
SFを空想科学小説ともいいますが、本書を指していうならば妄想科学小説とでも申しましょうか? 人間の頭の中で作り上げられるありとあらゆる奇想・空想・仮説・こじつけ等々が独自の論理性・合理性を伴いながら展開されていきます。話はそれこそあちこちに飛びまくりますが、それらの全然違った話の一つ一つがそれなりに興味深く、長編で読破をくじけそうになりながらもようやく読み終えられました。もっとも、ここに書かれた内容をどれだけ理解しているかというのは置いといて、別の話ですが…(アセアセ)。
ただ、一見適当に頭の中で想像して書いてるだけに見えながら、著者がどれほどたくさんのことを調べ、幅広い教養の中からこれらを結びつけ、組み合わせているかは驚愕するほどです。西洋の古代・中世・近代に至る、まさに教養というか基礎知識を持っていればいるほど、楽しめる作品なのかもしれません。私も一部は、あのことを踏まえているんだなと分かる部分もありましたが、正直全然ついていけていません。
それでもそれなりに面白かったのは、思考方法がある一定の論理の下で純粋理論上の展開をしていくことや、聖書を合理的・科学的に解釈しようとする神父の発言なども当時の社会では実際にしばしばあったようで、なかなか楽しかったりする。真面目に史実として、聖書を読み解き、そこで起こったノアの洪水や地獄を科学的に説明しようとするのは、たくさんの本に書かれていたのを読んだことがあったので、それらを思い出し、ふむふむと頷いてしまいさえした。
ただねぇ~、やっぱりキツイと思う。普通の人が読むには、宗教的思弁や哲学的思弁に慣れていないとすぐ挫折すると思う。その手のが好きな人には、はまるんでしょうけどね。結末もかなり苦しいでしょう。私にはその前に姿を消した人もどうなったのか、分からないままでいささかストレスです。最初から、最後まで全ては誰かの想像で終わってしまう内容ですし…。
この本を面白く読める方、ちょっと尊敬しちゃいますね。いろいろとつっこんで感想を聞いてみたいかも?
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