2009年09月02日

「劇団四季と浅利慶太」松崎哲久 文藝春秋

勿論、私自身も劇団四季の舞台は大好きです。ファントムも15回以上見てるし、ロンドンでもNYでも2回づつ見ました。ディズニー嫌いのくせにライオンキングも何度も見てるし、アスペクツ・オブ・ラブやキャッツも好きです。

当然、四季の会にも入っていて、ラ・アルプも毎月送られてきます。先行予約の時には、PCと携帯電話片手に1時間半以上格闘する日々もありましたが、最近、1年ぐらい見てないなあ~。

そ~んな私が読んだ本です。ジーザスは見ようと思っていて予約しそこなったし、ウィキッドも未だに見ていない、駄目駄目君ですが、横浜のキャッツは久しぶりに観に行く予定。

まあ、前置きが長くなりましたが、本書はミュージカルを含めた日本におけるショービジネスという点で、大変勉強になると共に示唆に富んだ書だと思います。

まさに市場創造型ベンチャーとしては、並ぶもののない実績に裏打ちされた素晴らしいお手本でしょう。

本書は100%劇団四季肯定で貫かれていますが、サクセス・ストーリーとは本来そういうものであり、物事の評価なんて視点次第でどうとでもなることを踏まえていうなら、本書の論旨は首尾一貫しており、明確で理解しやすいです。

ミュージカルの本として読んだら、全然読者層が違いますが、ベンチャー企業のお手本としては、一読の価値ある本です。

何よりも実現したい理想があり、その理想を達成しようとする強固な意思のもとで、現実を直視し、できることから一歩一歩試行錯誤していく姿勢は、まさに経営者の鏡でしょう。

実は、こないだ読んだ「ル・アルプ」にも四季の予算に関する考え方を読んで、大変な感銘を受けたばっかりだったので、より私にはタイムリーに映りました(本自体は、古いんだけどね)。

予算の厳守ができない使えないマーケティング部や某部署の販促費の取り扱いというのをたくさん知ってますが(ありがちだし・・・)、要は自己を厳しく律することができるか否かなんですね。

人はえてして、理想論や建前論を語って自己を擁護し、律せない人が大半ですが、やはりそれでは駄目なんだなあ~と痛感させられます。成功は自己制御(たゆまぬ努力と向上心)の有無なんですね。

う~ん、耳が痛いです!

と同時に、厳格な計数管理のうえで積み上げられた利益を、必要な部分へは積極的な挑戦(採算のとれないストレートプレイや無料のファミリーミュージカルの提供)として投資していく姿勢。

このバランスが取れるか否かが、頭でっかちで薄っぺら且つ独り善がりな、芸術至上主義者には分からないし、理解しようともしない点ですね。

他にも劇団ならではの特筆すべき点として、以下のことが興味深かったです。
演劇を「分かるもの」にするためには、「本」(台本)が難解であってはならない。舶来劇の翻訳がこなれば日本語でなければ、そのうちに盛り込まれた思想や感情が理解されるはずがない。浅利が今日まで、厳しいほど「本」の選択にこだわる理由である。

が、いかに日本語として達意の名文で綴られようと、それが観客に伝わるためには、俳優の朗誦が的確でなくてはならない。観客はテレビの前の茶の間にはいない。劇場にいるのである。一語一語が明瞭に発音されなくては、作者の思想も演出家の意図も、観客に伝えることは出来ないのである。
浅利が仲間たちと研究し開発した日本語の朗誦法は、母音の発声を一音一音、粘着させないことを基本とする。
・・・
一個一個がクリアに発音されることによって、子音が母音を核とした真珠の大粒に結晶して、あい連なって客席の後ろまで伝わっていくのである。
スターシステム公演と作品主義。

一時は、あちこちと小劇場タイプの舞台をいろいろ観まくってましたが、もう小学生の学芸会以下の水準が実に多くてねぇ~。内容が無い以上に、演者の独り善がりが多く、内容が伝わらないのですよ。声が聞き取り難いってのも相当ありました。

シェークスピアとかなんて、もう絶対無理。言葉に振り回されて、ただただセリフが流れているだけで、舞台も何もあったものじゃなかったりする。そりゃヒドイもんですから・・・。

そういうのを知っているだけに、拍手喝采したくなりますけどね。私なんかは。まあ、いいですけど。


他にもたくさん読みどころがあるのですが、ふと思ったのは、改めて劇団四季出身の人材がどれほど多岐にわっているのかということでした。
人材の供給源としてだけでも、四季の存在意義は多大でしょう!

しかし、何よりも素晴らしいのは、理想を追い続ける情熱ですね。現実を見据えたうえでの飽くなき理想主義者。まさに、意思の人ですね。

何事も成し遂げる事が出来ていない私ですが、改めて目標を高く掲げ、努力せねばと痛切に感じました! うん、読んで良かったです(笑顔)。
【目次】
オバーチュア
第1章 ロングランかレパートリーか
第2章 俳優
第3章 全国展開と劇場
第4章 経営&四季の会
第5章 上演作品
第6章 半世紀の略史
第7章 劇団四季の未来
劇団四季と浅利慶太 (文春新書)

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posted by alice-room at 22:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 実用・ビジネスB】 | 更新情報をチェックする
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