現代ではなく、本書の書かれた時代を考慮しなければならないんだろうとは思うのですが、ローマ帝国を扱った歴史の本を何冊か読んだことのある私にとって、本書の考察はちっとも面白くないし、着眼点も分析も鋭さを感じることなく、感銘を受けません。
端的に言うと、凡庸に思えてなりません。というか・・・かなり偏っているように思えてならないんですが・・・。
共和制の限界から、より現実的対応の模索による結果としての帝政の採用と無学な私は捉えるのですが、著者は違うそうです。共和制の放棄こそがローマ衰退の原因らしいです。
カエサル嫌いみたいだし・・・。
「ガリア戦記」大好きの私としては、見方が違うようです。まあ、権力者とか為政者、大っ嫌いなタイプだろうからなあ~(笑)。
皇帝の親衛隊の役割や、蛮族たるゲルマンの受け入れなどの解釈の仕方もどうなんでしょう。当然、一面的には妥当な説明もありますが、組織は当初の目的を失って、ひたすら自己拡大を目的化するものであり、目的も有り様も変質していくのが内在する宿命なのは、堺屋太一のおっさんの書く「組織の盛衰」に的確に指摘されてますからねぇ~。
あっちの方が考察が鋭いし、歴史を踏まえた組織論としては興味深いです。もっとも、過去の著作や研究を踏まえているのだから、後世の方が有利なのは自明ですけどね。
正直なんかなあ~と思ってしまいます。まあ、なんと言っても大衆の力に、思想家が幻滅を抱く以前の時代ですからね! 夢のある頃の話ですね。
フランス革命の「自由・博愛・平等」の名の下に、破壊された神々しきステンドグラスや聖遺物等々を思うと、『個人の尊厳』自体の虚構性に呆然自失になります。
かつてそういったものの崇高さに憧れ、夢見ていた頃のあった自分ですが、今だったら迷わず、力(=権力や制度的な圧力)で押しつぶし、秩序の回復を最優先にするなあ~。
『啓蒙主義』やら『理性』なぞとうそぶくお調子者に踊らされ、何物も自分で判断しない民衆に、さて『自由』は必要なのでしょうか?
政府を批判しながら、政府に面倒を見てもらおうとする国民とそれを煽るだけのメディアなど醜悪なモノが跋扈する現代ですが、そのはしりのような気がしてなりません。
同じ改革でもまだルターの方が理論的にも面白いけどなあ~。結果は、最悪ですけどね。
個人的には、相当偏った視点での歴史論だと思いました。全くお薦めの対象外です。もっと面白い本読みたいです!
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「ローマ」弓削 達 文芸春秋
「ローマの歴史」I. モンタネッリ 中央公論社
「カルタゴ人の世界」長谷川 博隆 講談社
「カルタゴの興亡」アズディンヌ ベシャウシュ 創元社
「ハンニバル」長谷川 博隆 講談社
「ゲルマーニア」コルネーリウス・タキトゥス 岩波書店
「西ゴート王国の遺産」鈴木康久
「コンスタンティノープルの陥落」塩野 七生 新潮社
「生き残った帝国ビザンティン」井上浩一 講談社
「コンスタンチノープル征服記」ジョフロワ・ド ヴィルアルドゥワン 講談社