2009年12月27日

「3年で辞めた若者はどこへ行ったのか」城繁幸 筑摩書房

以前読んだ同じ著者の本。タイトルは、二匹目のドジョウ的な匂いがしますね。

実際、中身は確実にパワーダウンしている。書かれていることは、もっともことだし、今現在の民主党政権でも変わらずに残っている、否、自民党政権よりもはるかに改悪されつつある諸政策の妥当性をも疑問に思わざるを得なくなったりもするが・・・。

いわゆる政治的な本ではない。淡々と現状の問題点を指摘しつつ、幾つかの稀有な例(決して一般的な事例とは言えないだろう)を挙げつつ、こういったものもあるよ・・・的な現代の多様性、と同時に反射的に浮き上がってくる問題点を気付かせてくれるところはある。

読んでいて、同感だと思うところも多々あるし、改めて気付かされる点もあるが・・・私にはどうしても個人主義的な色彩ばかりが色濃く印象付けられてしまうのですけど・・・・?

雇用や就労、さらには労働成果の分配なども含めて、広く現在の社会システムに問題があるのは分かるし、個人的な視点も大切だと思うんですが、それだけじゃない気がしてなりません。

個人が一生懸命努力して会社の仕事をすることが、企業の発展につながり、国家の繁栄につながり、社会全体、いや世界中が豊かになることにつながっていく。非常にシンプルで分かり易い、立身出世モデルが存在し得ないのは分かるのですが、個人の求める幸せの多様化形態として、いろいろなモデルを示しても、そのどれもがあまりに個人主義的過ぎて違和感を覚えてなりません。

『人はパンのみに生きるにあらず』。マズローの欲求段階説ではないですが、自己実現欲求は、決して所得額の最大化や、ステータスのある職に就くことではないでしょう。

仕事をすることで、成果をあげるとは言っても、その成果は企業にとっての利益そのものではなくても、新しい技術革新による社会の発展への貢献や、小さなことでは身近な同僚の作業軽減、事務処理時間の短縮などによる同僚からの賞賛であってもいいでしょう。

自分の仕事を通じて、シンプルに『人の役に立っている』それが実感できるだけでも、人の行動は変わるし、気持ちも変わるし、社会へもプラスに作用すると私は信じていたいですね。

本書ではそういう点には、明示的には触れていません。というか、あえて論点を明確化する為に避けているのかもしれません。読んでいて、どうにも違和感を覚えます。

前回の本は面白かったけど、本書はどうでしょう???

個人の幸せと社会の幸せは、結び付かないように思えてしまうのですよ。私が本書を読んでいる限りでは。

幾つかの提言的なものもあるのですが、ミクロの新古典派経済学的な合理的経済人を前提にしてませんかねぇ~。個々人が努力すべきなのは、当然だし、もっと&もっとすべきだとは思います。自分自身の為にもね。

でも、同時にそれは小賢しい自分のスキルアップとかその程度の次元で終わらなくてもいいのに・・・と思うんです。自分が気付いた事、新しく生み出した効率的なアイデア、周りと共有化して、さらにみんなでブラッシュアップしていくことの方が、より高みへ、満足度の高い成功へと繋がっていくと思うのですが・・・・。

みんながみんな『小人(しょうじん)』にならなくても良いのではと思ってしまい、悲しいです。

自分の為に努力する事で、結果的に周りにも役立ち、回りまわって自分に戻ってくるような、遣り甲斐のある努力をしたいものです。

だからこそ、私は自分の関心がある方向で、可能な限り、今やっている職務に関連する方向で勉強したりしていきたいと思ったりする。

私には、本書は読む必要ありませんでした。お薦めもしません。社会が変わるのを待つよりは、自分を変えましょう! その為に自分ができることことから、まずは行動すべきでしょう。

本書を読んで共感し、納得し、それで終わるなら、居酒屋で上司や会社の愚痴言っているだけと変わりません。一応、私自身も行動し、今も少しづつでも行動し続けているいつつもりですが、本書には、物足りなさを感じてなりません。

先日も友人と話していて思いましたが、中途半端な成果主義の導入がかえって、年功序列に隠された、数字にならない努力(部下の指導、他部署の仕事を支える縁の下的な働き)などを切り捨てることで日本企業がインフォーマルで持ち得たノウハウ等の優位性を失った点なども昨今では着目されつつあるが、本書ではあくまでもその辺を考慮する配慮を失している。

筆者の主張は確かにある層には受けるが、社会を長期的・持続的に変えていく本物の力とするには、バランス感覚の欠如を感じてならない。もっとも中庸に過ぎれば、抵抗勢力に懐柔されてしまう恐れもあるので難しいところなんでしょうけどね。さてさて。
【目次】
第1章 キャリア編
第2章 独立編
第3章 新世代編
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「若者はなぜ3年で辞めるのか?」城繁幸 光文社(amazonリンク)
ラベル:書評
posted by alice-room at 20:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 実用・ビジネスB】 | 更新情報をチェックする
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