2006年01月19日

聖ブレンダンの航海譚 抜粋

こないださんざん酷評した「聖パトリック祭の夜」 の中で、ここだけは大切!と思ったところです。この話だけ知りたかったので後は全部(私的には)不要でした。う~ん高い買い物だった(涙)。そのまま、抜き書きするには、ちょっと文章が長過ぎて抵抗感があるんですけど。英文があれば自分で訳してメモするんだけど・・・。仕方ない、そのまま本より引用してしまいます。だって、この話は知っておかないといろいろと困るし…。でも、本はもう要らない。

聖パトリック祭の夜―ケルト航海譚とジョイス変幻(amazonリンク)

関連サイト
聖ブレンダンの航海
curragh様の大変詳しいサイトです。聖ブレンダンのことをたくさん知ることができますので御興味のある方は是非、どうぞ!

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聖ブレンダン航海譚

1バーリンドの物語
聖ブレンダンが、ゴールウェイ地方のクロンファートで、三千人の修道士を擁する修道院共同体の長を務めていた頃、あるときバーリンドという修道士の訪問を受ける。バーリンドは、聖メノックを訪問してきたことを話した。
聖メノックは荒野で修行の後、現在の沖の島の修道院長になっている。その聖メノックがバーリンドを招いたのは、彼を伴って聖人達の「約束の地」へ船出するためであった。
船は西に向けて出発し、厚い靄を通り抜けると大きな陸地に着いた。そこにはたわわに果実がなり、花が咲き乱れていた。十五日の間二人はその陸地を歩き回り、ついに西へ流れる川に着いた。そこに男がおり、男は二人にもっと船で先へ行きなさい、家に帰ってはならない、先には世界の初めの時からあった島がある、あなたがたはそこに一年で着くだろう。食べ物も飲み物も要らずに、と言うのであった。
男は二人を船まで送り、二人が乗り込むと消えてしまった。二人は祖国の方へと漕ぎ出し、厚い靄を抜けて聖メノックの修道院に帰って来た。そして、バーリンドは修道士たちにこう教えられたのだった。聖メノックはときどきあなたが行った「約束の地」に船で行くのです。そしてそこに長く留まるのです、と。

2弟子の選抜
バーリンドが彼の庵に帰った後、聖ブレンダンは自分の修道院から十四人の修道僧と選び、聖人達の「約束の地」へ行く決心があるか、と訪ねる。ただちに弟子達は聖ブレンダンの供をすることを申し出た。

3エンダ訪問
お祈りのあと、聖ブレンダンと修道士達は航海の安全を祈ってもらうため、聖エンダの島(アラン島のイニシモア)を訪ねて、三日間滞在した。

4船をつくる
それから聖ブレンダンと修道士達は、「ブレンダンの座」と呼ばれる山の麓の狭い川岸に天幕を張り、木枠の船を造り、その上に樫の樹皮でなめした牛皮をはり、脂肪を皮の合わせ目になすりつけた。帆柱と帆と櫂をつくり、四十日間をしのぐ食物を用意し、予備の皮と脂肪も蓄えた。

5遅れてきた三人
彼らが出帆しようとした時、三人の僧が浜に来て一緒に連れていってくれるよう懇願するのだった。聖ブレンダンは承知するが、三人のうち二人はひどい目にあうだろう、三人目も航海から戻れないだろうと警告した。

6不在の館
西に向けて十五日間航海を続けた時、凪の後、方向を見失い、崖をつたって滝がしぶきをあげる峻厳な巌の島に吹き寄せられてしまった。上陸すると野犬がいて、その犬が館へ彼らを案内した。その館の広間に入ると、彼らのために食べ物が用意されている。そこに三日間滞在したが、その間誰も姿を現さない。しかし、食べ物だけはいつも用意されていたのだった。

7修道士の死
その館での滞在も終わり近くなった折、あとから加わった修道士の一人が銀の刀剣をみつけてそれを盗もうとしたので、聖ブレンダンはその僧を叱った。そのとき小さな邪鬼が修道士の懐中から飛び出したかと思うと、その修道士はしんでしまったのだった。

