
主人公は、知能的にはバカではないが、人としてちょっとバカではないかと疑いたくなるような素直な青年。本書の中での属性としては、童貞・青年・純朴な善人。
舞台は滋賀県にあるという雄琴(ソープランド街)のソープランド。
主人公は、友人に騙されて新宿のボッタクリバーで働いているところで、更にヤクザに騙されて関西にまで連れていかれて、労働力として酷使される。
勿論、人としてはいい人なのだけど、どこかある一線で怠けていて、いいように翻弄される人生を送っている。他人事ながら、こういうのは大嫌いだったりする。
自分の意思で努力できるはずだし、環境を変えられるはずなのに、グダグダ言い訳しつつ、結局、最低限のことしかせず、現状の環境に甘んじる奴。口惜しいというか、悲し過ぎて嫌い。
善人であるだけで、救われるなんて、怠け者の共同幻想みたいなもんでしょう。世界を見てみれば、どんなにいい人であっても、ゴミのように殺され、捨てられ、人権なんて踏みにじられてるし・・・。
まあ、久々にいささか思うところがあり、感情的になってしまうのには、実は前振りがある。本書の前に寺山修司の本を読んで(まだ書評書いてないのだが)、あまりの貧乏臭さ・偏狭さを恥ずかしげもなく、曝け出す内容(更にそれで売文しているあざとさ)に怒りまくって、不快感に襲われていた余韻がまだ残っているせいでもある。
むしろ、寺山氏の本と比べると、本書の悲しさは、いとおしい感じさえしてしまう。金で体を売る女性を、汚れているとかいないとか、千年使い回されてきたフレーズあり、童貞青年のためらいと葛藤など、確かに青春小説なんて今時聞かない巻末の紹介文を見た日には読む気も失せますが、でも嫌いではない。
全体として70年代の表現であり、まさに舞台もその頃からそれよりちょい昔(?)ぐらいの設定みたいだけど、人が生きている不条理さというか、悲哀感が漂っている。
時々、え~と思うほどのリアル感のある描写(実際、どうなのかは不明ですが)には、それだけでも切り取られた社会の一場面を見ているようで、なんか興味深いです。
現代版「墨東奇譚」といったら、誉め過ぎだろう。目線が全く違うし、金持ちのディレッタントと貧乏人では、比較するまでもない。でも、本書の異様なまでの現実感は、ちょっと気になると思う。
後書きに、実際に著者がバイトとして働いた経験がある人から話を聞いたことが述べられている。それがどこまでが真実かは知る由もないが、本書を他の類書と違うものにしている一因ではあると思った。
面白いというのは違うが、読後にふと何か感じたことがあった点は付け加えておきたいと思う。悲しさと何かの混合物のような何かが・・・。
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