【WIRED NEWSより転載】まあ、有料でコンテンツを提供している以上、ブリタニカが必至になるのも分かるけど、どうなんでしょうか? ネイチャーが間違っているなら、そのうち訂正するでしょうが、本質的な問題は、どっちが正確かということではないでしょう。
百科事典の米エンサイクロペディア・ブリタニカ社は24日(米国時間)、英科学誌『ネイチャー』が「オンライン百科事典のウィキペディアとブリタニカは、正確性で互角」と報じた(日本語版記事)ことについて抗議し、撤回を要求した(PDFファイル)。20ページにわたる書面で、調査方法に問題があると批判。ネイチャー側も反論(PDFファイル)し、名門同士が激しく対立している。
問題になったのは、2005年12月15日号の記事。科学分野の42項目について、正確性を調べたところ、両者とも重大な誤りが4件見つかったが、小さな誤りや漏れ、誤解を招く表現は、ブリタニカが123件、ウィキペディアが162件で、「大差はない」と伝えていた。権威ある雑誌がウィキペディアにお墨付きを与えた形になり、反響を呼んでいた。
しかし、ブリタニカ社によると、調査はウィキペディアとブリタニカの説明文を、外部の専門家に分析させる形で行なわれたが、全文をそのまま渡すのではなく、一部を削っていた例があったという。その手法で「説明に漏れがあった」と指摘されるのは不当と訴えている。ネイチャー側は、説明文の長さが公平になるようにブリタニカ側を削った事実は認めたが、逆にウィキペディア側を削った例もあると反論した。
また、調査対象がブリタニカ百科事典の説明文ではなく、簡易版の『スチューデント・エンサイクロペディア』の説明文だったり、ブリタニカとは関係ない文章が紛れ込んでいた例があった。これに対しネイチャーは、ブリタニカのウェブサイトで検索した結果、表示された説明文を調査対象としたためで、あくまでブリタニカのオンライン版とウィキペディアの比較調査だと強調。無関係の文章が混ざった事実はないと確信しているという。
ウィキペディアは、ボランティアでつくられており、限界もある。信頼性を疑う声もあるため、ネイチャーが調査を試みたというのが実情だ。そんな調査に、ブリタニカが真剣に抗議したことは、ウィキペディア人気に対する焦りもうかがえる。
ちょっと前に流行ったナレッジ・マネジメントではないが、一人一人の知恵を集めて有効に機能する仕組みさえ、できれば少数によるものよりもはるかに素晴らしいものを作り出せるというのが、その本質だと思う。
これをある面で捉えるならば、しばしばネット上のマーケティング用語でいわれるWEB2.0にもつながるものを強く感じる。言語の獲得、文字の獲得、印刷術の発明、そしてインターネットの発明。大きなパラダイムシフトが起こっているこの時代は、とても面白くて刺激のある時代だと思わずにはいられない。
そうそう、ブリタニカが怒った元の記事はこちら。私もよく利用するし、利用者の実感としても結構、詳しくよく書かれているなあ~と思っていたので、納得しちゃうけど。
『ネイチャー』誌、ウィキペディアの正確さを評価
【WIRED NEWSより転載】
ボランティアによって書かれた400万近い項目を擁するオンライン百科事典『ウィキペディア』は、科学分野の話題を扱った項目の正確性では『ブリタニカ百科事典』に匹敵する――このような趣旨の記事が、12月15日付で『ネイチャー』誌のオンライン版に掲載された。
この記事は、両事典の広範囲にわたる科学分野の記載を突き合わせ、比較した調査を基にしている。ウィキペディアが一部の項目で不正確だと批判されている中での掲載となった。
2週間前、著名なジャーナリストのジョン・サイゲンセラー氏は、同氏がジョン・F・ケネディー元米大統領と弟のロバート・ケネディー氏の暗殺に関与した容疑を長い間かけられてきたとの虚偽の情報を含む記述が、ウィキペディアに約4ヵ月前から掲載されていることを明らかにした(日本語版記事)。サイゲンセラー氏はテネシー州の『テネシーアン』紙の発行人、『USAトゥデイ』紙の初代エディトリアル・ディレクターなどを務めた。
ネイチャー誌は今回の記事の中で、このような誤った記述はどちらかといえば例外のようだとしている。この記事は、ウィキペディアと『ブリタニカ百科事典』の比較に、その分野の専門家による審査(ピアレビュー)を初めて用いたものだという。ネイチャー誌によると、複数の専門家で42項目を検討したところ、ウィキペディアは間違いや抜け落ちが科学分野の1項目あたり平均4つあったが、これに対し『ブリタニカ百科事典』は3つだった。
専門家の調査員が発見した8つの「深刻な間違い」――重要な概念の誤った解釈など――のうち、4つは両事典に共通していたとネイチャー誌は報じている。
これを受け、現在ウィキメディア財団(フロリダ州セントピーターズバーグ)が運営するウィキペディアを2001年に創設したジミー・ウェールズ会長は、「今回の調査結果をとても喜んでいる。これをきっかけとして、ウィキペディアの全体的なレベルは非常に高いという点に、人々が目を向けてくれることを希望している」と語った。
ウェールズ氏によると、ウィキペディアの記述の正確さは分野によって異なり、主にポップカルチャーや最新技術の分野を得意にしているという。その理由として、ウィキペディアを支えるボランティアが、全体的にこうした分野に詳しい傾向があるという点をウェールズ氏は挙げる。
逆に、年度別のノーベル文学賞受賞者といった人文系の分野では、ウィキペディアは遅れを取りがちだとウェールズ氏は話している。
ウィキペディアでは記事の正確さを審査する新しい仕組みを、来月から試験運用する予定だ。また、コンピューターやインターネットにそれほど詳しくない人が審査プロセスに加わりやすくする方策にも取り組んでいる。
米エンサイクロペディア・ブリタニカ社(本社イリノイ州シカゴ)の関係者は、データを見ていないとの理由でネイチャー誌の調査に関するコメントを控えた。しかし、このような比較は「他ではわからないことを教えてくれる」ため、正確に行なわれているのなら有益だと答えた。
一部のブリタニカ社の関係者は、過去にウィキペディアの記事の質を公に批判したことがある。しかしブリタニカ社は今回、無料サービスであるウィキペディアは「エクストリーム・アイロン掛け」といった話題にもついていけるような、フットワークの軽さと幅広さを持っていると称賛した。普通ならあり得ないような場所でアイロン掛けを競うこのスポーツは『ブリタニカ百科事典』に記載されていない。
ブリタニカ社では、社内の調査員がネイチャー誌の記事を検討し、発見された間違いはすべて訂正する予定だと語っている。
専門家からなるスタッフの調査・執筆に対し報酬を支払い、記載内容を有料で提供している『ブリタニカ百科事典』と違い、ウィキペディアはコンテンツを無料で開放しており、だれもが――プロとアマチュア、専門家と初心者を問わず――項目の投稿と編集を行なえる。
トラフィック・ランキングで有名な米アレクサ・インターネット社によると、200の言語で約370万の総項目数を誇るウィキペディアは、インターネット上で最も訪問者の多いサイトのランキングで37位に入っている。