8若い“給仕”
彼らが船に乗ろうとしていると、若い男がやって来て航海のためにと籠一杯のパンと水差し一杯の水をくれ、今度の航海は長いものになるだろうと告げた。

9羊の島
次なる上陸地は、魚のたくさん泳ぐ大きな河の流れる島だった。その島は「羊の島」と呼ばれていた。一年中、羊の群が走りまわっているからだ。彼らはそこに洗足木曜日から聖土曜日までいた。島の人が食べ物を運んでくれ、次のように予言した。あなたがたは復活祭の日に近くの島に着くだろう。それからさほど遠からぬ「鳥の楽園」という西方の三番目の島に行くだろう。あなたがたはそこに聖霊降誕節(復活祭語七回目の日曜日)まで留まるであろう、と。

10ヤコニウス
そこからいちばん近い島は、石だらけで草も生えていなかった。船を網で浜に引き上げて、火を起こし、「羊の島」からもってきた肉を料理した。ところが鍋が沸騰すると、なんと島が揺れ動きはじめたのだ。一同は仰天して大混乱となって船に戻った。彼らがおこした火を乗せたまま、その“島”が海の方へ動いていくのを見送るばかりだった。聖ブレンダンは、その“島”は「ヤコニウス」と呼ばれる、海でいちばん大きな魚である、と皆に語った。

11島の楽園
さて修道士達は「羊の島」の西方の狭い海峡に横たわる「鳥の楽園」へと帆を進めた。船を引いて約1マイルほどその島の河を水源に向かってのぼると巨木があり、たくさんの白鳥がとまっているのを見た。なかの一羽は人に飼い慣らされているようにおとなしく、船に飛来して聖ブレンダンに話しかけ、鳥は人間の霊魂であると言った。また聖ブレンダンは「約束の地」を七年間捜しつづけることになるだろうと告げるのであった。夕祷や他のお祈りの時間に鳥達は賛美歌を歌い、お祈りの文句を唱えた。
修道士達はこの「鳥の楽園」にしばらく留まり、“給仕”はなんと「羊の島」で彼らに食べ物を用意してくれた男であった。男は新鮮な水も運んで来てくれ、島の泉に湧く水を飲んではならない、それを飲むと眠りにおちるだろうと警告した。

12アルプの修道院
聖ブレンダン達は三ヶ月航海をつづけた。まわりには海と空しかなかった。皆はかなり疲れ果て、次の島が見えて来ても向かい風に向かって櫂を漕ぐ気力もないのであった。しかし、彼らは何とか上陸できる場所をみつけた。その島の二つの井戸で水桶に水を汲んだが、その一つの井戸水は清く、もう一つの井戸水は泥臭かった。
一行は墓のそばで白髪の老人に出会った。その老人は、彼らを上陸した場所から200ヤード離れた修道院に連れて行った。入口で、聖遺物と十字架を祈祷書を持った11人の修道士が黙して聖ブレンダン達を向かえて抱擁し、修道院長が一同の足を洗った。11人の修道士達と共に彼らは座り、イモと白パンの食事を供された。すると修道院長は沈黙の規則を破って、それらのパンが食料貯蔵庫に奇跡的にもたらせたものであり、彼らの礼拝堂の蝋燭は決して燃えつきないのだと、聖ブレンダンに話すのであった。その修道院では料理された食べ物を誰一人とらず、総勢24人の修道士達は齢をとることもないようにみえた。
食事の後、聖ブレンダンは円形になった二十四の席のある教会と、四角い切り子の水晶でできた教会の器を見せられた。教会そのものが四角形であった。
祈祷の後、修道士達はそれぞれの小室に退いたが、院長と聖ブレンダンとは、ランプの火の奇跡をこの目で確かめようとその場に残った。待つ間、院長は八年間というものこの島で一度たりと人間の声を聴いたためしのないこと、身振りだけで意思を伝えてきたこと、そして誰一人病んだ者もいなかれば、心を蝕まれた者もいなかったこと、などを語った。と、突然、火の矢が窓から飛び込み、ランプに触れて火をつけ外に出ていったのだった。

