2006年03月14日

「異貌の中世」蔵持 不三也 弘文堂

阿部 謹也氏の「ハーメルンの笛吹き男」を読んで以来、なんか中世のそれ系の本に関心がいってしまい、だいぶ前(半年)に買ったまんま未読の山に埋もれていたのを掘り起こした一冊です。

1章と2章が安部氏に近いものがあってなかなか面白いんですが、3章、4章とつまらなくなってきます。せいぜい3章まで終わっていたら、素直に面白い本でした~と感想を書けたんですけど・・・ね。

ある種の抑圧された中世社会における大いなる祝祭として、教会内部の彫刻に刻まれたスカトロジー的図像や性的図像、道化の姿などが非常に興味深く語られています。聖なるものをあえて逆転して茶化す、といった心理が当時の社会をよりリアルにイメージさせてくれます。日本でも有りますが、神社にある大きな陽物(男性器)の置物やお祭りなどで練り歩くハリボテなど、そういったたぐいのものと相通ずるものが紹介されています。

聖なる教会の中にそういったものが刻まれ、聖人のお祭りに破廉恥きわまる無礼講が繰り広げられさまは、他の本で読んで知ってはいましたが、結構詳しく描かれています。また道化やら楽師やらという特殊な存在が社会に果たした役割や社会での受け入れられ方などは、普通の中世史にはあまり採り上げられないトピックだけにちょっと珍しいかも。その辺はそこそこ面白かったです。

他にも聖人崇拝を通じて拡大していく都市と経済。同時に経済の発展に伴い、盛んになっていく聖人崇拝など、相互補完的な関係などもちょっと面白いと思いました。

でもねぇ~、本書全体を通していえると思うんだけど、イマイチ文章がうまくない。用語が無意味に分かりづらいものを使っていて(たぶん著者は自分にとって分かり易いことしか考えないみたい?)、私のような普通の人が読んでもあれれっ、何小難しいこと言ってんの?と思ってしまうことがたびたびあった。もっと分かり易く説明できるのに・・・失礼ながら、いかにも頭の柔軟性を欠いた学者さんが一般向けに書いた本という感じがする。この人の講義は受けたくないなあ~、つまらなそうな感じ。

どうせだったら、分かる人だけ分かればいいよ、的なスタンスでもっと突っ込んでしっかりしたものを書いてくれれば、それはそれで私はすっごく評価するんだけど・・・。大変だけど、内容されあれば頑張って読むんだけどね。これは中途半端な本だし、素材がいいものなのに料理の腕がいまひとつかも。

お薦めはしないけど、扱ってるテーマが珍しいから目を通すくらいはしてもいいかな。でも、なんか消化不良な感じです。著者の情熱を感じる本が読みたいなあ~。
【目次】
序章 シドッチの風景
第1章 祝祭としての教会―笑いの図像学
第2章 救いとしての教会―聖母信仰の社会史
第3章 歴史としての教会―伝承の背景
第4章 教会の力学―ペストを巡って
終章 民衆文化とキリスト教の位相

異貌の中世―ヨーロッパの聖と俗(amazonリンク)

関連ブログ
「中世の窓から」阿部 謹也  朝日新聞社
「ハーメルンの笛吹き男」阿部 謹也 筑摩書房
「名もなき中世人の日常」エルンスト・シューベルト 八坂書房
「動物裁判」池上 俊一 講談社
「ペスト大流行」村上 陽一郎 岩波書店
「中世の女たち」アイリーン・パウア 新思索社
「カンタベリー物語」チョーサー 角川書店
「フランスにやって来たキリストの弟子たち」田辺 保 教文館
モンタイユー 1294~1324〈上〉エマニュエル ル・ロワ・ラデュリ 刀水書房
「フランス中世史夜話」渡邊 昌美 白水社

中世に関する本、まだまだたくさん読んでるなあ~。ここに書き切れないけど、我ながらちょっと驚いたかも?
posted by alice-room at 23:31| 埼玉 ☀| Comment(2) | TrackBack(0) | 【書評 歴史A】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
丁度この人の講義受けてます。
今試験なんですが、講義の感想は大体同じかんじです。

学者さんは自己世界で完結するタイプの人が多いですね。
Posted by えっと at 2010年07月19日 02:50
おはようございます。

やはり普段から、こういう感じなんですね。
学者さんの場合、研究者の側面と教育者の側面があり、両方兼ね備えている人ばかりではないですから・・・。

>学者さんは自己世界で完結するタイプの人が多いですね。

確かに他の社会以上に、多い感じがしますね。

まあ、教育者としては、及第点に達しなくても研究者として立派な方もいますので一概には言えないかもしれませんが、せっかくならその学識をうまく伝える努力もしてもらえるといいのですが・・・。

コメント有り難うございました。

Posted by alice-room at 2010年07月19日 08:38
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