2009年11月29日

「ストラスブール」宇京頼三 未知谷

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物凄く分厚いうえに、値段6千円。デフレのこの時代にこの価格ですか・・・と思いつつも、読んでみると中身が実に&実に、濃いのですよ。

クリスマスでも有名ですし、あのレースで編んだかのような繊細で美しい大聖堂の建築で知らぬものはいないであろう・・・(知らぬ者は切り捨てます)ストラスブール大聖堂を中核に据えつつ、歴史的な側面や建築面、文化面など大変多様な観点から、ストラスブールという街を遡上にあげてもう百科辞典並みに情報を集めているのが立派です。

著者は学者さんですが、少なくともゴシック建築の専門家ではなく、又、著作に建築に関するものも無いようですが、「アルザス」という地域に対して関心を持って、長年研究をされている方のようです。

従って、ゴシック建築に関する部分で頻繁にエミール・マールやルイ・グロデッキ、アンリ・フォション、ヴォリンガー等の定番中の定番のゴシック建築の著作を踏まえて、そこでの引用がなされていますが、実によく調べられているんだなあ~と思います。巻末にあがっている、ゴシック建築の関係の文献なら、ほとんど全部私の既読でしたので、引用されている部分もなるほどねぇ~と納得しつつ読みました。

時々、そんな文章あったっけ?という私の記憶力の無さは、まあおいといて・・・・それはそれで勉強になりました!(ハハハ)

そうそう、フルカネリまで引用されていたのは、ちょっとビックリ。

ご自身による研究の成果というよりは、百科全書的に・網羅的に資料を集め、取捨選択しつつ、ストラスブールという都市を、地域を浮かび上がらせるような作品となっています。

第4部、第5部は、私個人の関心から言うと、不要で興味無かったかな?本書は過去の歴史から踏まえて、現在までを映し出そうというので本来の主題にはあってるんでしょうが、私の関心はあくまでもゴシック建築と歴史的な都市成立等なんでね。

でも、本書は価格には十分ペイするだけの価値があると思いますよ~。しょうもないビジネス書に1500円出して、何冊も読むよりは、人間として幅が広がるかと思いますが、買う人(更に言うなら読む人)は少ないんだろうなあ~。もったいない!

出版社の未知谷。
実は、こないだまで潰れてると勝手に誤解していて大変申し訳ない気持ちでいっぱいです。昔から高額でマニアしか手を出さないような本を出版されてましたが、健在なんですね。喜ばしい♪

以前も買いましたが、数少ない読者なんで許してもらって、今後も是非、読む価値のある本を出していって頂きたいですね。値段はキツイですが、図版も豊富だし、説明の文章をうまく助けていて意味のあるカラー口絵となっているしね。価格はしかたないのか・・・でも、もうちょい安いといいんだけど・・・。

でもね、結構、いい挿絵を使っていますよ。「阿呆船」とかも結構好きだし、ステンドグラスの写真も悪くないでしょう(笑顔)。

私の大好きな大聖堂にまつわる伝承・伝説の類いも豊富に紹介されていますし(面白いのがいっぱいある)、ゴシック建築の説明としても、結構水準高いと思います。

ゴシックを支える「光」の説明や、シュジェとかもきっちり説明されてますし・・・。ただ、どうせなら、もう一歩突っ込んで光の形而上学そのものや新プラトン主義まで行けば、ほぼ完全だと思ったんですけどね。

ステンドグラスの「青」については、すみません、自分の知識の欠如を痛感しました。貴重で聖母マリアに使われる色というレベルは押さえていましたが、青の語源として古典ラテン語の語義では、「不安定・不正確」であり、キリスト教が光になると、光は空の天を示し、つまり、青(い空)になるのだそうです。

知らんかったです無知な私。今度、その辺についての資料を読んでみよっと。

それから天が青になり、聖母のベールも青になり、写本(たぶんランブール兄弟のあの時祷書もそうじゃん!)へも広がっていくそうです。
う~む、頭良くなっちまった~(笑顔)。

彫刻の予型論などもちゃんと触れてるし、機械仕掛けのからくり時計(天球儀とかとも連動)とかも他の地域のものと関連させつつ、ストラルブールで故障から修理して動くまでのエピソードなども盛り沢山に紹介されています。

とりあえず、ストラスブール行くなら、絶対に目を通しておくべき本でしょう。読了しなくても良いでしょうが、実物を観に行く前日に、関連するところを読んでおけば、どれほど楽しさが倍増するか分かりませんね!

見終わった晩に、ホテルでゴロゴロしつつ読んだりするのも楽しそう。重くてかさばるか? kindleみたいな電子書籍にして欲しいかもしんない?

この本を読むと、絶対にストラスブールへ行きたくなるのが困ったところかな? 元々、カルカソンヌの次の次くらいに行きたいところだったしね。

たぶん、行っても私の中ではシャルトルの絶対的な地位は揺るぎそうにありませんが、これからのクリスマス、さぞかし世界中から観光客が訪れて混雑してそうですね、行きたいかも~♪

値段が、正直ちょっと抵抗感ありますが、手元に置いておく価値はある本でした。あとね、個人的な話だと、シャルトル版でこの手のものを書いてみたいというのが、ここ数年来の目標なんですが、資料読んでないんだよねぇ~。

人生短いんだし、少しづつでも作業を進めないとなあ~。なのに・・・データベース関係の資格試験の問題集が山積みでそちらもあまり手をつけていない私は、怠け者なんでしょうね。頑張らねば!

本書の中で気になった部分は以下へ抜き書きメモ。
ストラスブール~読書メモ
【目次】
プロローグ―ストラスブールとは?
第1部 川と森から生まれた町
第2部 ストラスブール大聖堂―石のレース編み
 第1章前史―大聖堂への歩み
 第2章ストラスブール大聖堂建立
 第3章ストラスブール大聖堂を飾るもの
 第4章大聖堂の不思議な物語と伝説 
第3部 ストラスブール―暮らしと文化
 第1章衣食住
 第2章祭りと音楽
第4部 ストラスブールの文学散歩
第5部 ストラスブール―「ことばはドイツ、心はフランス…」
エピローグ ヨーロッパ文明の十字路・ストラスブール
ストラスブール―ヨーロッパ文明の十字路(amazonリンク)

ブログ内関連記事
「ゴシックの図像学」(上)エミール マール 国書刊行会
「ゴシックの図像学」(下)エミール マール 国書刊行会
「ゴシック(上)」アンリ・フォシヨン 鹿島出版会
「大聖堂の秘密」フルカネリ 国書刊行会
ゴシックということ~資料メモ
「図説世界建築史(8)ゴシック建築」ルイ・グロデッキ 本の友社
中世思想原典集成 (3)~メモ「天上位階論」「神秘神学」
「ステンドグラスの絵解き」志田政人 日貿出版社
posted by alice-room at 22:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 建築】 | 更新情報をチェックする
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