13眠りの井戸
聖ブレンダンと弟子達は聖アルプの修道院でクリスマスを過ごし、八日目の「顕現」の日に海に出て、四旬節まで航海をした。食べ物も底をつき、憔悴しきってしまったが、三日後にまた別の島に着いた。
その島には清らかな井戸水があり、その井戸は植物や根に覆われていた。海に注ぐ河では河底に泳ぐ魚が見えた。彼らは植物と根を採って食べ、井戸水を飲むと深い眠りに誘われ、ある者は一日、ある者は二日、ある者は三日の間眠り続けたのだった。
聖ブレンダンが祈ると、弟子達は目覚めて、この島を離れなくてはならないと言った。少々の水と捕った魚だけを積んで、彼らは船に乗り、北に向かった。

14固まった海
三日後、風は止み海面は固まったかのように滑らかになった。そこで聖ブレンダンは皆に櫂をあげて神のお導きに任せるように指示したのである。二日間彼らはあてどもなく漂流したが、まもなく西風が吹いて船を東へと運んだ。

15羊の島、ヤコニウス、島の楽園再訪
風は「羊の島」へと船を引き戻した。着いた場所は去年と同じで、あの“給仕”が嬉しそうに彼らを迎えた。彼は天幕を張り、風呂を用意し、真新しい衣まで用意してくれた。聖土曜日を祝い晩餐を済ませると、給仕は「復活の日曜日」を祝う為、聖ブレンダン達が以前出会った“鯨”のところに戻るよう、そして「鳥たちの楽園」の方角へ船を進めるよう告げた。聖ブレンダン達が留まっている間、給仕は渡し船でパンと飲み物を運んだのだった。
給仕の言ったとおり聖ブレンダン達は“鯨”に上陸し、それから「鳥の楽園」に渡り鳥達の歌を聴いた。給仕は聖ブレンダンにこう言ったのである――七年間同じ周期を繰り返せ、と。すなわち、荒足木曜日を「羊の島」で、復活祭を“鯨”で、復活祭から精霊降臨祭までを「鳥の楽園」で、そしてクリスマスを聖アルプの修道院で過ごせ、と。
そのように行いはじめると、給仕は彼らが「羊の島」から持って来た蓄えを積んで船で再び出帆するまで、食べ物を用意してくれるのであった。

16むさぼり喰う獣
四十日間海を漂った後、巨大な怪物が船を追ってくるのが見えた。怪物は鼻から泡を吹き出し、彼らに食いつかんばかりに猛烈な速さで波をかき分けてくるのである。修道士達は恐れおののき神に助けを請うのであったが、聖ブレンダンは彼らを鎮めた。巨大な怪物はなおも近づき、聖ブレンダンの目の前で船の上に達する大波をたてると、修道士達はいっそう震え上がった。その瞬間、反対の方向から、つまり西の方からまた別の荒々しい怪物が現われた。その怪物は船の近くを泳いでいったかと思うと、別の怪物に体当たりして火を噴いた。と、修道士達の目の前で最初の怪物のからだが散り散りに破れ、後から来た怪物はそのまま泳いで、やって来た方向へ去ってしまったのである。
後日、彼らは樹の繁る大きな島を見た。上陸すると死んだ怪獣の尾が落ちていた。聖ブレンダンはその尾は食べられると言った。天幕を張り、彼らは尾の肉を手に持てる限りたくさん切り刻んだ。
島の南の方に清らかな井戸があり、そこにはたくさんの植物と根が絡まっていた。夜、姿の見えない動物が怪獣の死骸をむさぼり食って、朝になって見てみると、骨のほか何も残っていなかった。嵐、強風、霰に雹、雨が三ヶ月も続いたために、修道士達はその島に足止めされた。ある日、死んだ魚が渚に打ち上げられていたので、それを取ってその一部を食べ、残りは塩漬けにしてとっておくようにと聖ブレンダンは言った。天候が回復してきており、水嵩も減り始め、波もおさまり、出帆できるようになったからである。
水と食べ物と、集めた植物と根を載せて、彼らは北へ向かって船を出した。

