2006年03月04日

「最終戦争論・戦争史大観」石原 莞爾 中公文庫

この本を読まずして第二次世界大戦がどうだった、こうだったという人の言う事は、あまりあてにならない。普通の人が言うならばまだしも、そういったことに関心があり、それなりのことを主張するならば、絶対に目を通しておかなかればならない必須の参考文献でしょう。

実はこの本を読むのはもう2回目、3回目かな?最初に読んだ時には、私もあまりにもモノを知らない頃だったので本当に目からウロコとでも言うべき衝撃を受けた本です。ただ、さすがに今回は、淡々と読めてしまった。最初に読んだ時に受けた強烈な感動は一切無かった。

それであっても本書は、日本が経験した第二次世界大戦を当時の指導者層がいかに考え、何故にあのような行動を採ったのか?それらを知る貴重な資料である。まして著者は、あの満州事変の立案・実行者なのであるから…。彼がいたからこその満州国成立であったのだから。

時代により人の評価は豹変する。歴史それ自体が、常に同時代や未来からの批判にさらされているのであり、一定した評価を永続したことなどない。まして本人の意図は別にして、結果として日本が泥沼の長期総力戦にはまり、敗戦国日本につながった直接原因の一つであることは明白な事実である。アジア諸国に不幸と禍根を残し、今現在においても民族的誇りや自信を失った日本人、その姿を作り出した責任を負わないではいられないだろう。

しかし、今の私達が何にも知らずに無批判で当時の戦争を起こした指導者層、中でも軍部を貶める事は果たして正しいことなのだろうか? 適当でその場限りのマス・メディアからの常識論などで戦争反対を叫ぶ輩は、世間の風潮が変わると真っ先に宣戦布告を叫ぶ輩である。周囲に迎合せず、常に自分で調べて価値判断を下せる人がどれだけ今の世の中にいるのだろうか?戦争反対を叫ぶ人にこそ、まず読むべき本であり、また、現代の日本で中国脅威論から、軍備を増強すべしという人ももう一度立ち止まって、何の為に軍備を増やすのか、その先にあるものは何なのかをしっかりと見極める必要を痛感させる本だと思う。

第二次大戦における空軍の重要性をいち早く見抜いた先見性と世界におけるミリタリーバランスの最終均衡点を見越したうえで日本が何をすべきかを確定させていく戦略性、それを完遂させる強靭な意思力。これこそまさに真の作戦参謀であろう。(私が会社で経営企画をやっていた時は、意思力が欠けていて経営戦略を完遂できなかった記憶が多々ある。特に石原氏の意思力、これに私は称賛の声をあげたい)

彼が戦史研究から進んで、戦争の最終形態やその軍事的均衡についての予測を打ち出し、その瞬間において日本が真に世界平和の役に立つと信じている点がまず何よりも思想の根幹にある。その為の軍備であり、その為の満州国であり、王道楽土や五族協和なのである。石原氏が当初から中国や満州国での現地の人々との間にいかに信頼関係を気付くか、心配していたのは当然のことである。人々から支持されない大東亜共栄圏など意味がなく、あくまでも欧米の力による支配「覇道」に対して徳による支配「王道」こそが日本の採るべき道である。それがまさに彼の思想なのである。

しかし歴史は冷笑家だ。彼があってはならないこととして恐れていた日本人の傲慢さ、尊大さがアジア諸国民から離反を招き、ひいては日本による「覇道」が行われてしまうのである。なんとも残酷な皮肉であろう。まるでイラクにおける多国籍軍(捕虜を虐待し、コーランを侮辱するアメリカ軍の姿が奇妙にだぶってしまう…)のようだ。

石原氏のこの戦争論は、軍事専門家としての識見とともに、彼が熱烈に信奉した法華経の価値観が不思議なことに渾然一体として成立しているが、そこに見出される判断の確かさや結論に至るまでの論理性は十分に注目に値する。論より証拠、本を読めば彼の非凡さが首肯されるだろう。

勿論、未来の事を予測している以上、今からみると明らかに異なっていたりするものもある。ただ、どんなに論理的思考を進め、合理的な判断を下しても蓋然性に左右される未来を100%予測することはそもそもありえない以上、予測を誤った点を考慮してもやはり天才だろう。

戦後、東京裁判で国際法上、戦勝国が敗戦国を裁く法的根拠の有無を問い、この裁判の法的無効性を明確にした逸話など枚挙に暇がない。もっとも彼がいたからこそという逆説的な面もあり、一概に言えない。少なくとも、石原氏本人は素晴らしい軍人であり、誇って良い日本人だと考える。それであっても、彼がした行動が正しかったとは言えない。同時に、その行動の背景を知らぬ者の批評など、戯言以外の何物でもない。

自分で判断し、自分で物事を考える人が、第二次大戦を採り上げる時に是非、読むべき本であると思う。つまらない歴史の教科書を一冊読むくらいなら、この本を読むだけで、はるかに重要な事に気付くことは間違いない。

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関連リンク
石原莞爾 Wikipedia
石原莞爾 大湊書房
posted by alice-room at 01:00| 埼玉 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 歴史A】 | 更新情報をチェックする
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