
実は全体の3分の2を読んだところで中断したままでしたが、思い立って残りを読み切りました。
一気に完読できなかったくせに、こんなことを言うのもなんですが、本書は数少ない洋書読破の中では、とびきり面白かったものの一つです。
う~ん、個人的にはダ・ヴィンチ・コードと同じくらい面白かったかも? もっともあちらは日本語の翻訳読んだ後に原書で読んだので、面白さが薄れているのもある。本書は訳書の「トヨタ・ウェイ」もあるが、いきなり原書に挑戦した分、内容が新鮮で興味深かったです。
あとね、不思議なことに辞書無しでもあまりストレス感じずに前後関係で意味が取れました。実に理路整然と書かれており、原則を説明した後に、具体例を紹介し(一部は順序、逆もあるけど)、大変分かり易い!
しかも&しかも、そのロジカルな部分が実に数学の証明のように、明快で単純、最初から最後まで水の流れるような一連の運びには、目を見張ります。
これって、いかにも英語らしい特徴を備えており、教科書などでも良書だったら、日本語のものより英語の方が良い、そんな好例ですね!
英語を勉強したいビジネスマンなら、くだらない会話集などよりも本書を絶対に読むべきでしょう。ちなみにaudio book も売ってますね。購入しようか悩んだけど、買いませんでしたが。
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以下、内容について。
Toyota Way:
もう聞いたことがないというモグリはいないぐらい有名な言葉になりましたが(パクリにgoogle way という本があるくらい)、まあ、『トヨタ流』ってことですね。
アメリカでのトヨタの現地生産に付随して、アメリカの産業界で広まった『トヨタ生産方式』。その一歩先であり、それを含めた数々の叡智を包含するそもそものトヨタの企業文化全般を扱った本です。
勿論、「現地現物」や何故・何故・何故・・・とwhy?と5回繰り返すとか、「改善」、「ホウ・レン・ソウ」、「根回し」、「反省会」に至るまで日本の製造現場でもしばしば採用されてきたやり方を、いかにもアメリカ的に合理的な視点から、その内容・機能・効果・実施方法までを解説しています。
ただ、そのレベルなら類書があまたある中で本書がベストセラーになり、読者に感銘を与えるのは、今の日本が失った?(or 失いつつある?)『モノ作り』の本質を捉える視点があるからです。
新車の全面的なモデルチェンジ前に、担当者が全米各州をその車に乗って、実際に使ってみる、現地での使われ方・乗られ方を調査する。
その結果、飲み物をまとめて買ったら、無くなっても追加で買うような面倒なことはしないのでドリンクホルダーの数を増やすとか、車内で食事をするので、空間を広く取ることが大切など。
あるいは、日本からおえらいさんが来て、アメリカの工場を視察中、動かない車の前で立ち往生して、頭を悩ませている従業員をみつける。
そのまま近寄ってくると、上等なスーツを脱ぎ、腕をまくって、オイルタンクの中をさらい、スラブを引き上げて、動くように直して一言。君のやろうとしていたことをするには、手を汚さなければできないよ。
”カッコイイ、カッコ良過ぎる!”
なんか出来過ぎのような話ですが、本当にそういうことを書いてあるんですよ~。著者、トヨタ工作員 or トヨタ教信者か?って思うぐらいですが、結構、熱い感じで書かれていて、そういったエピソードの数々が全て”Toyota Way”に収斂していくのがなんともうまい!つ~か、素直に凄いです!
個人的には、くだらない中学生の英語の教科書なんて、すべてこの”Toyota Way”にして、絶対に一度は見た、ぐらいにしていいんじゃないかと思う。その為なら、民主党の高校の授業料無料化とか、大馬鹿な政策に税金使われても許せる気がしますよ、ホント。
確かに本書は、トヨタという一企業を採り上げてますし、他の日本企業、日産とかとは違うとも言ってますが、日本の製造業の一番良いところ、良かったところを実にうまく押さえている気がします。
私が現場実習などをさせられた某メーカーなどでは、改善提案が義務化され、なかば形骸化している欠点も実際に経験して知ってはいますが、それでも日本の製造業の素晴らしい点だと思います。
日本で実際にやっていてもその意味を十分に理解しているとは言えない人が多い中で、本書のようにその本質を理解し、実践できれば凄い事ですね。
経済学者の某中谷氏が、英米流の効率性を目指した資本主義の欠点を認めて、変節したようなことをのたまわっていますが、洞察力は鋭いものの、やっぱり現場を見ていないせいなのかな?と思います。
気づくの遅過ぎだろ? まあ、誰もがそうだったといえばその通りで、金融立国を目指すとかありえない話を主張していた方々も無数におられましたが・・・。(もっとも、私は今、リアルで金融関係の株を大量に仕込んでますけどね)
ちょっと話がそれましたが、絶対&絶対、本書お薦め!!
円高でアメリカから買うよりも安いので、絶対に原書で読みましょう。
あとね、”Toyota Way”というものの説明がグローバル化という視点でみた時に本質を突いていると感じたのは、どっかのアホな大企業みたいに海外流のやり方を自社に適用するのではなく、自社のやり方を海外にも広げていくことこそが、グローバル化であるとしている点です。
だって、アングロ・サクソン流のグローバル化って彼らのローカル・ルールをデファクト・スタンダードとか言い張って、世界中に強制することでしょ。あるいは、勝手に自分たちに都合のよい基準を作って、周りに強制するとか。
国際的な団体(談合団体?)でのルールの採択という、形式だけ取る事で民主的な装いをとり、どこでもそうだけど、一部の人の意見を押し付けるというアレです。
う~ん、横道にそれ過ぎた。
ただ、なんでもそうですが、周囲に合わせることは、差異を無くす事でそれって単に競争力の源泉を自ら削っていることになりませんかね?
