
ケルト独特のケルト十字やケルズの書にみられるケルト独自の装飾紋様などは、それだけでも一見に値しますし、図説というだけあって写真も多いうえに、紙面数からすると簡潔ながらも分かり易い説明も僕は好きでした。だってこの本見てたら、今まではアイルランドとか全くと言っていいほど興味無かったのに、実際に行ってこの目で見たくなってしまいました。ケルズの書も話には何度も聞いていたけど、こういうものなんだって写真を見ているうちにトリニティカレッジ(ダブリン大学の図書館蔵)行くべし!と安易に思ってしまっている自分がいたりする(単純過ぎだって!)。行けばすぐ見られるのか分からないけど・・・?

この本の中でも紹介されてますが、ケルトの影響を受けているものとしてアーサー王の話(アヴァロン島)やカエサルの書いたガリア戦記など、その手の本は既に何冊か読んでいて断片的なケルトの予備知識はあったんですが、この本を読んで初めてそのジグゾーパズルの断片が有機的に結びついてきたような気がします。以前、他の本を読んでへえ~って思っていたケルトにおける3人1組の女神がキリスト教の三位一体と意図的に混交して次第に、すり代わっていく話などケルトのことを知っている人にはすぐに思い付く当たり前の話であることも納得できました。と、同時にちょっと前から私がはまっているシャルトルにあった地下の泉と黒い聖母がケルト以来の異教の女神(ドルイド教由来)というのも、なるほど~っと思いっきり頷いてしまうくらい違和感無く受け入れられてしまいます。逆に自分がいかにケルト文化を知らないできたのかを痛感させられてしまいます。そういうことを知らないと、ロマネスク建築やゴシック建築の教会のガーゴイルに彫られた怪しい怪物や悪魔の姿の意味が理解できないということを再認識しました。

前から漠然と読まなければいけないなあ~と思っていた「聖ブレンダンの航海」。この本を読んでいて必読の書だと感じました。
~以下、引用~
物語は修道院の院長を勤めていた聖ブレンダンのもとに一人の修道士が訪ねてきて西の海中にある聖人の「約束の地」に行くように勧める。聖ブレンダンと選ばれた修道僧たちは船を作って漕ぎ出す。彼らの航海は風任せ幾度と無く、漂流も体験するが、その途中で不思議な光景を目にする。島だと思っていたが実は巨大な魚だった「ヤコニウス」、人の霊魂が白い鳥の姿で集まっている「鳥の楽園」、怪物達、グリフォンなどの怪鳥たち、巨大な果物でおおわれた「ブドウの島」、地獄の淵にある「鍛治の島」、悪魔のいる「炎の山」などの遍歴ののち、一行はとうとう「約束の地」に到着する。しばらくはそこに滞在してから無事にアイルランドの修道院に戻り、この不思議な船旅の体験を語ったという。
うわあ~こんな粗筋読んだら読まずにいられません。思いっきりケルトの要素満載だし、アーサー王のアヴァロンにつながるケルト的な異界(海上や地下)への憧れがそのまま重なりますね。こういうのを知ってないと楽しく中世美術や建築を楽しめませんね。う~ん、知れば知るほど興味が深まり、情報や歴史を知りたいという欲求が高まって困ります(笑)。

