2009年05月23日

「生物と無生物のあいだ」福岡伸一 講談社

幾つかの賞を受賞している本なので、ご存知の方も多いだろう。私も知っていたが、タイトルに関心が無かったので読まずにいました。

たまたま散見する書評をみると分子生物学に関する内容みたいで、高校時代は一番生物好きだった私としては、ふと関心を覚えて読んでみました。

有名な本がその評判に値する本だったりすると、天邪鬼な私としてはいささか不満を感じないわけではないのですが、本書は、素直に認めます。新書としては最高ランクで読むに値すると思います。

多分にエッセイ要素が含まれており、いささか浪漫的且つ、アカデミズムの世界でうごめく欲望が哀愁を醸し出すのは、賛否両論の感想が生まれそうだが、門外漢にはいささか敬遠されがちな内容を実に読み易く、親しみ易くしている効能は、決して軽視するべきではないと思う。

ただ、研究者の世界はどこもやっぱり同じなのかなあ~といささか暗い気持ちで自分の院生時代を思い出した。

うちのとこは、中堅どころの国立大学で官僚養成学校の系統ではなく、実学中心の経済学だったので、証券アナリストの考査委員とか、シンクタンクと共同で投資モデルを作って小金を稼いでいる先生などがいたが、経企庁で問題起こしてひっそり世間から姿を隠す為に、しばらく出向扱いで来てる人などいろいろいたりした。

ドクターコースもあったが、大概は一ツ橋とか外部へ行き、その後、米英のドクターコースに再度留学し、先生の後押し等もあって運が良ければ、計量経済の講師でもやって箔をつける。それから、日本に戻って職探すという、しょうもないコースが見えていてほとほと嫌気が差したのを思い出した。

どんな社会でも政治力は不可欠だが、どうせなら、より競争のしがいのあるところとして、私は中退してベンチャーへ行ったのだが・・・まあ、確かに他の誰よりもいろんな経験はできたかもしれない。金銭的には、当時の年齢としてはまあまあだったが、今はかなり底辺レベルだからなあ~。

ただ、当時の周囲の学生は、勉強できている人を見かけた覚えがない。あと、それ以上に必死に勉強していると思えた同級生がいなかったのは悲しかった。

数学しかできないFや、自分の能力の低さと努力しない点を言い訳するのに忙しい(&過剰なまでの自尊心の)中国からの留学生、学校のサーバーからハッキングして某国立の研究機関にアクセスしていた台湾の人、授業についていく基礎学力の時点で全く落ちこぼれていたハーフの子。ドイツ銀行そんなの採用すんなよ~。

まあ、人当たりが良いのとゴルフが趣味の彼が投資信託ですか・・・。いいんですけどね。

院生時代に、真摯な姿勢で勉強してたのは韓国の中央銀行から世銀のプログラム(当時、うちの学校は指定校に選定されてた)で来てた人、彼は実に勉強熱心で、腰が低く、それでいて熱い人でした。

努力もプライドも何もなくした日本の人が、世界に勝っていくのは大変だろうなあ~とあの時、心の底から思ったものです。そんなこんな思いもあって、私もぬくぬくと惰性で卒業するまで院生やってらんなかったんだけどね。

もともと短気で、就職活動中に採用担当者とぶつかってトラぶったりとか多々あったし、30代前半で起業したのも、とにかく早く経営を実際に体験しないといつまでも中途半端な管理職なんてやってらんないという気持ちが大きかったからなあ~。

う~ん、余計な感傷にずいぶんと浸ったりしましたが、本の話。

とにかく平易で予備知識なくとも、そういう仕組みになっているんだあ~と目からうろこを実感できます。と同時に「生命とは何か?」という存在に対する根本的な問いや、生命としての秩序を維持する為には、絶えず壊していくことを必要とするなど、実に! 実に! 含蓄が深いテーマが頻出してきます。

組織も一緒です。変な経営論やマネジメント論を読むより、こちらの方が本質を的確に表していると言えるでしょう。

企業風土とか社風とか呼び名は変われど、トヨタはトヨタで日立は日立でしょう。NTTのお役所体質も不変ですね。

働く従業員は、その時々、場所で変わってもやはり会社のカラーってあります。中高一貫校とかもいい例で、学校カラーに染まりますね。

一つの企業に3年以上いたら、個人としてはどんなに独自性があり、自分は自分といっていてもその企業のカラーに染まらない人物は、まずいません。10年いたら、本人の自覚自体がその企業の発想の枠でしかないでしょう。

逆にそうでなければ、組織の一員として不適切であり、排除されてしかるべきだからです。また事実排除されているでしょう。

しかし、その一方で環境に合わせて企業等の組織は常にダイナミックに変化していきます。人材も入れ替わりがあり、活動領域も複数国に渡り、事業ドメインもコロコロと変わりますが、それでも一つの社風なりなんなりを維持しようとします。

だいぶ前にはやったスクラップ&ビルドは、まさに生命の活動に他ならないんだなあ~と感慨深く読みました。

と同時に、ある機能を発現するとおぼしき遺伝子の該当部分を除いたもので実験しても、何故か普通にその機能を持って誕生する生命。

一部が機能しないことが事前に分かると、バックアップでその機能の発現を可能にする仕組みなど、正直感動しちゃいますよ~。実に、実に生命って面白い!!

どこまで真実か分かりませんがしばしば言われる、ある集団で労働しない2割の構成員を除くと、今まで働いていた一部が働かなくなり、結局全体から見た2割が働かない状況が再現する。

逆に良く働く2割を除いた集団を作ると普通に働いていたうちの一部が良く働くものになって、集団全体としての機能的な割合は維持されるのとも近いものを感じますね。

まさに恒常性こそが、生命には不可欠なのかもしれません。ちなみに本書では恒常性という言葉は使っていませんけどね。

人間は結局自分の関心のある領域や視点からしか、物事を評価できないものですが、それでも本書には生物学の領域を超えて普遍的な何かを見出せると思います。それが何かは各人によりますが・・・。

是非、できるだけ多くの人に読んでもらいたい本ですね! 薄っぺらな新書ですし、時間もかからず、費用対効果(←俗な発想で恐縮です)でも抜群に効果的です。

社会人にも有用ですが、高校生くらいにも有用でしょう。学校を休みがちで満足に授業しない教師(うちの高校に一学期で終える履修範囲を一年かけてやった休みがちな教師が本当にいた)ややる気のないテキストをただ読むだけの先生の話を聞くよりは、こちらの本を読むほうがはるかに有用です。

生物学に興味を持つことは間違いないかと。 NHKスペシャルの「人体の小宇宙」とかと同じくらい個人的には大好き!!

勉強なんて、興味さえ湧けば自分でいくらでも勉強できるものですし、今の情報が整備された時代は、やる気さえあれば、なんでも可能でしょう。

新書で読むなら、本書を一番押したいですね。久しぶりに本を読んで感動しました。
【目次】
ヨークアベニュー、66丁目、ニューヨーク
アンサング・ヒーロー
フォー・レター・ワード
シャルガフのパズル
サーファー・ゲッツ・ノーベルプライズ
ダークサイド・オブ・DNA
チャンスは、準備された心に降り立つ
原子が秩序を生み出すとき
動的平衡とは何か
タンパク質のかすかな口づけ
内部の内部は外部である
細胞膜のダイナミズム
膜にかたちを与えるもの
数・タイミング・ノックアウト
時間という名の解けない折り紙
生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)(amazonリンク)

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posted by alice-room at 04:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 実用・ビジネスB】 | 更新情報をチェックする
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