2009年03月30日

「アラビアンナイト」西尾哲夫 岩波書店

私が以前読んだのは、岩波文庫の「完訳 千一夜物語」全13巻だったが、途中でしばらく放置した期間があったものの、内容の面白さ故に結構、順調に読破できたことを覚えている。

バートン版やマルデュス版の違いとか、実は読書中は全然知らず、当初はそのまま素直に中近東の昔話・伝承と素直に思っていた。

本書を読んで改めて、アラビアンナイトというのは、元々あったものではなく、東洋に対する憧憬から生み出された異界へ対する共同幻想の産物のようなものであり、ある種、人工的に作られたものであることをようやく知りました。

シンドバッドの冒険が千夜一夜物語に紛れ込んだことは、以前何かの本で読んだことがあり、別途翻訳されたものも確か持っているのだが、読まずにどこかに隠れているらしく、本書を読んで大変気になった。

まあ、何はともあれ、アラビアンナイトがどのようにして生まれ、それがどのように西欧で受容され、日本を始め西欧以外の世界中に拡散していくその変容過程は、大変面白いです。

時代的背景や各国の抱く東洋への思い入れ、政治的思惑等々が混沌して自分たちの求めるアラビアンナイトを生み出していく様は、まさに物語の誕生であり、子供向けの教訓有り童話から、大人向けの好色文学までいかようにも分化をしていく多様性は、地域を越え、時代を超え、文化を越えて現在も進化しているのは、全く同感するばかりです。

本書は物語の内容や主題を扱うものではなく、その文化的価値や受容の変遷等、多方面からの視点でその存在そのものを捉えようとするものであり、類書をあまり見たことがなかったので大変興味深いです。

ついでに日本での歴史的な翻訳事情なども書かれていて、そういう点でも楽しかったりする。直接関係ないものの、「西洋珍説 人肉質入裁判」は個人的には大爆笑した! ちなみに勘のいい人は気付いただろうが、「ベニスの商人」の邦訳タイトルです。最初、ホラーかと思った。

インドっぽい服装の挿絵を大して違和感なく眺めて育ったけど、本書を読んでなるほど(!)、初めてそのおかしさに気付きました。まあ、私のセンスもその程度のもんです。他にも気付かされることの多い本でした。

読んでおいて悪くは無い本でしょう。
【目次】
第1章 アラビアンナイトの発見
第2章 まぼろしの千一夜を求めて
第3章 新たな物語の誕生
第4章 アラブ世界のアラビアンナイト
第5章 日本人の中東幻想
第6章 世界をつなぐアラビアンナイト
終章 「オリエンタリズム」を超えて
アラビアンナイト―文明のはざまに生まれた物語 (岩波新書)(amazonリンク)
ラベル:書評
posted by alice-room at 21:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 未分類A】 | 更新情報をチェックする
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