2006年02月15日

「黄泉津比良坂、血祭りの館」藤木 稟 徳間書店

yomotu.jpgこれは&これは、久しぶりに装飾過剰な極彩色なまでの推理小説ですなあ~。

いかにも日本という国の地方にありそうな土着的な匂いがプンプンする御当主様が出てきます。今でも実際にあるそうですが、地方においては未だに何から何まで全てにおいて人々を支配するドンとでもいうべき有力者っているんですよねぇ~。閉ざされた地域に、地元の人々からは雲の上の人と思われ、敬われている一族。古来よりその地域を宗教的権威によって統べてきた祭政一致の伝統的な権力はなかなかに強力です。

莫大な資産に、血族間の濃密な婚姻による澱んだ血筋。古代エジプトの王家が選ばれた血筋を守る為、俗物の血による穢れを避ける為に近親婚を繰り返したいたのと同じ論理が世界中にはしばしば見られます。クレチェマーが挙げていたような閉ざされた地域における有力な家系にしばしば見られる血の弊害がここにも色濃く描かれています。

基本的にこの手のノリ大好き。横溝正史氏の小説に出てくるあの犬神家のノリです。そしてその一族に次々と起る惨劇。出る人出る人が確実に一人づつ死んでいきます。一族の掟の中で全てのことが完結し、そこで起る事柄は世間には決して明らかにせれず、警察さえも関与させないほどの政治力。その重々しさがね、うん、お約束ですがイイ!

しかもその舞台たるや筆者が趣味に走って、自分の願望を満たさんが為に描き出した、何とも豪奢でありながら、怪しい呪的文様や意匠によって、隅から隅まで計算され尽くしたこの世にありえないほど奇妙奇天烈、且つ壮大な意図に基づく洋館だったりします。奥深い山の中で、突如として出現するこの世ならぬ幻想空間。贅を凝らした調度や建築物だけでも本書を読む読者は幻惑されること間違い無しです。

この本は、これに続く巻と合わせて謎が解決されるらしく、今この本を読み終わった時点では全然謎解きがされていなかったりする。それでもそこそこ面白くて引っ張るのだから、次の巻の最後がどうなるのかが期待と不安で入り混じっているのが正直なところ。

莫大な財産相続や妾の存在、家長の屈折した性癖に歪んだ家族構成、濃い血が生んだ美しいが脆弱な神経を持った一族の人々など、まさに推理小説の王道でしょう(ニヤリ)。もっともある意味、その王道をあえて踏襲しつつどこまでそこから逸脱できるのか? あるいは、その王道における完成度を極限まで高めるのか? 本当に最後の最後次第で、この小説の評価はガラリと変わり兼ねない感じがしています。どっちかなあ~ほんと???

実際に読むと分かるのですが、最初に感じるのはまずは黒死館殺人事件のあの衒学的なノリに圧倒されます。と同時に、その描写の過剰さの割に伝わってくるイメージはイマイチであの文章はまさにペダンチックなだけで実質何もない空虚さを感じてしまうのは、私だけでしょうか? 多分に著者の一人よがりになってしまっていて、非常にもったいない感じがしてならないのですが・・・。

その後に出てくる辺りも京極氏の「陰摩羅鬼の瑕」みたいな…。どちらが先に書かれたものか知らないのですけど。いささか、口うるさいこと言ってますが今のところはそれなりに面白いです。後は次巻の謎解き次第ですね、ほんと。

全編にあふれんばかりのオカルト的な(それ以外のものも含めて)知識などは、結構楽しいかも? 知っている事もたくさん書かれていましたが、知らない事もたくさんありました。さてさて、どうなるのでしょうか? 楽しみでもあります(笑顔)。

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こちらが続きで結論が出るはず…
posted by alice-room at 23:20| 埼玉 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 小説A】 | 更新情報をチェックする
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