17三人の聖歌隊の島
ある日、海面のかなり上まで盛り上がっている異常に平坦な島に着いた。木は一本もないのに、紫と白の果実が島を覆っている。島のまわりを三人の聖歌隊が歩き回っていた。ひとりは少年で白い衣、ひとりは青年で青い衣、ひとりは壮年で紫の衣を着ており、歩きながら賛美歌を歌っていた。聖ブレンダン達の船が島に着いたのは朝の10時だったけれども、聖歌隊は午後三時に誤りなく「詩篇」を歌い、夕祷もきちんと行った。彼らが歌い終わると神々しい光が島の上空に湧き出、聖歌隊の姿は雲とともに見えなくなったのである。
翌朝、夜明けは雲ひとつなく、例の聖歌隊がまた聖餐を祝福し、そのあと隊の少年と青年が紫と白の果物を船に運んできた。

18ブドウの島
数日後。巨大な怪鳥が船の上を飛ぶ。嘴に見たこともない木の枝を加えていて、鳥はその枝を聖ブレンダンの膝に落とした。枝の先にリンゴほどの大きさの、輝く赤色のブドウがなっていた。修道士達はブドウを食べて、八日の間をそれだけでしのぐことができたのだった。
その後の三日間を食べる物なしで過ごした後、またもや同じ果物のなる木で覆われた島を見つけた。空気はザクロの香りがした。そこに四十日間留まった。天幕を張り、果物ばかりか、泉のそばに生えているあらゆる種類の植物と根とを採ったのだった。

19グリフォン
一杯の果実を載せて、あてどもなく航海していると、空飛ぶグリフォンの急襲にあった。しかしグリフォンが鉤爪で襲いかかろうとした瞬間、先日ブドウの枝を運んで来たあの鳥が現われてグリフォンを追いはらおうと、その眼を攻撃した。グリフォンは空高く舞い上がり、息絶えて、皆の眼の前で海に落ちていった。救ってくれたあの鳥は飛び去った。

20アルブの修道院再訪
聖ブレンダン達は聖アルブの修道院を訪れて、クリスマスを共に過ごした。それから長い間、大海原を航海しつづけた。前と同じように、洗足木曜日と聖霊降臨祭までの間で寄ったのは、「羊の島」と「鳥の楽園」だけである。

21澄んだ海
航海中、一度、聖ペテロの祭日に一行は、とても済みきった水の上を進んでいることに気づいた。その水の透きとおっていることといったら、前に渚に打ち上げられていたのとは別種の魚が、まるで牧場の羊のように泳ぎ回っているのを透かしてみられるほどであった。魚達は頭から尾まで環のようにつながり、聖ブレンダンが祈りの歌を歌うと船まで浮き上がってきたり、見渡す限りの巨大な群となって泳ぎまわったりした。礼拝が済むと魚達は仕事が終わったかのように泳ぎ去った。このとても澄んだ水の海を渡るのに、たっぷり八日間かかった。

22水晶の柱
またある日、海から突き出ている柱を見た。はじめは近くにあるように見えたのだが、そこへたどり着くまでに三日もかかった。聖ブレンダンが頂きを見ることができないほどに、とてつもなく高い柱であった。柱には大きな網がかけられていて、網の穴を船は通り抜けた。網は銀色で、大理石より堅かった。帆を降ろして櫂で漕いで、修道士達は網の穴から抜け出た。海水が澄んでいたので網がずっと底の柱の根元の方まで広がっているのがわかった。海水はガラスのように透きとおり、水の下でも陽の光が天と同じように輝いていたのだった。
聖ブレンダンがその網を測ってみると幅が6-7フィートあった。それから彼らは四角い柱の片側に沿って船を進め、聖ブレンダンが柱の両側を測ってみると700ヤードあった。柱の陰にいても太陽の熱を感じた。四日目に彼らは柱の横に開いている窓の中に、水晶の聖杯と聖杯皿を見つけた。
柱の測量が終わると聖ブレンダンは弟子達に食事にするように言った。それから一同は網を持ち上げて彼らの船をそこから抜け出させ、帆柱を立て帆を張って、八日の間北へと航海したのだった。

