別に読み難いというわけではありません。淡々と魔女狩りという歴史的事象を社会学的に取り上げているのですが、それがなかなか通常とは一味も二味も違っていたりします。しばしば、『魔女狩り』という社会現象は、当時の社会情勢から民衆が慣れ親しんでいた異教崇拝や土着の信仰などをキリスト教的論理から、批判しつつ、力ずくで取り込んでいく過程で同時に宗教権力と王権との癒着作用などを背景にして極端な形で現われたもの、とか一見するといかにも合理的な説明が各種の学説などで展開され、それが広く一般に認知されていたりするが、著者はそれが間違っていると指摘します。
歴史学の基本であり、またどんな科学的な研究であっても同じですが、一次的な基本資料に立ち返ってそこから、各種の主張を批判的に検討すべきなのに、その分野の著名人が述べた学説だからといって誰も一次資料の確認を怠った結果、実際は魔女狩りや異端審問が行われていないのに、あたかもそれが事実であったかのように誰もが信じ、あまつさえ虚偽の資料として出版・公表されたものを元にして、更にその学説を発展させていくが如き学者が多数いることを著者は一つづつ、証拠となる資料を出しつつ、その誤りを丹念に指摘していく。
いやあ~まさに頭が下がる思いです。新聞やTVで報道されるとそれをすぐ真実と勘違いする人が多い今の時代には、反面教師かもしれません。個人的経験からでも、教科書でさえ誤っていたことがあったし(教科書出版社から礼状が来たもん)、政府の諮問委員をやられていて先生が年金が破綻することが分かっていながら、答申では嘘を言っていたことも知っているし、某公共放送が取材に際して、騙されてさくらの消費者から感想を集めて報道していたのも知ってますが、本当に調べもしないで信じるのは危険ですね!!
ダ・ヴィンチ・コードの本は面白くて知らない事も多く、ある種の感動も覚えましたが、小説をそのまま信じる気にはなれなくて自分で調べてみようと始めたのがこのブログのきっかけでもあったので個人的にはいろいろと感慨深いです。ほんと。
感想が脱線していますが、著者はどんな権威もものともせず、ひたすら資料から妥当と思える結論を引き出し、それと矛盾するこれまでのいかなる説をも誤りと切って捨てていきます。いやあ~、私なんかもその捨てられた説を常識だと勝手に思っていたので、すごい新鮮です。いきなりこの本を読むより、ある程度、魔女狩りや異端審問に関する本を読んだうえで読むことをお薦めします。今までのイメージがきっと変わります。
他の本で主張される一見合理的な説明ほど、実はかえって怪しかったりするのも笑えてしまうくらいです。勿論、この本だって全てが正しいとは思いませんが、これまでの考えを一変させるだけの衝撃はありますので俗っぽい『魔女狩り』ではなく、真実の『魔女狩り』に関心を持つ真の理性のある方には、読んどいて損はないです。
テンプル騎士団が壊滅する話も出てきますが、かなりの部分は他の本で知っていた話ですが、それでもこういう理解もあるのかあ~と気付かされる点もあります。資料としては、本を集めるならこれは持っておくべきです。きっと。
でも、読み通すのは分量もあり、退屈なところもあって大変です。先週から1週間以上かかってるけど、読破できてません。同じ本ばかりだと辛くて、合間に他の本に浮気したりしてるせいもあるんですけどね(笑)。
そうそう、この本には同じ著者による「千年王国の追求」が対の存在としてあるそうです。本書がエリート(指導者層)の妄想であるのに対し、千年王国の方は社会的落ちこぼれ(根無し草な農民、知識人くずれ)の妄想がテーマなんだそうです。なんだか、そちらも読みたくなってきますね。でも、高いんだよねぇ~値段が。
(今、売っているのは83年に出たものの再刊だそうです。私のは古い83年のですね)
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関連ブログ
「黒魔術の手帖」澁澤 龍彦 河出書房新社
「悪魔学大全」酒井潔 桃源社
「西洋暗黒史外伝」吉田八岑 桃源社
「異端審問」 講談社現代新書
薔薇の名前(映画)
「異端カタリ派」フェルナン・ニール 白水社
「悪魔の話」 講談社現代新書
「魔女と聖女」池上 俊一 講談社
「迷宮魔術団1」巻来功士 集英社
ノーマン・コーンの「魔女狩りの社会史」は、てっきり持っていると思いこんでいましたが、探してもありませんでした。(苦笑) 「千年王国の追求」は、持っています。かなり前に読んだので、面白かったということと、ちょっと日本の一向一揆に似ていると思ったことしか覚えていません。これだと読んでいないのとほとんど変わりません。(苦笑)外部記憶が欲しいと思う今日この頃です。
>外部記憶が欲しいと思う今日この頃です。
去るもの日々に疎し、ではありませんが面白かった本でもやっぱり忘れていってしまいますよね。だって、私なんかこのブログを書き初めてからでさえ、なんか読んだ気がするなあって思って自分の(!)ブログを検索して、ああっやっぱり読んでたかと真面目に気付くことがあります。大真面目にそれなんで、読んだ本は無理矢理にでも感想を書いてしまおうと思う今日この頃だったりします(苦笑)。