こういったもの以外にも文字を持たず、自らの記録を残さなかったケルト人達についてローマ人やキリスト教神父らの残した彼らの目から見たケルト人の習俗もなかなか面白いです。それらからの引用でちょっと気になったのがアイルランド王の即位式での馬に関する奇妙な風習について。
~以下、引用~
人々が一ヶ所に集まると白い馬が連れてこられる。即位する者…君主よりも獣、王よりも無法者…は皆の前で馬と獣のように性交する。それから馬は殺され、解体され煮られる。そして同じ汁でかの男の風呂が準備される。彼は風呂に入ると周りを取り巻いている人々とともに馬の肉を食べ、また風呂の肉汁を器も手も使わずに口をつけて飲む。このような邪悪だが慣習的な儀式が完了すると、彼の支配と王権は神聖化されるのである。
王の即位式に関して馬が殺され、性交の真似事が行われるのは古代インドの王即位儀式にも見られるそうです。ちょっとショッキングな話ですが、これを読んでて思い出したのがイマイチ期待外れであまり面白くなかった本、「河童駒引考」。河童が馬を川に引きずり込む話の原型・類型を世界中から探す過程で、世界中に存在した牛を神聖視する文化(これが後に馬の神聖化にとって代わられる)の話です。ここで出てくる馬の神聖化、それと性交や食することで同一化するというのは、まさに王権の神聖化と確立そのものの儀礼だなあ~と。あの本は読んでる時は面白くなかったけど、どこでどう結びついてくるか分かりませんね。神聖な馬の話を知らなければ、古代の猥俗な風習で終わってしまうところですが、背景を知っているとまた異なった解釈ができるんですから! 何でも知識は無駄になりませんね。ヨシ、これからも頑張って読書するぞ~!!(と威勢だけは良い私)

話はだいぶ飛びましたが、ケルト初心者にはきっといい本だと思います。写真が多いし、飽きずに読み進められますしね。これをきっかけにして著者の鶴岡氏の本をいろいろ読んでみるといいかも? 今まで全然知らなかったのですが、この鶴岡氏本当にケルト関係の本ばかり書いてますね。どれも面白そうなのが多いのでおいおい何冊かは読んでいこうかと計画中です。いやあ~楽しみです♪
図説 ケルトの歴史―文化・美術・神話をよむ(amazonリンク)
関連ブログ
「ケルト神話と中世騎士物語」田中 仁彦 中央公論社
「黒マリアの謎」田中 仁彦 岩波書店
「アーサー王の死」トマス・マロリー 厨川文夫・圭子訳
「トリスタン・イズー物語」ベディエ 岩波書店
「河童駒引考」石田 英一郎 岩波書店
聖ブレンダンの航海譚 抜粋
2枚目の写真、中学生か高校生の頃、あんまりにも綺麗だと思って一目ぼれして、書籍から印刷して下敷きに挟んでましたよ。
つい、懐かしくて。
でも、本当に綺麗だし、こんなデザインの写本がこの世の中にあるんだと知っただけでも嬉しかったです♪ きっと、そのうちケルト詣での旅に出てしまいそうです。今年はどこに行こうかな・・・?
私はナショナルジオグラフィックマガジンなんか
が好きで、アフガニスタンの少女の写真などは、
特に興味深いものがあります。
アフガニスタン人の一般的な人々は黒目・黒髪の
典型的な顔立ちで、その中にまれに不思議な瞳を
持った人がいるようですが、
最近、ウェールズ人の人で瞳の色が黒・赤・薄茶
・水色という4層構造になった極めて珍しい人を
見かけました。 ケルト民族には、人種的によく
発現する現象なのでしょうか?
アフガニスタンの人ってかなりくっきりした顔立ちをした方多いですよね。西洋の人が考える東洋の人って感じかもしれませんね。
>ケルト民族には、人種的によく発現する現象なのでしょうか?
いやあ~、私はその辺のこと全然知らないんです。お役に立てなくてすみません。ウェールズというとかなり独特の言葉や風俗の土地でしたよね。人種的には、どういった分類になるんでしょう? 未だにロンドンぐらいしか行ったことがないので、そちらの方にも是非行ってみたいとは思っているんですが・・・。いろんな意味で興味深い土地であり、人だと思うんですが・・・。
ケルト模様については「ガイアシンフォニー」で初めて知って、キルトに使いたいと思い、鶴岡先生の「ケルトー装飾的思考」という本を読みましたが、図がモノクロだったのがちょっと不満だったので、本屋でこの本を見つけて衝動買いしたのでした。
「ダロウの書」「ケルズの書」の渦巻きや組紐模様はすばらしかったです。
それを生み出した、聖ブレンダンの航海譚など、関心の幅が広がっていって実に面白いですね♪
TB&コメント、どうも有り難うございました。