2006年01月28日

「十字軍」橋口 倫介  教育社

この著者ってよっぽど十字軍が好きなんですね。書く本、書く本全て十字軍絡みとは。だったら、もう一声、普通とは違った深みのある内容だと言うこと無しなんですが…。

あっ、決してつまらない訳では無いです。想像していた以上に、ずっと面白い。だって十字軍の本だと思って買ったら、実は最初から最後までひたすらテンプル騎士団の話だったりする。タイトルと全然違う!って苦情の一つも言いたくなりそうだけど、聖地エルサレムへの巡礼者を守るという意図で始まった騎士兼修道士という存在であるテンプル騎士団を通じて、十字軍を描いている…つ~か、やっぱりテンプル騎士団のことばかり。

普通は十字軍というと、それを生み出す中世的社会背景、宗教権威の確立、民衆の宗教熱や諸侯の世俗的な物質欲、商人達の富への欲求等々から、説明していくものですが、それらの説明は本書ではむしろ補足的であり、いかにしてテンプル騎士団が世俗の王侯・諸侯から支持され、寄進を集めてあれだけの巨大な勢力に成り得たのか? そういった側面から、採り上げている視点が楽しかったりする。基本線は、歴史的に知られている事実を中心に妥当な線から説明しているので、一個人の思い込みによる論理の飛躍はあまりなく、そういう意味では安心して読んで知識が得られるかもしれない。

テンプル騎士団がエルサレム王国において果たした役割や、最後にこの偉大な聖地を最後まで死守しようとするのが本来の使命(であり、設立意図)なのに何故か、その地に貯えられた資産を持って争うこともないままに放棄していったのか? その辺りの状況の記述も詳しく、後世にまで異端の嫌疑をかけられるほど、不信感を持たれた遠因が見え隠れするのも面白い。

血気盛んで猪突猛進の一方で、目的達成の為なら陰謀や奸計もいとわず、イスラム教徒とも平気で同盟を結び、現実感覚に秀でたテンプル騎士団が、その時代をいかに生きてきたかが生々しくて堪らないかも。場合によっては、平気で嘘をついて降伏した者を虐殺さえ厭わないくせいに金融に関してだけは絶対に約束を守り、嘘をつかないと広く信じられていたというエピソードも凄いと思った。まさに、国際金融事業に長けていたのも道理ですね!! 現代の金融機関や制度をみてもまさに信用経済で成り立っていますが、あの当時でさえ何よりも信頼を大事にして、利子や手数料で莫大な儲けを得ていたとは…。

十字軍がその第一回目から、食い詰めて先の見えない流浪の農民や、領土獲得を目指す中小諸侯らの経済的欲求と贖宥状を求める宗教心の複雑なカクテルによって生まれており、これまで言われているような最初は宗教心で始まったものが、後に商人に牛耳られて経済目的に変わったというわけではないんだそうです。ほお~って思いましたね。人を動かすのは常に何らかの欲求であり、金と名誉と精神的安定の全てが十字軍にはあったわけですね。いろんな見方があるんだなあ~とすっごく思いました。

そうそう、ダ・ヴィンチ・コードなんかでも触れられていましたが、テンプル騎士団がマホメット(バフォメット)の像を大切に祭っていたとかいう異端の嫌疑やキリストの十字架に唾を吐いたりといった瀆神的な行為をしていたとかいうもの関する説明も為になるかも? 当時、アラビア語を普通に話し、イスラム教を理解したうえで対等に且つ自由に交渉できた能力と精神的寛容さを併せ持ったテンプル騎士団が、イスラム教の影響を受けたというのは事実でしょうがそこからマホメット信仰まで直結するかは、難しいでしょう。

また、十字架へ唾吐きは、当時キリスト教徒がイスラム教徒に捕まって捕虜になっても身代金を払えば釈放されるのが普通であった時代、仮に捕まってもイスラム教徒を装うか信仰を捨てる振りをして、生き延びる為に練習していた行為という証言もあるそうです。どこまでが真実かは、それも闇の中ですが、なんか納得してしまいそうなお話ですね。

十字軍よりも、テンプル騎士団について知りたい人にはお薦めです。テンプル騎士団の設立までの経緯や当初の状況については、「テンプル騎士団」の方が詳しく採り上げていて、実際にエルサレム王国成立後に関しては、本書の方が詳しいです。両方読むと、一通りの基本事項は押さえられると思います。いい意味で補完しあうような関係ですのでお好きな方は、目を通しておくべきでしょう。

十字軍(amazonリンク)

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posted by alice-room at 02:19| 埼玉 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 歴史A】 | 更新情報をチェックする
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