
そうですね、類書の多い中で言えば、比較的に読み易く万遍(まんべん)なく、情報や知識が盛り込まれているといった感じでしょうか。写真(ほとんどモノクロ)や図版もそれなりの数入っていて、文章だけの説明よりはずっといいのですが、写真が置かれている位置と文章の位置がいまいちピッタリとせず、文章の説明している部分が写真のどの部分かを特定することが難しい。同じページに写真がないことも分かりにくさを増長している。

ただ、他の本を読んでもこの手のものは、実際に実物を見て初めてその意味が分かるのも事実。この本でも紹介されているシャルトル大聖堂のタンパンやステンドグラスの美しさをいくら説明や解説しても、どんなに綺麗な映像で見ても、あの神秘的な美しさ・感動は言葉にならないし、伝えられない。
あくまでもこんなものあるんだ、見に行きたいな。そんなきっかけになりうるかも知れないのがこの本の役目もしれない。本当は中世の美術といっても多種多様な存在形式や表現形式があり、それらを包括的にくくろうとすること自体が、ある種の便宜的な物差しに過ぎず、なんでも分類し、類型化することで効率よく処理し、分かったような気になる現代的な病(やまい)なのかもしれない。そんなことを思いつつ、読んだ。

本書の場合は、包括的な説明は割合少ないほうで個別具体的な有名どころの大聖堂や礼拝堂、写本や彫刻などを解説しながら、中世的な特徴を説明してくれている。限られた写真の枚数と写真のどの部分のことを指すのかという特定の困難さ、それらの問題はあるものの総合的には悪くないと思う。基本となるロマネスク建築とゴシック建築について、挙がられているものはどれもこれも行ってみたいものばかりだ。コンクのフォアの聖女、カンタベリー大聖堂、ランス大聖堂等。


美しい写本の説明も嬉しい♪ 『トレドの聖書』や『トリニティ・カレッジの黙示録』など、写本も好きな私としてはこれらの紹介があるだけでも楽しくなってしまう。駆け足の説明であることは否めないが、どんなものがあるかさえ知らない私には次へのきっかけになるものでした。
あと、本書全体で感じた不満は、説明に使われる用語がなんか古いってこと。最近の本はもっと分かり易い用語で説明しているのに、すご~く時代めいた漢字を多用した用語が多い。中世美術史の用語の統一や表記って、確定しないのかな?美術史を何も知らない私としては、そこが大変気になりました。法律用語や経済用語もそういうのってあるけど、今時の時代、情報の共有化による恩恵を享受しないのは、もったいないような気もするんだけどね。どんなでしょう?
【目次】
1 ロマネスクの建築と美術
2 初期ゴシックの建築と美術
3 盛期ゴシックの建築と美術
4 後期ゴシックの建築と美術
中世の美術 ケンブリッジ西洋美術の流れ(amazonリンク)
関連ブログ
「図説 西洋建築の歴史」佐藤 達生 河出書房新社
TBS世界遺産「リトルポーランドの木造教会群(ポーランド)」
「ロマネスクのステンドグラス」ルイ グロデッキ、黒江 光彦 岩波書店
「中世の美術」黒江 光彦 保育社
「ステンドグラスの絵解き」志田政人 日貿出版社
「シャルトル大聖堂」馬杉 宗夫 八坂書房
「ゴシックとは何か」酒井健 著 講談社現代新書
「フランス ゴシックを仰ぐ旅」都築響一、木俣元一著 新潮社
「黒い聖母と悪魔の謎」 馬杉宗夫 講談社
「大聖堂のコスモロジー」馬杉宗夫 講談社
「図説 ロマネスクの教会堂」河出書房新社