2010年04月18日

「古書の来歴」ジェラルディン ブルックス ランダムハウス講談社

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本書については、このブログのコメントで大阪のマリアさんから、教えて頂き、OZさんにはっぱをかけられ(?)、私自身も興味が湧いたので気にしていました。

先日、図書館で見つけたので早速、借り出し、読んでみました。

紛争の地、サラエボで行方不明になっていた500年以上前の稀覯本。それが実際に見つかった史実を契機にして、ピューリッツァー賞受賞(個人的にはどうでもいいのですが、枕言葉なのでつけときます)の著者が書いた、本を巡る(人々の)数奇な運命を描いた作品です。

原題は"People of the Book"。

確かに『古書の来歴』という邦題の方が一見すると分かり易いのだけれど、原題の方が本書の内容を正確に指し示しています。

本書は、一冊の古書『サラエボ・ハガダー』(ユダヤ教の祈祷書)を巡り、それに関係したさまざまな時代の、さまざま階級・社会の人々の姿を描いていきます。あくまでも力点は、本そのものよりも本にまつわる人々が描かれています。

オムニバス形式で、異なる時代、異なる地域を舞台にした独立した短編集のような感じです。それが一冊の稀覯本を横軸に貫く形で、結び付けられているのですが、稀覯本を巡る小説としては、ちょっと珍しい感じです。

内容も面白い、というよりは、読後にいろいろと深く考えさせられるところが多々ある本と言えば、良いでしょうか・・・。

人としての存在、価値観、いろんな観点で、個々のエピソードそのどれもがかなり重かったりする。正直、かなり暗い。いささか鬱系。

でも、そういった制約のある環境下でも、志高く生きている人の姿を垣間見れ、人の善性について、素晴らしさについて感じるものがある作品です。

その反面、本そのものについては、いささか物足りない感じがしないでもないです。つ~か、もっと情報欲しいですね。古書を扱う専門家・職人としての仕事の描写は、結構詳しくてそそるだけに、その辺ももっと知りたいですねぇ~。

ただ、作品全体からのバランスからすると、そこだけボリュームを増すのは正しくないのかもしれないのですが・・・う~ん、我ままな希望かも?

さて、問題の本。

偶像崇拝につながる絵画表現が禁止され、挿絵等は本来は有り得ないとされたヘブライ語で書かれてユダヤ教の装飾写本。まさに歴史が変わる一冊の稀覯本が実在し、一度は紛失していたものが発見され、戦火の中、イスラム教徒の学芸員が命懸けで守り抜いたというのも事実だそうです。

そんな本を題材にしているので、古書好きや稀覯本好きにはただでさえ、たまらないものがありますが、諸々の西洋史なども分かっていれば、本書は更に興味深いものになります。

イスラム教・ユダヤ教・キリスト教。この三つが多様性を維持できたのがまさに中世のスペインであり、レコンキスタの完成が、むしろ平和の終結に他ならなかった歴史の皮肉さを痛感します。

アルハンブラ宮殿内にある、カール5世の宮殿の台無し感を彷彿とさせます。

と同時に、今現在同時進行中の紛争についても、つくづく考えさせられます。知り合いがイスラエルの多国籍企業で働いているのでよく話を聞きますが、本当に違うよなあ~。

今度、また会った時にいろいろ聞いてみよっと。

それはそうと、あとでこの『サラエボ・ハガダー』調べてみようっと!!

【追記】
そういやあ~スペインの異端審問のところには、あのトルケマダの名前が・・・。他にも知っている人なら、ピンとくるようなものがあちこちに散りばめられているのもそそります。

古書の来歴(amazonリンク)
ラベル:小説 書評 稀覯本
posted by alice-room at 19:47| Comment(4) | TrackBack(0) | 【書評 海外小説B】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
読まれましたか。
わたしも古書についてもう少しいろいろ書いてあるかと思いましたが、でもこれはこれでおもしろかったです。
古い本には、いろいろな人が携わってきた歴史があるということをあらためて考えさせてくれました。
小さなしみや入っていたゴミにも歴史がある。すごいことですね。
これを読んだら、図書館で借りてきた本にはさまっているゴミや汚れにまで寛大になれたり・・・・はしないけど(笑)
Posted by 大阪のマリア at 2010年05月04日 11:49
こんばんは~。
はい!読ませて頂きました。
なかなか興味深かったです(笑顔)。

今でこそ、読み捨てられてしまう本もある時代ですが、本にはたくさんの人の叡智と想いがつまっていた時代が確かにあり、モノとして存在し続ける『本』には、格別な歴史を伴うものがあることを改めて感じさせられました。

図書館の本は、返却時にチェックがあるのでイマイチかもしれませんが、古書店に並んでいる本には、ほんとうに驚くようなものが挟まれていたりするらしいですし・・・。

よく聞く話かもしれませんが、ハガキやら領収書、蔵書印なんかも実に興味深いものがあったりしますね。

私も古書店で購入した本を読んでいたら、びっくりした経験がありました(笑)。もっとも最近は、重ねた本の重みから、新しい本は買えないでおりますが・・・(苦笑)。

そうそうこのサラエボ・ハガダー、日本の国会図書館に復刻(?)版があるようですね。英語の記事も少し調べてますが、サラエボの博物館のサイトでは、現在、検索できない感じです。以前はできたようなのですが・・・?
Posted by alice-room at 2010年05月05日 21:01
はっぱかけましたか?
全然記憶にないワタクシ(苦笑)
へぇ、こんな本もあるのね、とタイトルみて
思ったワタクシって・・・・・

でも、おっしゃるとおりこれはこれで読んでもいいかもしれませんね!
Posted by OZ at 2010年05月19日 12:07
こんばんは~。

>はっぱかけましたか?
>全然記憶にないワタクシ(苦笑)

よくある話ですよねぇ~(笑)。

小心者の私は、きっともう強迫観念のように思っていたりして・・・全然してませんが・・・。

そういえば、サラエボ・ハガダーのこと調べて書きかけのまま、忘れてました!

う~ん、日々の生活に追われ、記憶力が日増しに衰えてゆくような・・・。

探してみよっと・・・。
Posted by alice-room at 2010年05月19日 23:26
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