2010年07月28日

「巡礼の文化史」ノルベルト オーラー法政大学出版局

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西洋の巡礼、サンチャゴ・デ・コンポステラへと向かう旅が中心となっているのは当然だが、キリスト教的視点だけに偏ることなく、西洋という地理的・中世以降という歴史的視点を含めて多角的な視点から、『巡礼』というものを採り上げている。

他にも何冊か巡礼に関わる本を読んでいるが、本書がそれらと特別に異なる訳ではないものの、読んで損したと思うような本でもない。

大上段からバッサバッサと切り込んでいくタイプの本ではなく、丹念にいろいろな同時代の文献から、関連する記述を集め、それらからよりリアルな当時の人々の様子(巡礼当事者、それらを送り出す側の人、それらに関わる奉仕者、それらから利益を得る利害関係者等々)を描き出そうとしている。

サン・ドニ修道院長のシュジェールがゴシック建築を生み出す原動力の一つに、幼い時に経験した混沌として悲劇的状況の狭い教会堂などの話は、ちょっと予想外だったかも?

まあ、巡礼者への便宜の為という説明はよく聞きますが、改めて本書を読むと、ちょっとニュアンスが違ってきます。

黄金伝説なども話自体は、かなり知っていますが、それが教訓とするところの捉え方では、新鮮な視点がありました。

あとね、当時の旅はまさに『死』に直結していた訳で、だからこそ自由を獲得できた半面、それは貧窮と困窮のうちに野垂れ死にする自由でしかなかったことも感じました。

そりゃ、宿泊所と最低限の食事が提供されていたかもしれませんが、あくまでも可能性の話であり、常にそれが与えられるとは限らないですから。

驚くほどの人の命が軽かったことも指摘されています。まあ、日本でも行商人の六部殺しの話など、いくらでも転がってますもんね。今でも旅行先で騙されたり、金品奪われたり、乱暴されたり、殺されたり、普通にありますもん!

私も旅先で少しは経験しましたが、幸い命があって良かったです♪

今でも一部の国では、本当に軽い命ですが、本書の時代では、現代の比じゃないですからねぇ~。

そういった時代的・社会的背景を理解すると、巡礼の道の脇にホスピスや修道院が建てられていたことも分かりますし(逆に、聖遺物のある教会堂をつないで巡礼路が出来ていたりもするが・・・)、十字軍の必要性も分かります。

そして、巡礼の延長戦上に、故郷で事件を起こしたり、喰っていけない人々が宝くじを当てるようなわらにもすがる想いで、冒険に繰り出していたのも納得できます。そりゃ、同胞のキリスト教徒を虐殺して、貴金属を強奪し、聖遺物を略奪したりするでしょう。

どうせそのままでは、生きていくことすら困難な社会からの除け者だったんでしょうから。満州へ渡っていった人々と一緒です。人は追い込まれなければ、あえて冒険なんてしませんから!

西洋史でいうところの『地理上の発見』とやらも同じもんです。現地人を虐殺し、切り刻んで犬の餌にした征服者が国王から称賛されてりゃ、せわないです。

まあ、それが見方を変えれば、人類の進歩であり、発展でもあるのも真実で冷笑せざるを得ませんが、それはこの際、置いておく。

本書の中でも、『巡礼』そのものやそれのもたらした周囲への影響など、長所・短所(功罪等)共に分け隔てなく触れているのでいろいろと考えさせられます。

ただ、う~ん? 全体的に言うと、インパクトはないなあ~。

もうちょい突っ込んで考察とかもあると、興味が増すんでしょうが、淡々とした記述です。変に独善的な解説も困るけど、微妙かもしれません。

そういやあ~訳者の一人は、中世ドイツ関係でよく目にする「藤代幸一」氏です。だから、なんだって言われると・・・それだけでしかないんですが。

なんだかんだ言いましたが、先月のパリ旅行でも巡礼の目印のホタテ、あちこちで見てるんだよぇ~。シャルトル大聖堂もまさに巡礼路の一部だし、中世美術館の建物には、たくさんのホタテが・・・!

まあ、来年の夏は、とりあえず飛行機でスペイン行って、初サンチャゴ詣でもしてきます。実際に歩いていくのは、もうちょい先になりそう。

貧乏暇無しで、仕事休めないもんね。

会社辞めるか、クビにでもなったら、歩いて巡礼に行きたいものだが・・・。さて、どうなるのやら???
【目次】
1 背景
2 目的地はたくさんある
3 誰が巡礼になったか
4 巡礼者の動機
5 準備
6 巡礼は労働だった
7 宿ともてなし
8 最後まで、財産、肉体、魂への危険
9 目的地にて
展望
巡礼の文化史 (叢書・ウニベルシタス)(amazonリンク)

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「サンチャゴ巡礼の道」イーヴ ボティノー 河出書房新社
「サンティヤーゴの巡礼路」柳宗玄 八坂書房
「巡礼の道」渡邊昌美 中央公論新社
「中世の巡礼者たち」レーモン ウルセル みすず書房
「中世の奇蹟と幻想」渡辺 昌美 岩波書店
「星の巡礼」パウロ・コエーリョ 角川書店
「スペイン巡礼の道」小谷 明, 粟津 則雄 新潮社
「芸術新潮1996年10月号」生きている中世~スペイン巡礼の旅
「スペイン巡礼史」関 哲行 講談社
「カンタベリー物語」チョーサー 角川書店
「聖遺物の世界」青山 吉信 山川出版社
「スペインの光と影」馬杉 宗夫 日本経済新聞社
「ある巡礼者の物語」イグナチオ デ・ロヨラ 岩波書店
「芸術新潮 2007年04月号 イギリス古寺巡礼」
「フランス巡歴の職人たち」リュック・ブノワ 白水社
posted by alice-room at 21:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 歴史B】 | 更新情報をチェックする
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