2006年03月20日

「中世の巡礼者たち」レーモン ウルセル みすず書房

聖遺物を巡る旅。最終目的地であり聖ヤコブの眠るスペインのサンティヤゴ(サンティアゴ、サンチャゴ)・デ・コンポステーラの大聖堂を目指し、富める者も貧しき者もがそれぞれの悩みを抱えて神へのとりなしを求めていく。

中世の教会というと中世の一大封建領主であり、貴族諸侯と変わらぬ俗物が主となり、その地位が贈与や聖職売買の対象となった堕落した姿をまずイメージしてしまうのだが・・・。

そんな悪い面ばかりではないんですね。二度とは生きて戻れないかもしれない危険を冒して巡礼する信仰心篤い人々。堕落した上位聖職者とは裏腹に、彼らの役に少しでも立ちたいと無料の施しや病に倒れた際の救護、一夜の宿を提供する修道士や地元の庶民・有力者。えらくはないかもしれないですが、一番キリスト教徒としてあるべき奉仕や献身を何の報酬も考えずに行う人々の存在があったことを知りました。

四国のお遍路さんなんかにもこういうのが確かあったことを思い出します。遍路道沿いにお遍路さんが夜露を凌げるように泊まれる場所や食事を提供する習慣があったみたいです。国や宗教は違っても、そういったものに対する崇敬の気持ちって変わらないんですね。う~ん、こういうのって人間の素晴らしいところだと思う。

と同時に、そういった旅人を襲って強盗を働くならず者や、ふっかけて高い通行税を取ったり、高い食事代金や宿代を請求する悪徳商人の存在も普遍的にどこでもあったらしい。東海道中膝栗毛によらずとも、旅人を騙してぼったくるのは変わらない。現在でも世界各国の観光地に行って、この経験をしなかった土地などなかったと思う。旅には危険がつきものである。

もっとも、本書に出てくる巡礼者はそのごく一部しか見事願いを叶えて故郷に生還した者がいなかったので、「巡礼に出る」それは既に今生の別れに他ならなかったらしい。まして、彼らは地図も持たずに行き当たりばったりに近い様子で道行く人に尋ねながら行くのである。十分な資金も食料も持たずに、ひたすら喜捨に頼りつつ進むその姿は、自ずから神聖な存在に近づいていくのかもしれない。

著者は実際に自分の足で何度もこの巡礼の道を歩いたうえで多角的に採り上げている。いささか(かなり?)退屈なところもあるのだが、この巡礼の道を行く人々がどのような気持ちで何を求めて、無謀と思える行動に駆り立てられたのか? 彼らが実際にどうやって巡礼を成し遂げたのか? それを可能にした社会的・宗教的・時代的環境など、興味深い記述が多い。

自らの土地支配権の拡充の一環として、巡礼者の保護の為に巡礼の道沿いに礼拝堂を立てて宿を提供したりすることが地元の有力者のステータスシンボルであったことや、クリュニー修道院がスペインの世俗権力との関係を深めていく過程でスペインをフランスの緊密化を図り、異民族イスラム教徒からスペインを守る為にも信仰を強くしつつ、この巡礼の旅を後押ししていたなど、この本を読んで初めてこの巡礼という大きな社会的存在を理解できたような気がします。

巡礼の人々が胸につけるホタテ貝のシルシなんかの話もへえ~って思うもんね。今なら記念の絵葉書や写真でも撮って帰ってくるところですが、聖地に行った記念として何らかの証(あかし)が欲しかったんでしょうね。ふむふむ。

でも、本書を読むの結構大変です。これ書いてる時点でまだ100ページぐらい残ってるし。読んでるうちに次々にいろんなことが出て忘れてしまうのでパラレルでブログにメモ書きしてるぐらいだらもん(笑)。

ただ、写真ばかりの巡礼の本よりもこちらの方が得られるものは多いですね。中身のないサンチャゴ・デ・コンポステーラへの巡礼本が最近日本でも結構あるけど、やっぱりこちらの方がいいかも? もしも実際に巡礼に行くならこの本はいいと思うなあ~。

私的には、サンチャゴ・デ・コンポステーラへの巡礼と四国のお遍路さんをやるつもり。今はちょっと余裕がないので無理だけど、一度はやっておきたいよね。何か自分の中で気付くことがあると思う。但し、徒歩かMTBでね。個人的な思いこみだけど、車やバイクとかで周るのはあくまでも観光でしょ。何も見えてこない気がする。できれば、徒歩でしっかりと一歩一歩確かめて経験すべきことだと思う。

って、その前に金貯めないと・・・。地獄の沙汰も金次第、っていうのは果たして真実か否か?(笑)

さて、上記のことを書いてから2時間経ってようやく残りも読み終えた。後半になると、巡礼の道々に建つ教会建築(大聖堂)に関する説明になってくる。図版がないので、文字による説明だけでは正直言って理解しかねるが、別な資料と合わせて読むときっと面白いかもしれない。私はそこまでしないけど。

中世の巡礼に関連するものには貪欲に触れてイいて、資料としての価値は高い感じがします。ただ道であるので地名がたくさん出てくるのには辟易した。イメージできないし・・・。それを我慢すれば、十分に価値ある本。でも、予備知識がないとこの本の面白みを味わえないと思う。どうしてもある程度は、知っていないと辛い。本書だけを中世のことを何も知らない人が読んだら、苦痛でしかないだろう。私の場合は、苦痛の合間に断片的に知っていることがあったのでだいぶ救われたというのが正直な感想だったりする。
【目次】
1 キリスト教における初期の巡礼
2 中世における巡礼の社会的・宗教的状況
3 道
4 巡礼者の祈りと振舞い
5 荒々しくも力強い作品―『サンティヤゴ巡礼の案内』
6 『案内』と巡礼の組織
7 スペインとフランスの道
8 詩的ともいうべき学説―「巡礼路の教会」について
9 ロマネスク巡礼の他の聖堂
10 つねに巡礼者

中世の巡礼者たち―人と道と聖堂と(amazonリンク)
関連ブログ
マグダラのマリア~「中世の巡礼者たち」より抜粋
「巡礼の道」渡邊昌美 中央公論新社
「中世の奇蹟と幻想」渡辺 昌美 岩波書店
「スペイン巡礼の道」小谷 明, 粟津 則雄 新潮社
「フランス ゴシックを仰ぐ旅」都築響一、木俣元一著 新潮社


posted by alice-room at 00:46| 埼玉 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 宗教A】 | 更新情報をチェックする
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