2006年03月01日

「ハーメルンに哭く笛」藤木 稟 徳間書店

fuefukku.jpg先日も読んだ盲目の探偵朱雀が主人公のシリーズものの続きです。前回のもの(黄泉津比良坂)も諸手をあげて傑作だ、とは言えないものの最近読んだものの中ではなかなか読ませる作風で、作中に豪華件絢爛に撒き散らされた知識の数々にいささか心惹かれるものがあって印象に残っていました。

そのうえに、これも先日読んで大感激した「ハーメルンの笛吹き男」を題材にした探偵物でしょ。池袋のサンシャインでやっている古書市で見つけたなり即購入してしまいました。

さてさて、で、実際の本はというと…。
前回は横溝先生のノリでしたが、今回は江戸川乱歩先生のノリですなあ~。軍部が幅をきかしていた昭和初期ぐらいが舞台。帝都を震撼させる謎の笛吹き男が起こす不可思議な犯罪の数々。ハーメルンが如く、子供達を30人もかどわかし、その手足を切断して放棄された遺体やら、なにやら怪しいサーカス団や浅草界隈の猥雑さなど、まさに江戸川先生を彷彿とさせます。

今や懐かしい(といってもピンとこない若い人もたくさんいそうですが…)エロ・グロ・ナンセンスの雰囲気がプンプンしています(笑)。元検事でありながら、今は吉原の法律顧問を務める盲目の弁護士探偵が複雑怪奇な謎を、皮肉や冷笑と共に快刀乱麻のごとく解いていくのはなかなかに鮮やかです。

前回と異なり、今回はプロットがかなりしっかりと作り込まれていて完成度も高いです。客観的に言うと実に良く出来ている最近では珍しい本格探偵物とでも言えましょうか。出てくる登場人物も、小人やフランケンシュタインからマッド・サイエンティストに至るまでまさにオン・パレード。いやはや豪勢です。

ただね、これだけの作品であり、批判するようなことは何もないんだけど、個人的にはどうにもイマイチのり切れないのがなあ…。読んでる時は、結構引っ張るものがあるんだけど、横溝氏や乱歩氏の読後になんとも言えない余韻が残るものが何もない、それが私的にはお薦めとまでは言えなかったりする。

気分爽快な読後感や、感動・感激、あるいはなんとも言えないやりきれなさや、最悪の場合、鬱になってしまいそうな落ち込み感、そういったものがまるで感じられなかったりする。これはもう著者との相性の問題なのかもしれません。面白かったんだけど、なんか素直に笑顔で面白かったよ~!と言えないのが残念。

とにかく、決してつまらない作品ではないので機会があれば読んでもらうとこの気持ちが伝わるかな?エロやグロの表現も、どぎつくないのはむしろ嬉しいのですが、その背後にある人間のドロドロした感情を表現し切れていない、そんな不満足が残ってしまうのかもしれません。

ハーメルンに哭く笛(amazonリンク)

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posted by alice-room at 22:14| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 小説A】 | 更新情報をチェックする
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