いかにも売れそうな「仕事術」などという浮ついたキーバードをタイトルに入れた分だけ、本来の主張がぶれてしまい、媚を売ったあげくがこの内容という典型的な二匹目のドジョウ狙いの失敗本です。
しょうもない欲をかかずに、前作の考えを深めたり、より具体的な実例を出したりして内容の深化に努めれば、良かったのにねぇ~。期待してただけに大変残念です(涙)。
以下、幾つか本書の内容から要約。
失敗は受け入れの素地を作るここに挙げたのは、実は他の本でも表現を変えて何度も出てきている内容であり、ナレッジ・マネジメントはまさにこの失敗を含んだ上位概念なんですけどねぇ~。
偽ベテラン・・・実務経験が長く、失敗経験もあり、他人の失敗を多く見てきた人。→自分の経験に基づくもの以外を認めず、制約条件が変わった新しい状況下で対応できない
真のベテラン・・・体験に限らず、物事を科学的且つ体系的に理解しようとするので、新しい状況にも現時点での最善の解を見出せる
仕事:失敗から定式化への繰り返し
(制約条件下の)行動→失敗→定式化→適用→失敗→定式化・・・
定式化=構造化→ブラッシュアップ
拙い英語なのに、何故かMITの人には通じるのは?
← 逆演算能力(シナリオを豊富に持つ)に優れる人が多く、断片から対象の全体像を把握する力に長けている
ハインリッヒの法則・・・労働災害における発生確率
1:重大事件
29:かすり傷程度の軽災害
300:ひやり、はっと
例えば、失敗は受け入れの素地ってのは、カラーバス効果に関連します。失敗したら、否が応でもそれに関することって、気になりますよね。注意すれば、おのずと気付くものが違ってきます。
定式化というのも、表現は堅苦しいですが、新しい事をすれば、必ず通る経路でしかありません。試行錯誤する際、まずはなんとか動くように、機能するように、結果が出るようにを目指します。それができたら、今度はより円滑に素早く手間をかからずできるようにします。そして常にベストな結果を出せるパターンを特定し、それを利用するになるのが一つの形です。
当然、それはあくまでもtemporaryな通過地点です。絶対にもっとより効率的な手法があるはずだし、大概の場合、状況(制約条件)自体が流動的に変化するので、それに合わせて最適な手法も刻一刻も変化するのが現実です。
従って、この定式化は、エンドレスな作業なのですが、それが分からない・・・いや、分かろうとしないし、分かっていても無視しちゃう人が多かったりします。
何故か?変化しないほうが楽だからね。まさに定式化していくのが、もっと知られて言葉でいうならトヨタ生産方式の『改善』だと思いますが・・・temporaryな改善は出来ても、永続的な改善のできる人や組織って稀です。
アジャイルな開発って、まさにそういうもんじゃないかなあ~と思いますけどね。私がルーティンで使っている業務ツール、あれだってversion付けたたら軽くver.10とかいきそう。(1ヶ月半に一度くらいは改善くわえてるもん!)
じゃないと、絶対に便利で使い勝手の良いものになんてならないです。
というか何故、あのツールを使って、私が一時間でできる仕事を二時間もかけるかなあ~。同じツールを使っても、段取りを考えてやらずにいるので待ち時間が無駄に発生しているんだよねぇ~。
自分で考えて、気付かせないといつまでも進歩しないし、状況が変わった時、自分で判断できなくなるのであえてそこはマニュアル化していないんだけど・・・そうすると、そこだけ明白に効率が落ちていて、「何故貴方は考えずに仕事するのか?」と切れそうになるが・・・。私の部下ではないので放置。
そうそう、逆演算能力の話だけど、似たようなのはどこにでもあるよね。商談していても会議のときでも、一言いえば、後は言わなくても、会話が弾み、その企画の問題点や損益分岐などたちどころにも共通事項をとして理解できる人と、いちいち全部を説明しないと分からない人。
あうんの呼吸と言うのは上司のおべっか使いの話ではありません。予め、話の内容から今後の会話が想定できるくらい、普段から考えているか、または意識しているかの違いが出るのですよ~。
つ~か、言われないと分からない人、言われてさえ分からない人とはつらないなあ~。結論は正反対であってもOKですが、前提条件が共有できないのは困りものです。話が早いというのは、この背景を理解していない人が多く、誤解されてしまうんだけどね。
まあ、話が広がってしまいましたが、これも本書でいうところの個別事例から、抽象化して(プレート化と適用)別な事例に当てはめた例の一つでしょう。たぶん。
以上は、読んでおいていい部分。
駄目な点は、司法取引とか組織での失敗の扱いなど、ご自分の出しているものが、まさに部分最適であることに気付かれていないのがかなりイタイ!
法というのは、(法体系下での)法的安定性と個別事案での妥当性との均衡で初めて成立しているものですが、それらは社会的なコンセンサスを得てこその存在です。著者は、そういった基本を無視して机上の空論で、ご都合主義の提案をされてますが、論外です。
他にも、失敗を不利益に扱う組織内で失敗を隠すことも止むなしの場合があるといったりもしますが、納得できません。知らせるタイミングや表現形式などは、まあ状況にもよるでしょうが、それを隠す事が正当化される事由は絶対にありません。
私個人もいやってほど失敗やミスをしてますし、会社に損害さえ与えたこともありますが、それを隠したことはありません。失敗は大きいものほど、即座に組織的に対応しなければなりませんし、個人が故意ではなく起こした失敗は、それを想定していない上司・組織の失敗に他なりません。上が無能なのです。
一時的に気まずかったり、立場が無かったりしますが、トータルの実績があれば、必ずプラスになります。
勿論、理不尽な形で責任を負わされることもあるかもしれませんが(あったけど)、普通は見る人が見れば分かります。それで辞めなければならない会社なら、辞めるべきだと思います。
綺麗事ではなしに、一生卑屈に生きていくような奴隷の生き方はできませんから!
つ~か、組織全体の問題を明確にして、それを改善すべく会社やら組織やらを巻き込んでいくことこそが、ビジネスマンの仕事術だと思うんですけどね。
あまりにもラインの一部的発想ばかりで、視野狭窄過ぎません? 実際には洒落にならないほど困難ですけどね。
官公庁の対応のまずさを指摘するのは正しいですが、子供ではないのですから、理想論ではなく、具体的な対処方法を語るべきでしょう。まさに官僚組織に対して、社内政治を含めた制度組織的側面から、いかに失敗を防ぐかという点に対して意義ある価値(社内的な評価対象とするか)を持たせるかといった点なども大切でしょう。
組織は、目的達成の為に作られるが、作られた組織は、組織自体の存在の為にある。これは真理でしょう。善意を期待するのは、幼稚な精神論に思えてなりません。
こんなのマスコミの戯言と一緒。本書は本来の失敗からかけ離れて、肝心な部分が希薄してしまっているので読むのは無駄でしょう。
なんでもそうですが、調子に乗ってしまうと駄目なもんです。残念!
【目次】失敗を生かす仕事術 (講談社現代新書)(amazonリンク)
序章 失敗するということ
第1章 まず失敗する、そこからすべてが始まる
第2章 失敗を生かす仕事術
第3章 失敗を生かす組織運営
終章 失敗を見る文化
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「失敗学のすすめ」畑村洋太郎 講談社