2009年07月25日

「あぶない脳」澤口俊之 筑摩書房

どうでもいい余談も多いが、関心があっても知らなかったことがたくさん書かれていて、面白かった。

特に分析する対象となるモノを捉える際の視点を、至近要因(メカニズム)と究極要因(進化要因)の2点に分け、前者には脳科学(神経科学)、後者には進化生態学(社会生物学)からのアプローチを明示している。

一般的に認められている説から、著者独自の説まで幅広い考え方が提示されているが、論理が明快なので、ほお~と頷かされるところが多々ある。

勿論、書かれている内容がどこまで一般的なのかは、専門外なので判断できないので割り引いて受け取るべきでしょうが、それでも自分が普段考えている事に対して、参考になりました。

例えば、『幸福感』とか。

私的には、中高校生くらいから、ずっと『幸福』の定義とか漠然と考えてきてましたが・・・(暗い子だなあ~)。

現在に至るまで、「他者(過去の自分を含む)との比較において生じる自己満足的な優越感」という定義以上のものを見出せないでいました。しばしば言われるように、昔は食べ物もなくてひもじかったのに今は、白いお米がお腹いっぱい食べれて幸せ、な~んて話もその類いです。

また、どんなにお金持ちであったり、どんなに能力があって、何不自由ない生活を送っていても、幸福感を感じられない人は多々いるでしょう。

それは当人が比較する対象と比べて、自分が上である、と感じられることでしか、実感できない感覚。それこそが、幸福感なのでは・・・と思ってきました。

宗教が、その比較対象を別次元に移すことで、より多幸感を増すのは、現実世界での比較を無視することができるからでは?とも思ってました。

逆に幸福感が永続しない故に、人は絶えず、現状維持ではなく、現状を超える環境を求めようとし、永遠に車輪を回し続けるねずみさんになるんでしょうし、それこそが人類の発展(勢力拡大)の原動力でしょう。

だからこそ、人は有り得ない幸福感の永続を願い、日々改善やら、努力やらを続け、その反動で鬱になったり、将来を悲観して自殺したり、自分を向上させるよりも周囲を貶めることで相対的な優越感を得ようとしたり、しょうもないことをしてしまうんでしょう。

とまあ、中学生ぐらいでそんなことを考え、卒業文集に虚無主義とか書く、嫌~なマセガキが大きくなると私のような人物になるわけです(苦笑)。

前置きが長過ぎて恐縮ですが、そういう人物には、是非、本書はお薦めしたいです。物の見方ががとにかくロジカルですから、目からウロコ的に確かにそうかも~と思える部分が多々あるんですよ~(拍手)。

まあ、その先にある著者の主張は、正直どうかな?ってのもまた多々あるのですが、決して押し付けている訳ではなく、どこまでが一般論でどこからが著者の主張か分かるように書かれていますが、良心的だと思います。

意図的にその辺をごまかして主張している本や、著者自身が無意識で混同してしまって、分かっていないで書かれているどうしょうもない本とは違いますので、その点は安心して読めるかな。面白いよ~。

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【以下、読書メモ】
自我・・・自己制御と自己意識。両者の前提にあるのがワーキングメモリ

ワーキングメモリ:行動や決断に必要な様々な情報を一時的に保持しつつ操作して、同道や決断を導く認知機能

<思い込み>
節約的安定化原理:脳は、最小限の情報で辻褄あわせをする
  ↓
出てきた結論は、長期記憶へ
  ↓
脳は記憶をベースに情報処理をする結果、思い込みは事実として認識されるに至る=思い込みの固定化完了

ブームは、無意識的な記憶情報を溜め込むことで、判断時に影響を与え、行動を偏ったものにしてしまう

幸福感の究極要因は、男女の持続的な結び付き=結婚を維持する為

言語獲得の結果としてのヒトの脳の発達
・・・・言語の獲得は、対象をシンボル化して操作(=相手の心の理解)を通して、社会関係を適切に処理することを可能にした
  ↓
他者の心の理解ができない昨今の若者

社会失行:社会的理性(=状況に応じて自分の行動や感情を制御して、適切な社会関係を営む機能)はあるものの、それに反する行為をおこなってしまうこと

結晶性知能:豊富な経験や知識に基づいた判断力、思考力、統率力といった高度な知能。高齢になるほど発達する知能

何故、結晶性知能が存在するのか?
生殖自体とは別に、子孫が存続しやすい環境(社会)を産み出す目的で存在するのでは・・・。
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著者自身の見解も多々あるものの、全般的に非常に面白いです。ご興味のある方、お薦めします。
【目次】
第1章 精密にして危うい脳
第2章 愛と性の脳進化
第3章 脳教育の必然
第4章 理不尽な脳
第5章 もっと深まる脳
あぶない脳 (ちくま新書)(amazonリンク)

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posted by alice-room at 11:45| Comment(2) | TrackBack(0) | 【書評 未分類A】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
PCをワイアレスにして以来、調子が悪くてどうにもいけません。
マウスも寿命なのかなあ。
毎日そ~っと触ってる感じで、思うようにコメントもできない昨今です。

なんてことはどうでもいいのですけれども、この本面白そうですね!
ここ何年か非常に脳に興味があります。
とはいえ、優秀とは言いがたいアナログ文系のワタクシとしては、
よーっく噛み砕いてもらわないとイマイチ内容が理解できないのが悲しい。
是非読んでみたいですが、そのあたりいかがでしょうか?
(って、ものすごく抽象的な質問かも。すみません)
Posted by OZ at 2009年07月29日 19:19
そういうのって、いろいろと落ち着かないですね。
気になってしまって・・・。

さて本書ですが、結構分かり易く書かれていると思います。新書ですし、対象読者が私も含めて、脳関係の全く予備知識のない人なので、十分内容についていけると思いますよ~。

一部は理解しずらい箇所があるかもしれませんが、9割以上は、単なる論理的な説明(=人という種が、遺伝子を残す目的で行動している、その為の合理的行動として解釈してます)で基礎知識は必要無いです。

ご興味あるなら、是非!! これはお薦め致します(笑顔)。
Posted by alice-room at 2009年07月29日 21:44
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