんのこの観点には気づきませんでした!

普段ブランド物は、眺めるだけで素通りしてしまうタイプなのでそれを聞いてなるほど!、と思いました。

改めて思いましたが、本っていろんな見方ができるもんですね!
Posted by alice-room at 2010年02月28日 12:51
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