2010年04月04日

「聖遺物崇敬の心性史」秋山 聰 講談社

久しぶりに聖遺物である『聖母の肌着』を拝みにシャルトルに行くのでふと読んでみた本です。

聖遺物に関する本は、何冊か読んでいますが、ほとんどがフランスについてのものでしたのでドイツに関するものは、初めてでした。

本書を読んで初めて知る事もあり、読む価値はあったと思うものの、記述されている内容や表現でかなり違和感を覚える部分があって、個人的にはあまり好きになれない本です。

例えば、聖遺物に関する目録のようなパンフをグーテンベルクが印刷していたり、あのクラナッハが挿絵を描いているなんて、想像もしませんでした。

グーテンベルクが贖宥状を印刷して、儲けた金を印刷技術の改良に注ぎ込んでいたりしたのは、いろいろな本で知っていたのにね。ちょっと意外でした!

そして、ルターが匿われたヴィッテンベルク城でしたっけ? そこが逆に言うとある種、非常にリベラルな雰囲気を持った土地であり、それ故に、宗教改革へつながる契機をもたらしたというその感覚、本書を読んで初めて知りました!!

これは大変勉強になりました。

その一方で、聖遺物を捉える記述がなんかなあ~。なんか稚拙に感じられてなりません。だって、要は間接キスを意識する現代人と同じでしょ。

アイドルや有名人の触れたものに、オークションで大金をはたく人々と心象的にはなんら変わることがないのに、なんかしらじらしいほどの分類と記述には、苦笑させられました。

しかもその説明に価値があるようには思えないし・・・。

それとサン・ドニのシェジェールの光の形而上学についても、もうちょい説明しないと、訳分からないものになっていません? 黄金伝説への言及もあまりにも寂しい限り・・・。

そして、絶対に止めた方がいいのがATMを例にあげた比喩。ここは全然意味があっていません。おかしいでしょう。共通するのは、どこからでも引き出せるの一点のみで、その引き出す仕組みや意味が全く違うので、物凄い違和感と卑俗な感じで本書を陳腐にしていると思います。

別に一般書に格調高さを求めていないけど、正直呆れました。

他にも似たような点があり、学校の授業ならそれもいいけど、本でそれは止めて欲しかった。

まともに関心がある方にはお薦めしません。もうちょい、マシな本を読みましょう。

分かり易さは、粗略な比喩と安易な省略ではないと思います。類書が少ないだけにもったいない本でした。残念だなあ~。
【目次】
第1章 聖遺物の力
第2章 トランスラティオ(聖遺物奉遷)と教会構造
第3章 黄金のシュライン―聖遺物を納める容器
第4章 聖遺物容器のさまざまな形態
第5章 聖なる見世物―聖遺物/聖遺物容器の人々への呈示
第6章 聖なるカタログ
第7章 聖性の転移
聖遺物崇敬の心性史 西洋中世の聖性と造形 (講談社選書メチエ)(amazonリンク)

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黄金伝説 ~聖人伝~ ヤコブス・デ・ウォラギネ著
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放射性炭素年代測定法がアッシジの聖フランチェスコの礼服の年代に疑問を投げかける
「聖母マリア」 竹下節子著 講談社選書メチエ 覚書
他にもうちのブログ内には多数。
posted by alice-room at 20:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 歴史B】 | 更新情報をチェックする
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