と思わず、懐かしさの余り感慨に耽ってしまいそうですが、これも正統派の本です。著者は実際に精神鑑定などもしていて、理論も実務もバランスがとれている感じですね。基本といえば、基本事項をしっかり押さえている感じです。
ただ、いきなりロンブローズの生来的犯罪人説とか、クレチェマーの循環器質類型とか言っても普通の人は知らないんではないでしょうか? 僕はクレチェマー大好きで初めて読んだ時は、本当に感動ものでしたけどねぇ~。そこで展開されている主張が実に!実に!よく当てはまる実例を知っていたので、ほとんど驚愕に近いものがありました。でも、この本にはそういうの無いです。
淡々と、まさに冷静な観察者の視点で書かれているとでもいうべき本です。幾つかの具体的な犯罪の事例なども出しながら、説明しているので基本は分かり易いです。かっとなって激情のおもむくままに行われた犯罪や常習犯として行われる犯罪の危険性や再犯率なんかもいかにも妥当な説明でしたし、良心的かなあ。
さらっと入門書として読むような本です。更に踏み込むと面白いですよ~。刑法の総論なんか、もう半ば哲学かい?と思うような「人が人を裁くとは、何故か?」とかの議論は奥が深くて個人的には大好きだったりする。久しぶりに刑法の本でも読んでみたくなったなあ。
本書であと興味を持ったのは、その人の性情として、社会に出すと非常に高い確率で犯罪を起こすことが明白な人には保安処分を積極的に採り入れるべきだという主張は、なかなか注目に値するかと。一つ間違うと、思想犯に対して行われた政治的弾圧に悪用される恐れはあるものの、社会を守る為にはある程度の必要性を認めるのも真摯な姿勢故に評価すべきだと思いますけどね。
安易な平等や責任を伴わない主義主張に対して、等価的な価値を与える必要は覚えなかったりするんだけどね、個人的には。まあ、久しぶりに読むには、いい刺激になりました。
【目次】
1犯罪と精神医学
2精神病と犯罪
3精神薄弱と犯罪
4精神病質と犯罪
5中毒、とくにアルコール中毒と犯罪
6性欲倒錯と犯罪
7情動と犯罪
8精神鑑定
9拘禁反応と詐病
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これは、心理学好きなら絶対読むべきでしょう!! お薦めします。
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