
実に正統的なファンタジー物語です。
遠い昔に羽根のある人々と羽根のない人々が世界を分かち、互いの交流が絶えたまま、時の経過した世界。
羽根のある人々は、地上から伸びた柱の上に巨大なかりそめの都市を作り、そこで新しい生活を形づくっていきます。一方、忘れ去られたはずの地上でいつくばるように生きていく人々。
ファンタジーといいながら、本書を読んでいて私はトマス・モアの「ユートピア」を何故か思い浮かべました。
人は亡くなると、昇天し、天上の世界(来世)へと生まれ変われる。地上の人々の儚い集団幻想を糧にして、非労働者階級たる宗教者が特権階級として君臨し、搾取する様は、何気に痛烈な現世批判にも通じ、いろいろと暗喩(明喩?)された組織など、実に興味深いです。
と同時に、最初から最後まで人として倫理的に正しいと信じられるような、今では珍しいぐらいに人文主義的精神の発露もみえ、力強さも感じられました。
主人公の少年もくせはあるものの、良い子だもんね。
翻訳の訳文も一語(おそらく苦肉の策でしょうが?)以外は、違和感なく、自然に読めるし、悪くない作品だと思います。
本来ならば、普通に誉めれば良い作品なのですが、正統過ぎて、展開が100%予測の範囲内であり、正直読んでいてドキドキ感や過剰なまでの感情移入、驚き等の気持ちはありませんでした。
淡々と読めてしまい、いささかの読後感はあるものの、物足りないかなあ~というところでしょうか?
まあ、めでたしめでたしで終わる作品もあって良いのかもしれません。
スカイシティの秘密―翼のない少年アズの冒険 (創元推理文庫)(amazonリンク)