2010年08月27日

「西洋中世奇譚集成 聖パトリックの煉獄」マルクス、ヘンリクス 講談社

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時代は中世ヨーロッパ。
『煉獄』という概念自体、カトリックの生み出したものと言われていますが、その煉獄に行って戻ってきた人が経験した煉獄での光景・事物を語ったものをそれぞれ文章にしたものです。

日本の中世説話とかにも似たようなものありますねぇ~。
聖パトリキウスの煉獄譚にいたっては、実際の島にその場所があり、巡礼者達が集まったようですが、私的には仏寺の胎内巡りを彷彿とさせ、そのヴァリエーションのようにさえ、感じられました。

人は思っただけで、脳内に実感しうるだけの虚像を生み出せる生き物ですから、当時の、しかも非常に強烈な信仰心・想いに捉われていた人物であれば、一定の条件下では更に容易にそれを体感できたのかもしれません。

まあ、「銀行はつぶれない」とか「国際はノーリスクの安全資産」とか信じている現代人とは、信じている対象が異なるだけで似たようなもんですけどね。あと、年金はもらえるものと思っている人とか、消費税が上げないで無駄を省くだけで今の財政政策が維持できると信じてる人とかね(ニヤリ)。

そっちはおいとくにしても、本書は当時広く流布しているだけあって、なかなか面白いです。

説話物語の血の池地獄とか、針の山とか思い浮かべながら読んでおりました。私。数々の拷問や責苦の場面も小さいながらも味わいのある挿絵が多数載っていて、見ていても楽しいです♪ 

私の大好きな「黄金伝説」とはちょっと系統が違いますが、煉獄に落ちない為に聖人のとりなしを求めることとは表裏一体の関係でしょうか? 一方で、こんな風に煉獄の恐ろしさが伝えられているが故に、それを避けるべく人は、とりなしを求めて熱狂的な行動へと駆り立てられたのだでしょう。

当然、合わせて当時を知るには、知っておくべきお話です。単純に面白いからね。

個人的には、ちょっと惹かれたのが、高潔な司祭を破滅させる為に赤子を面前に遺棄し、それを養育させる。自分自身の娘のように育てたその子は、年頃に成長すると美貌の為、司祭の欲望を燃え上がらせ、司祭は、娘から結婚の同意を得るまでに至る。

それらは全て悪霊が15年がかりで立てた堕落の計画だったのですが、最後の最後で司祭は寝台の上に寝かせた少女に手を出す直前、我を取り戻し、自らの性器を刃物で切って誘惑を退ける。

少女は修道院へ預けられ、司祭の堕落にしくじった悪霊は、仲間の悪霊から散々に鞭打たれることとなった。

う~ん、実の血の繋がった妹ととは知らずに、肉欲から関係を結ぶゴシック小説の「マンク」を思い出させますね、ハイ! 個人的には、散々悪い事して堕落してしまった後に深く改悛して聖人になったりする方が、良さそうに思いますが、駄目なんでしょうね。俗人的な発想では(笑)。

でも、これ面白いし、押さえておくべき本なのは間違いないですね!

今度、ル・ゴフの「煉獄」も読みたくなりました。今まで興味湧かなかったんだけど。
【目次】
第1部 トゥヌクダルスの幻視―マルクス(ラテン語ヴァージョン)
第2部 聖パトリキウスの煉獄譚―ヘンリクス(ラテン語ヴァージョン)
西洋中世奇譚集成 聖パトリックの煉獄 (講談社学術文庫)(amazonリンク)

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posted by alice-room at 22:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 宗教B】 | 更新情報をチェックする
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