読む以前から、何かロジスティクスや在庫論、業務の作業効率化等にも応用が効きそう・・・といういかにも俗っぽい発想を持っていたのですが、まんまその通りだったことに、ビックリしました。
そうか、やっぱりそれね、という納得と、それも含めて、やはり事象の捉え方が既存のモノとは異なる視点で、結構刺激を受けました。それだけでも価値ありかと。
経営小説で有名な「ゴール」で一躍脚光を浴びたボトルネック解消型の問題解決ではないところが、ポイントの一つでしょうか?
まるで、コップ上で盛り上がり、今にもこぼれんばかりに液体がふくらんだギリギリの表面張力で保たれているような「メタ安定(準安定)状態」が、少しの刺激でコップからこぼれてしまい、もうこぼれらない均衡に達した「安定状態」へ移行する・・・・相転移。
本書の面白さは、表面的な渋滞という事象に限らず、一見すると別なものと思われるような事象にも、『渋滞』に相当する性質を見出し、その視点から捉える事で改善策を検討する、この視点のユニークさだと思う。
もっとも、昨今流行のビジネス書でしばしばいわれる発想法に他ならず、他分野の知識・思考方法を別なジャンルで応用し、あるいは既存のものの組合せで新しいモノを生み出すというまさにそのパターンである。
ちなみに・・・本書でもいくつかの解決策を提示しているが、それ自体は、別によく聞く話のたぐいで新しいものではなさそうだし、それが実効性のあるものかどうかは別問題だと思うし。
その解決策そのものには、特に価値を見出せないが、トヨタ生産方式や外部不経済までその視野を広げているのは、有意義に思われる。広く学際的な視点から、実際の社会現象を認識して研究対象としていく姿勢は、時代の趨勢でもあるが、まだまだ数は少ないだけに、もっともっと盛んになればと思わずにいられない。
ただね、車間距離を十分にあければいいとか、教育によって認識を広めることで、合理的に思考する人なら、実際の行動へむすびついていく・・・といった主張はいささか希望的観測に過ぎるだろうと個人的には思わざるを得ない。
勿論、著者も人は多様な発想をし、多様な行動をするから、なかなか難しいとは言っているのですが、その根本認識にいささかの疑義を呈したい。
合理的な人間、経済学が仮定する『人』がそれに相当するのだろうが、目的地に早く着くことが効用が最も高いという前提そのものが疑問だ。
少し前に注目された行動経済学とかでもそうだと思うが、人の持つ効用関数は複雑で、例え目的地へ向かうという行動であっても「絶対的に早く着く」よりも「周囲のものよりも早く着く=相対的には到着が遅くても」ことの方が効用が高いケースは十分に有り得るでしょう。
そして、それが肯定しうるなら、車間距離をあけても割り込まないという、条件は永遠に満たされないでしょう。
そういう視点へ言及が本書ではあまりなされていないように感じました。まあ、外部不経済へ言及しているだけで合格点としてもいいのかもしれませんけどね。
あっ、でも私的には、勉強になったこともあります。メモメモ。
限界質量(クリティカルマス)。一定のしきい値を超えると、連鎖的に急激に情報が広まる事。
定義:
渋滞とは、密度の増加とともに流量が減少する状態。
【目次】「渋滞」の先頭は何をしているのか? (宝島社新書)(amazonリンク)
第1章 「渋滞学」へようこそ
第2章 「渋滞」の先頭は何をしているのか?
第3章 世の中は「渋滞」している
第4章 渋滞学が実現する快適社会
ラベル:書評