2009年08月08日

「カトリシスムとは何か」イヴ・ブリュレ 白水社

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いつもながらのクセジュ文庫です。薄い本ながらも、なかなか的確で本質的な記述が散見され、既知の知識でも気付かされる事が多い本でした。
カトリック:
①普遍的な教会。キリストの教会全体
②正当で真正な教会。司教に結ばれ、そして司教を通じて神に結ばれている教会

カトリック性:
教会の一つの側面であり、世界全体における拡張のために続けられている努力を指すもの

カトリシスム:
人々が通常「カトリック教会」と呼んでいる教会によって教えられている教義の内容を指す
=ローマ教会とその長である教皇によって保証されている使徒的継承の価値を真に継続するあり方を示す
常に福音を世界津々浦々へ広げていくことこそが、その本質として備わっているというのは、凄いですよね。旺盛な自己増殖機能。一つ間違わなくても、世界中に広がろうとする力は、価値観の多様性を原則とする近代以降と、どう折り合いをつけるのか? それだけでも興味深いテーマです。
全体としてのギリシア・ローマ文明の場合と同じように、キリスト教も長い間、本質的に都市的な現象だった。異教が田舎の地方に強く残存しており、その為にラテン語で「田舎者、農民」を意味する「パガヌス」という語が「異教性」を指すようになった。

アイルランドは、ローマ世界の圏外であり、社会の全体が田舎的である。都市がない為に司教を中心とする制度は修道院におかれて、そのような修道院を基礎として教会が組織された。
ゴシック建築も都市のものなんだよねぇ~。ロマネスクとは、そこが違ったりする。

アイルランドの修道院の興隆も、そもそも都市がない、という視点に今の今まで気付きませんでした。う~む。
オリゲネス
古代の修辞学と哲学の遺産をキリスト教に取り入れようとした。
→プラトン哲学をキリスト教に取り込むという貢献

プロティノス
新プラトン主義。神的存在との交流の豊富麻が構築された。
ルネサンス期の思想の開花の根源は、中世思想の豊かさであり、そのそもそもの目的はキリスト教世界を強化することだった。

ユマニスムは、楽観的なキリスト教的人間観と不可分である。人間は神によって自由で責任あるべきだとされており、自分の性質を獣のようにしてしまうか、高いものにするかのどちらかを選ばねばならない。
救済者であるキリストは、罪の存在である人を神のイメージ・神に似た者として回復させる為に来た。
中世を否定し、中世的なキリスト教からの解放、という誤ったイメージで、子供の頃から学校で学んできましたが、それらはみ~んな【嘘】を教えられてきたと痛切に感じます。

くだらないところをチェックする教科書検定ではなく、内容の意味ある部分で検定して下さいよ~。お役所様。

十二世紀ルネサンスもしかりですが、古典に立ち返ることで本来の自由さ・豊穣さを取り戻してそれを新しいものへとつなげていったのがルネサンスなのですが・・・馬鹿な学校の先生(一部は、尊敬すべき先生もいましたが)から、そんなこと一言も教わらないまま学校教育の歴史は終わりました。正直、悔しいな・・・。
教会は堕落しており、腐敗の絶頂だったというイメージは、ルターの企ての成功を説明するのに都合のよいイメージだが、歴史的分析を進めるならば受け入れられないものである。プロテスタントの革命が生じたのは、活気と創造性が豊かで改革の古い願望が具体化しつつあったキリスト教世界においてだった。改革への動きが沸き返るようになっていたなかで、ルターの計画は根源的なものだった。統一性と継続性を保存する器である既存の教会の古い制度を改変するのではなく、教会の再創設の方向に向かったのである。
これ、私は無知だったことに気付かされます。ルターの動きは、外部からのものではなく、むしろ内部からの変革を求める動きとの関係で見るべきものであったとは・・・うかつ過ぎでした!私!

従来の見方も、勿論間違っているわけではないでしょうが、カトリック内部でそれらと合わさって自己変革の動きがあったのも、凄く重要な視点でしょう。

いろんな意味で勉強になる本でした。但し、予備知識なしに本書だけ読んでいても一見すると単調な記述で、何も感じないかもしれません。いろいろと問題意識があって読むと面白いかも?

本書全体を通して読んでみると、う~む、ラッツィンガーさんの行動は、本来の(神学的正統としての)カトリックに立ち返ろうとする揺り戻しの動きなんでしょうね。

神学的正しさと、現実の政治勢力としての存在からした妥当な立ち位置とは、なかなか整合性が取れないことを強く感じます。

日本ではあまり報道されないので、無関心が多いですが、世界の動きを見る時に、キリスト教やイスラム教の動向は、実に興味深いです。
【目次】
第1章 ローマ世界におけるキリスト教
第2章 「キリスト教的秩序」の困難な伝達
第3章 オキシデントのキリスト教世界
第4章 宗教改革期から啓蒙期にかけてのカトリシスム
第5章 諸革命と「キリスト教世界への回帰」
第6章 第二バチカン教会会議の教会
カトリシスムとは何か―キリスト教の歴史をとおして (文庫クセジュ)(amazonリンク)

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「世界の名著23 ルター」松田智雄編 中央公論社
「十二世紀ルネサンス」伊東 俊太郎 講談社
「十二世紀ルネサンス」チャールズ・H. ハスキンズ(著)、別宮貞徳(訳)、 朝倉文市 (訳)みすず書房
「中世思想原典集成 (3) 」上智大学中世思想研究所 平凡社
posted by alice-room at 03:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 宗教B】 | 更新情報をチェックする
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