同じやり方なら、そもそもそのやり方が得意でその基準を作った人々が一番有利なのは自明でしょう。
そ~んな基本的なことも分からない訳ではないかと思うのですが・・・・まあ、昔の経営学の教科書で国際化・グローバル化の先進企業名に日産が挙がり、一番保守的で国際化・グローバル化が進んでいないと非難されていたのがトヨタです。
私が大学で教わった頃ね。たいした内容じゃなくてみんな知っているレベルの話でしたが。
今の現状をみると、国際化・グローバル化を進めて競争力を失った結果、自らのアイデンティティを失った日産は、反面教師と言えるでしょう。そういやあ~こないだの日経ではトヨタは開発まで中国仕様でやるんですね。まさに隔世の感があります。
本書を書かれたのは、もう古くなってはいますが、実に指摘が鋭いです。
他にも”Toyota Way”を導入して、成功した企業と失敗した企業。失敗した理由に挙がっているのが、表面的な仕組みを導入して、一時的には効率経営”lean”になったけれど、一番大切なそれを支える企業風土の改革にまで及ばなかったこと。
まさにこれって、最近、日本でも出ている、トヨタ流経営の導入事例の失敗例を集めた本とかの先取りですね。日本郵政とか枚挙にいとまがありませんが・・・・(笑)。
物の見事に、配達精度など質が低下してますね。しかも、政治と絡んでさらに悪い方向に進んでいます。JALのようになるんでしょうか?
まあ、そっちは置いといて。
飽くなき『改善』を求めるある種、病的な改善志向は、組織全体が共有する共同幻想というか、常識レベルにまで結実して骨肉化しなければならないということです。
まさに、常に少しでも寄り良くを求める、向上心・情熱・誇りetc.そういった価値観を有する企業文化・企業風土無しには、”Toyota Way”なんて、一時的な上からのあつらえものでしかありません。
すぐに時代遅れになり、汚れてもほつれても繕う事のない上着なんて、すぐにゴミ箱行きでしょう。
どこの職場にも、昨日と同じ事を昨日と同じようにする人がいますが、同じ作業手順でも一秒でも短縮しようとする人や、その為に何かできないかと考える人では、差がついて当然でしょう。それが組織で個々のノウハウの集積体であれば、なおさらです。
他にもいろいろと気づかされることが多く、また大変共感することの多い本でした。これは手元に置いておきたい名著です。
トヨタ礼賛過ぎるきらいはありますが、それをさっぴいても日本に本書と匹敵する経営の本はないと思います。
GOALも確かに面白かったけど、あれはお子様向けの経営おままごとの本で、本書にはその要素が大前提に入っています。まあ、本書も専門家向けではなく、一般大衆向けではありますが、絶対に良書でしょう。
久しぶりに感動した一冊でした。
【目次】The Toyota Way: 14 Management Principles from the World's Greatest Manufacturer(amazonリンク)
Part One. The World-Class Power of the Toyota Way
The Toyota Way: Using Operational Excellence as a Strategic Weapon
How Toyota Became the World's Best Manufacturer: The Story of the Toyoda Family and the Toyota Production System
The Heart of the Toyota Production System: Eliminating Waste
The 14 Principles of the Toyota Way: An Executive Summary of the Culture Behind TPS
The Toyota Way in Action: The "No Compromises" Development of Lexus
The Toyota Way in Action: New Century, New Fuel, New Design Process---Prius
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Part Two. The Business Principles of the Toyota Way
Principle 1: Base Your Management Decisions on a Long-Term Philosophy, Even at the Expense of Short-Term Financial Goals
Principle 2: Create Continuous Process Flow to Bring Problems to the Surface
Principle 3: Use "Pull" Systems to Avoid Overproduction
Principle 4: Level Out the Workload (Heijunka)
Principle 5: Build a Culture of Stopping to Fix Problems, to Get Quality Right the First Time
Principle 6: Standardized Tasks Are the Foundation for Continuous Improvement and Employee Empowerment
Principle 7: Use Visual Control So No Problems Are Hidden
Principle 8: Use Only Reliable, Thoroughly Tested Technology That Serves Your People and Processes
Principle 9: Grow Leaders Who Thoroughly Understand the Work, Live the Philosophy,and Teach It to Others
Principle 10: Develop Exceptional People and Teams Who Follow Your Company's Philosophy
Principle 11: Respect Your Extended Network of Partners and Suppliers by Challenging Them and Helping Them Improve
Principle 12: Go and See for Yourself to Thoroughly Understand the Situation (Genchi Genbutsu)
Principle 13: Make Decisions Slowly by Consensus, Thoroughly Considering All Options; Implement Decisions Rapidly
Principle 14: Become a Learning Organization Through Relentless Reflection(Hansei) and Continuous Improvement (Kaizen)
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Part Three. Applying the Toyota Way in Your Organization
Using the Toyota Way to Transform Technical and Service Organizations
Build Your Own Lean Learning Enterprise, Borrowing from the Toyota Way
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Bibliography/Chapter References
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ザ・トヨタウェイ(amazonリンク)
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「トヨタ」日本経済新聞社
「トヨタモデル」阿部 和義 講談社
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