23鍛治の島
八日目に岩だらけの荒れた島に着いた。鉱滓と炉がいっぱいで草も木も生えていなかった。聖ブレンダンは不安になったが、風がその島へまっすぐに彼らを吹き寄せた。鉄床を打つハンマーのとてつもない音が聞こえた。島の人間が炉から出て来たが船をみとめると、また中に入ってしまった。聖ブレンダンは弟子達に遠く漕いで上陸するように言った。だが、聖ブレンダンが語ると、島の人間はまた出て来て大きな鉱滓のかたまりを聖ブレンダン達に投げつけた。そのかたまりは、彼の頭上を飛び越し200ヤードも飛び、海中に落ちるや、海は煮えたぎり、まるで窯から吹き上げるように煙を立ち昇らせた。
船が島から1マイルも離れても、さらに大勢の島民が渚を駆けて来て彼らに鉱滓のかたまりを投げつけ始めたのだった。まるで島全体が火のようであった。海は煮えたぎり、風は唸り声をあげた。聖ブレンダン達の船から島が見えなくなっても、鼻をつく匂いがした。私達は「地獄」の縁に行ったのだ、と聖ブレンダンは言った。

24炎の山
またある日のこと、北の方の雲間に煙を吹く高山を見た。風は船をそちらへと迅く吹き寄せ、彼らは島を少し遠巻きにして周りをまわってみた。彼らの前に壁のような真っ黒の崖が立ちはだかった。崖はあまりに高く頂上が見えない。遅れて乗船した、あの三人目の修道士が船から島へ飛び移り、崖の下を歩き始めたが戻る力がないと泣き叫んだ。恐るべきことに、修道士達は悪魔が彼を連れ去り、火の中へ投げ込むのを見た。
追い風が彼らをそこから逃れさせた。振り返ってみると煙を噴いていた山が炎に包まれ、山が火を噴き、火を呑み込み、山はまるごと積み薪のようになるのを見たのである。

25不幸なユダ
南へ向けて七日間、航海を続けると、岩の上に奇妙な男が座っていた。男の衣服は、眼の前の鉄の器具に吊り下げられている。岩に波が砕け、男の頭に降りかかった。風が男の衣を翻して、眼や額に触れるのである。聖ブレンダンが男に何者かとたずねると、自分はユダであると答え、神聖な火には神が火の山にある「地獄」の責め苦から自由にして、岩の上に座らせるのだと言った。夜、数知れない悪魔が海を覆うほどに現われ、岩のまわりをまわって金切り声をあげ、聖ブレンダンを追い払うのであった。聖ブレンダンが承知すると、悪魔は立ち去る聖ブレンダン達の船を追って来、それから島へ戻って、唸り声をあげながら、とてつもない力でユダを担ぎあげたのである。

26隠者の島
三日間南へ進めと、小さな島に着いた。島は円周200ヤードの円の形をしていた。崖が海に迫り、上陸できる所がない。火打ち石のような岩がむき出しになっている。ようやく上陸できそうな場所が見つかったが、岩棚がとても狭く船の舳先を着けるのがやっとだった。聖ブレンダンは自ら岩壁に飛び移り、島の頂上まで攀じ上がった。
するとそこには、島の東側に入口をもつ二つの洞窟があり、ひとつの洞窟の入口にはこんこんと泉が湧いていた。この洞窟の中に老いた隠者がいた。老人のからだは長く伸びた白い髪の毛と髯で覆われているのだった。隠者はその昔聖パトリックの修道院にいた。聖パトリックが死んだとき、その亡霊に船で海に出よと告げられたと言うのだった。隠者の船は行く先を知っているかのように島に漂着したという。隠者は30年の間、三日ごとにカワウソが運んでくる魚を食べて暮らした。カワウソは薪も持って来た。隠者は二つ並んだこの洞窟と泉を見つけ、さらに60年を生きてきた、自分は140歳になると言った。それから聖ブレンダンに泉の水を持っていくように促し、聖ブレンダン達は「羊の島」と「鳥の楽園」に戻る前に四十日間航海をするであろうからと言った。
聖ブレンダンは四十日の航海のち聖人達の「約束の地」に着き、四十日そこに留まり、そして神は聖ブレンダンをアイルランドへ安全に帰還させることになるのだった。

