
澁澤龍彦氏好きには、お馴染みの桃源社の本である。世界異端の文学、ユイスマンスというキーワードだけで、ご存知の方なら、ふふ~んって何やら訳知り顔をされる方々もいらっしゃるかもしれない。そうです、私もそういった顔をするまさに一人だったりする(自爆)。
あとがきにも載っているが、ユイスマンスの翻訳というと、日本語訳の出た順から「彼方」(田辺貞之助氏、「さかしま」(澁澤龍彦氏)ときてこの「大伽藍」がくるらしい。それ以外には「出発」「ルルドの群衆」とかもあるらしいが、ほとんど初版で持っているなあ~。学生の頃、株で儲けた金で買って結構読み漁っていた気がする。今でもダンボール箱の中で埋没しているはず・・・(苦笑)。
ただ、本書の「大伽藍」だけ何故か読んでなかったらしい。去年、シャルトル大聖堂に行って以来、気になっていたのだが、もしかしたら持っていそうで、重複が怖くて買えませんでした。でも、今回買って正解!! やっぱり持ってないと思う。文章を読んだ覚えがなかったし、この文章だったら一度読めば忘れるはずはない(!)と思うもの。

どこからどこまでもシャルトル大聖堂について書かれた一冊。私もたった一日を過ごしただけなのでえらそうなことは言えないが、こればっかりは実際に見て、自らの感覚で体感しないと絶対に本書の述べるものが理解できないと思う(興味のない人には、見ても分かってもらえないかもしれないが・・・)。
恐らくシャルトル大聖堂というものを知らなければ、たかだか綺麗なステンドグラスがあるので有名な大聖堂一つに、よくそこまで書けたものだと思われるかもしれないが、個人的な感想だと、もっと&もっと書けるんじゃない?そんなかんじがより自分の心情に近かったりする。もっとも本社は抄訳で、残念なことにだいぶ削られてしまっているらしい。非常に悲しい限りだ(号泣)。
とにかく、いくつかの入口に彫られた彫刻の意匠や技法には、まさに驚くばかりであり、極めて高い芸術性以上に神の世界を語るその聖性の至高性には胸を打たずにはいられないものがある。

旧約聖書と新約聖書がいかにしてそこに描かれているか、その解釈と共におしなべて他の大聖堂の彫刻群との比較から、辛辣な批評が大変に面白い! 世界の人がこぞって誉め称えるルネサンス美術でさえ、彼の手にかかれば、異教に染まって淫乱に堕し、神性を失ったものに過ぎない。世俗のものがどう考えるかではなく、あくまでも彼一個人としての論理の帰結として述べられるその主張には、(全てに賛同するわけではないものの)感銘を受け、共感する点も多い。
自分の価値判断の尺度をもたず、有名だからなどという俗物過ぎる価値観など、一挙両断に切り捨てる、その潔さが心地良い。勿論、そこで語られるシャルトルの彫刻に見られるキリスト教の象徴学的解釈なども非常に面白いし、為になる。その歴史や文献から掘り起こして、述べられる文章にはいちいち、そんな事実や資料があるのかと、尽きぬ興味と好奇心を刺激するものとなっている。
ただね、正直言って私には理解するのが難しいところが多々あるのも事実。聖書の知識なんか大前提として必要だし、ロマネスク建築やゴシック建築、クラナッハ、フラ・アンジェリコ(み~んな私の好きなものばっかり!)とかが普通に既知のものとして出てくるから、それらの予備知識のない方には、この本は無用の長物と化してしまうのも事実。潜在的な読者のパイは、非常に小さいでしょう。まして、ヨーロッパではなく、日本では。
逆にこれらのことが分かったうえで、シャルトル大聖堂好き!ユイスマンス好き! なら、もうこれは必須ですね。別に『異端』とまでは思いませんが、あまりまともな生活を送っている人ではないでしょう。かろうじて、研究者崩れや暇人(=高等遊民転じてニート)とかね。そういう人向きの本です。
文学といえば文学でしょうけど、それよりももっと崇高な宗教的な情熱を持った神秘主義者向き?かな。

とにかく私は、大好きです。抄訳でなくて是非全訳を読みたい!! 桃源社のは絶版になって、今、平凡社から出てるのもきっと同じ抄訳でしょう。誰かフランス語のできる人で教養のある人、訳してくれないかなあ~。きちんとした日本語のできる人ね。じゃないと、訳が下手なのも辛いし。
しかし本当にシャルトル大聖堂について詳しいです。主人公はこのシャルトルに住んで毎日、大聖堂を見て暮らすんですよ。もう羨ましくてしょうがないです。フランス自体はそれほど好きでもないけど、シャルトルの側だったら一ヶ月ぐらい毎日、大聖堂に通ってみたいなあ~。柱の一本一本から、ステンドグラスの一枚一枚、彫刻の一体一体まで自分の記憶に刻みつけるほど、毎日眺めてみたいです。
また数年したら、行ってみようっと!
大伽藍―神秘と崇厳の聖堂讃歌(amazonリンク)
関連ブログ
「シャルトル大聖堂」馬杉 宗夫 八坂書房
シャルトル大聖堂 ~パリ(7月5日)~
シャルトル大聖堂の案内パンフ
「ステンドグラスによる聖書物語」志田 政人 朝日新聞社
専門家の木俣先生のコメントでは「日本で言えば法隆寺にあたるようなもの」
(芸術新潮3月号、2006)だそうです。
(ほんとかな~?)
木俣氏は、シャルトルに関する論文をいくつか書かれていらっしゃるようですね。大学の紀要とかが多くて、国会図書館とかいかないと見れないのが残念です。ネットとかでもそういうのが読めるようになるといいのに・・・。出版されていない(予定のない)ものとか、自由にネットで見られるような社会になるといいなあ~。怠け者の私はつい、そんなことを願ってしまいます。
それはおいといて、私の中でもシャルトルは格別のお気に入りになってます(笑顔)。
芸術新潮3月号はこの木俣先生の解説を中心にパリ、そしてパリ周辺を5間で旅するという内容です。これはalice-roomさん必読かもしれません。(私のブログでも簡単にコメントしてます。)
それはともかく、明日忘れずに見てきます(大丈夫か???)。おやすみなさい。
木俣氏の論文ですが、下記netで一部閲覧することができるようなのでご報告です~。
シャルトル大聖堂のステンド・グラスにおける分節システムとクロノロジー : 今後の研究に向けての覚え書き
http://hdl.handle.net/2237/5586
↓
http://ir.nul.nagoya-u.ac.jp/dspace/bitstream/2237/5586/1/BT004110197.pdf
西洋中世美術におけるイメージ言語
http://www.coe.lit.nagoya-u.ac.jp/pdf/SITES_1-1/01_6Kimata.pdf
それでは、また遊びに来させてくださいませm(_ _)m
ほんと、長い休みをとってシャルトルにでも入り浸りたいですね(笑顔)。
木俣氏の論文情報どうも有り難うございました。早速、読んでみます。
はい、またブログお邪魔させて頂きますね。