2009年09月26日

「高僧伝(1)」慧皎 岩波書店

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仏教伝来の1世紀、中国の後漢から6世紀梁の時代までで歴史に名を留めた沙門の伝奇の集成。

本書の前に、時流に乗って有名になった別な僧侶によって書かれた「名僧伝」が世俗的な名声のある僧ばかりを扱った僧伝であることに対する問題意識から書かれたらしい。
前代に撰述された僧伝は往々にして「名僧」をタイトルとしているけれでも、しかし「名」はそもそも「実」の賓(賓客。従者)なのである。もし実質に根差した行いがあったとしてもその輝きを潜め隠すならば、高潔であっても世間的な名声は揚がらないし、徳は乏しいのにうまく時流に乗るならば、名声は揚がっても高潔ではない。名声は揚がっても高潔でない者はそもそも(本書の)記述の対象外であり、高潔でありながら名声の揚がらないも者を今のこの記録に備えるのであって、それ故、「名」なる言葉を捨てて「高」の字に代えることとするのである。
著者はそれほど著名な人物だったわけではないらしいが、「高僧伝」が完成すると、それは全国に広まる。一方で「名僧伝」は現在にほとんど伝わっていないらしい。

もっとも、そんなふうにいうと非常に高尚なものと思われそうですが、読んでみると、結構面白い。ゆうなれば仏教版の聖人伝で、かの「黄金伝説」がキリスト教の有り難いご利益で数々の奇蹟を起こした聖人を扱うのに近い感覚です。

聖人の素晴らしい事績に留まらず、仏教の有り難さに由来する数々の奇蹟も紹介されています。どうやっても傷つかない仏舎利とかね。害獣達が人を襲わなくなったとか・・・。

他にもあの「鳩摩羅什」に関する話は、大変興味深いです。高僧との評判を前提に、女犯の戒律をおかして貶めようとするアレですが、貴方のような優秀な人材は得難く、貴方が亡くなったら、仏法の種が途絶えてしまう。だから直系の子孫を作れっていうのはねぇ~。

話的にはなかなかうまいものの、実際はこじつけもいいとこですが、 いろんな話が巷間には流布していたんでしょうね。まあ、私が見たNHKの番組は、やはり適当なような気が改めてします。

全4冊ですか。まあ、読んでいていいような気がします。

そうそう、あと読んでいて思ったのは、仏教の経典1巻がどれほどの危険と苦難を経て、印度から中国に伝えられたかということ。

本当に金銀財宝などおよびつかないほどの価値を認められ、世界の理(ことわり)を、世界の真理を、求めんとする人々。世界の安寧を求める人々。が、まさに命懸けで伝えたという事が伝わってきます。

損得勘定ではできない話ですね。本当に心の底から思います。

また、それを翻訳せんとする人々も実に真摯で、頭が切れ、人格も高潔だったりします。もっともそういう人々ばかりを集めたからこその、「高僧伝」だからなのですが・・・!

まあ、考えてみれば、昔は有能な人材は、政治・軍事・宗教の分野といった限られた分野でその才を発揮するのがほとんどだったはずですので、当然なのかもしれません。現代は、発揮できる分野が多岐にわたる分、密度が低そうだしね。

あと素晴らしい翻訳は、それ自体。もう一つの奇蹟に近い出来事であることを痛感しました。よし、誰もやらないんだから、私も今読んでる本「CHARTRES」翻訳しよっと。英語版をもうすぐ読破できるので、これを翻訳したら、原文をフランス語版を購入して、そちら側から翻訳してみるか。うむ。

ふと思いましたが、鑑真和上を始め、遣唐使がどれほどの思いで仏典を持ち帰り、空海や最澄が戒壇を開くだけのものを受戒して日本にもたらしたか、その思いの百分の一でも歴史の授業で教えて欲しいですね。

何よりも生徒の無気力もさることながら、教師の無知(無自覚)も嘆かわしい限りですね。稀にいらっしゃる情熱あふれる教師の方には、私も大変感謝したりするものの、絶望する場合も多々あったからなあ~。

敦煌の莫高窟の壁に隠された経文の数々。まさに至上の財宝そのものだったんのでしょうね。そんなことを本書を読みながら考えていました。

高僧伝(1)~抜き書きメモ
【目次】
漢の洛陽の白馬寺の摂摩騰
漢の洛陽の白馬寺の竺法蘭
漢の洛陽の安清
漢の洛陽の支楼迦讖(竺仏朔・安玄・厳仏調・支曜・康巨・康孟詳)
魏の洛陽の曇柯迦羅(康僧鎧・曇帝・帛延)
魏の呉の建業の建初寺の康僧会
魏の呉の武昌の維祇難(法立・法巨)
晋の長安の竺曇摩羅刹(聶承遠・聶道真)
晋の長安の帛遠(帛法祚・衛士度)
・・・・
(漢字が難しくて断念)
高僧伝〈1〉(岩波文庫)(amazonリンク)

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posted by alice-room at 09:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 宗教B】 | 更新情報をチェックする
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