27羊の島、ヤコニウス、鳥の楽園三度
聖ブレンダンと弟子達は、老いた隠者の祝福を受けて南へと船を進めた。一行は海に翻弄されながら、隠者の島から持って来た泉の水だけで生き延びた。
ついに、聖土曜日、再び「羊の島」に着いた。例の“給仕”が上陸地点で迎え、皆が船から下りるのを助け、晩餐をふるまった。
“給仕”は一同と共に出帆して“鯨のヤコニウス”に漂着した。ヤコニウスは皆を背に乗せて「鳥の楽園」へと泳ぎ進んだのだった。“給仕”は水桶を一杯にせよ、今から自分は皆の水先案内人になるのだからと告げた。自分が行かなければ聖人達の「約束の地」に到着できはしないと言うのである。

28聖人の「約束の地」
聖ブレンダンと“給仕”と弟子達は四十日の船旅の貯えを調達するため、「羊の島」へ戻った。それから四十日間東へ航海した。“給仕”は舳先に乗って皆に行く手を示した。四十日後の夕刻、大きな靄が彼らを呑み込み、互いがみえなくなってしまうほどだった。“給仕”は、この靄は永劫に島を取り巻いているのだと言った。その島とは、聖ブレンダンが七年の間ずっと捜し続けてきた島であった。
一時間ほどたつと大きな大きな光が輝き、船は渚に着くことができた。修道士達は下船した。そこは果実をたわわにつけた木で一杯の大きな陸地だった。一行は陸地のまわりをぐるりとまわった。彼らは果物を食べ水を飲み四十日間その陸地を探検したけれども陸地が尽きることはなかった。
しかしある日、大河の岸に出た。聖ブレンダンはこの河は渡れまいし、陸地の大きさもつかめはしない、と言った。
そうしているうちに若い人が現われ、ひとりひとりの名を呼びながら抱擁した。そして聖ブレンダンに向かって言うのであった。神はあなたがたをこの島にお導きになるのに、時間をかけました。この大洋の神秘をあなたがたにお見せになる為に、と。
そして若い人は果物と宝石を集めるよう促し、聖ブレンダンの最後の日々は近いから故郷に戻られよ、と言うのだった。若い人は告げた、キリスト教徒が迫害されるとき、この島では河が地をわかち、聖ブレンダンの後継者達に知られるようになるだろう、と。
聖ブレンダン達はいろいろな果実と宝石を集め、“給仕”に別れを告げて靄の中を航海した。彼らは「歓びの島」に着いた。そこの修道院長の元に三日間留まり、そうして聖ブレンダン達はアイルランドに帰り、元の修道院に戻ったのであった。

29帰還と聖ブレンダンの死
修道院の皆が聖ブレンダンの帰還を歓呼して迎えた。聖ブレンダンは彼らに船旅で体験したあらゆる出来事を語った。そして最後に聖ブレンダンは、死が近づいている事を皆に告げた。「約束の地」の若い人が言ったとおりだ。預言者は正しかったのである。きちんと身支度し、お祈りをすると、やがて聖ブレンダンは弟子達に見守られながら、主のもとへと旅立ったのである。アーメン。
posted by alice-room at 01:24| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 【備忘録A】 | 更新情報をチェックする
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