2009年11月22日

「メディチ家の暗号」マイケル・ホワイト 早川書房

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途中までは結構面白かったんだけどね。最後でぐずぐずの台無しになってしまった作品です。

まあ、小説にありがちなうざったい個人的な家庭環境とか、離婚後の子供の話とか余計な要素はまあ、しゃーないんだけど、一番ウリになる部分である、歴史の中で失われてしまったはずの古代の叡智(ヘロドトスの直筆、古代ローマの風刺詩人マルティリアスの随筆集、ホメロス註解集、プラトンの講話初期写本、アリストレスの原本等々)に関する部分が書名の列挙で終わってしまい、実に興醒めな結末でがっかりしました。

著者がディスカバリーチャンネルのコンサルタントとか経歴に書かれていますけど、本当にそうなの? と疑いたくなるレベルの薄っぺらさです。

ユマニストの求める最高の宝という位置付けの、古典知識ならば、12世紀ルネサンスも絡ませろよ~。あるいは、トレド経由とか、シチリア有りだろ。舞台がイタリアのくせにシチリアが出てこないのは、無知を疑われかねません!

調べなくても分かるルネサンスへ至る歴史の常識なんだから、わざと省いたのかもしれませんが、正直かなりの違和感を覚えます。つ~か、読者なめてる?

あ~無駄な時間を費やした。翻訳が悪いのか分かりませんが、文章自体もあまり良くありません。なんかしっくりこないし、無意味な秘密結社とか謎解きも、深みが無くてくだらないの一言に尽きる。

それでも、稀覯本つ~か、人類に残された叡智たる古代の文献とかの説明で薀蓄でも語られるかと期待してたんですが・・・、一切触れられていません。がっかり・・・。

「薔薇の名前」の爪の垢でも煎じて欲しいッス。


【ネタばれ有り、未読者注意!】








薬絡みでメディチ家、メディチ家だから薬なのかもしれませんが、隠された宝が本じゃないのはいただけません。つ~か、その宝の設定自体が思いっきり駄作になっています。架空の物質でもなんでもいいのですが、読者になるほど~と思わせるぐらいの蓋然性が無いと意味ないっしょ。

登場人物が行動・思考パターンとしても2流並みだし、過去の事件当時と現在を比較並行して物語る手法もいささか手垢がついた感があり、しかもそれが効果的でもないのは、更にイタイ。

メディチ家のサン・ロレンツォ教会なら、私も行った事あるし、確か五線譜の写本とかも見た覚えがあるけど・・・。本書でいうメディチ家の礼拝堂ってここの教会がモデル? 元のイメージの片鱗もないけど?

メディチ家である必然性もなく、ただキャッチーな点で選んだだけなのでしょう。フィレンツェの洪水の件も、もう少し効果的に利用できなかったのでしょうか・・・。

最後の方は、頁合わせで強引にまとめようとしますが、説明が無いまま、強引且つ勝手に終わらせられてしまい、意味不明です。いろんな意味で残念です。ふう~。

じゃあ、ちょっとだけ粗筋を。
メディチ家礼拝堂でルネサンス期の遺体を調査していると、関係者が次々に殺されていきます。定番である老コジモの遺体を調査していると奇妙なモノが見つかります。それに隠された秘密。

秘密を求めて暗躍する組織。

老コジモの若かりし頃の冒険とは? 人文主義者(ユマニスト)達の求める最高の宝とは・・・? 想像もしなかった宝のオマケとは?

まあ、そんな感じかな?

知的サスペンスとか宣伝に書かれていますが、知識水準の高い方には不満が残るであろう一冊です。レベルはかなり低いです。安っぽいサスペンスが適切な評価かと。

メディチ家の暗号 (ハヤカワ文庫NV)(amazonリンク)

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posted by alice-room at 22:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 海外小説B】 | 更新情報をチェックする
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