
経済の発展著しい新興国インド。欧米だけでなく、最近では、ANAの飛行機の整備部品等の管理までも受託したとニュース記事で見るなど、IT分野での成長はもはや知らぬ人がいないほど有名だろう。
先週だか今週だかの日経の記事でも、IBMのみならず、東芝、日立など日本のかつての総合電機メーカー各社がソフト開発拠点をインドに置き、数千人単位で技術者を抱える計画が発表されている。
資金や設備が無いからこそ、かえってより理論的な分野での先進性が際立つインド工科大学など、ちらほらと噂に聞いていたので、ある程度の予備知識を持って本書を手に取りました。
基本、想像した通りの内容でした。
輪廻転生の死生観の下で、所与の環境(カースト等)を甘受し、現在の秩序・社会序列を肯定的に捉えるのが一般的であったインド社会で、長期に渡る変化を望まぬ社会では、職業はまさにカーストを始めとする社会制度・社会組織に固定的に規定されていた。
しかし、新しい産業である『IT』は従来の枠に捉われることなく、また非常に進歩の早い業界であるが故に、既存の枠に組み込まれることなく、著者の言葉でいうならクロスカースト(各種カーストに横断的にまたがる)の職となり、カーストに関わらず、純粋に職業へ適性・遂行能力だけが問われるモノとなった。
それが、長年にわたって停滞してきたインド社会・経済に風穴を開け、
個人の才能と努力によって、富を得る機会・仕組みをもたらしたと述べている。
この辺の話は、NHKスペシャルや日経新聞の記事でも散見する話で、私も知り合いと話す時に聞くぐらいなので特に目新しい話ではない。
英語を話すこと、数学的な思考能力に長けていること、欧米との時差、他に個人の能力を発揮できるような代替的な職業の不在、等々のインドのIT産業躍進の要因は、まして言うまでもないでしょう。
インドにおける宗教と政治の話は、本書で日本人には馴染みのないものとして説明されているが、一時、映画の『踊るマハラジャ』とかが話題になった時、その続編は娯楽番組ながら、まさにインドの宗教や風土、政治を絡めた紛争なども織り込まれてました。ちょっと意識すれば、そんなところからでも分かるでしょう。普通に経済紙読んでてもそういった話は出てくるし、知らない人の方がいささか無知だと思う。
それ以外にも、農民が文盲で無知なのをいいことに、経済のグローバリゼーションの犠牲になって搾取される話が書かれているが、そんなのいつの時代でも、どこの国でも普通でしょ。「プーラン」の本、読んだことあるのかな、著者は?
現在の中国でもそうだし、一度中南米とか行って勉強したらと言いたいかも?海外旅行行って、一人で街中をうろついていれば、いくらでもその片鱗に触れずにはいられないと思うのですが・・・。
著者のどこまでもジャーナリスティックな、感情的な視点は読んでいてどこまで偽善的なのか、それとも本質的に無知なのか、苛立ちを覚える。
何しろ、現地にずっと行っていたのではなく、あくまでも取材で数回インドに行ったレベルの人が書いた、そういう背景を考慮して読むべき本です。
ただ、表層的で視点は、過分にジャーナリスティックであるとしたものの、変わりつつあるインド社会と、成長しつつあるIT産業という視点では、それなりによくまとまった入門書となっていると思う。
実際、私は本書を読んで初めてインドの大学の入学試験にカーストによる優遇枠があることを知りました。う~ん、この辺は自分、無知でしたね。
アメリカの大学で、黒人枠やヒスパニック枠があるのは知っていましたが、インドの大学の枠、大き過ぎ!
入学させても卒業できないほどのレベルの低い生徒を受け入れても、大学側・入学者側共に不幸でしょうが、政治家を始めとする利権や既得権益に絡む政治的な事柄みたいで大変みたいです。
どこの国も社会もそういう点では一緒ですね、ハイ。
決して、インドを知るための深い理解をもたらす本ではありませんが、インドの現在を知る最初の本としては、良いかも。もう既に古くなりかけですけどね。
日々のニュースに出てくる、新興国インドの方がより刺激的です。その際に書かれる新聞や雑誌の記事などは、より詳しく・最新ではあるももの断片的で一部分に特化しているので、この手の本でざっと全体像を眺めるのも悪くないかも。
でも、こんなもんじゃないでしょうね。一度くらい、インドの人とも仕事してみたいかも? 韓国や中国のIT系の技術者とは仕事したことあるんだけどね。
しかし、日本は何をして、何の分野で生き残っていくんでしょう。アウトソーシングは、確かに短期的な利益をもたらしますが、それで失われる(蓄積されない)ナレッジこそが、成長への源泉と思うのは、時代遅れの発想なのかしら???
問題があっても躍進していく新興国に比べ、斜陽の一途を辿っているように見える日本が気になる私なのでした。つ~か、自分自身が心配でもあるのですが・・・。
【目次】ITとカースト―インド・成長の秘密と苦悩(amazonリンク)
第1章 インド社会=見落としていた視点
第2章 だからインドはITを必要とした
第3章 成長に参加できる人、できない人
第4章 インド最下層の現実
第5章 成長撹乱要因としての政治
第6章 それでも成長するインド
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