2010年10月03日

「動かないコンピュータ」日経コンピュータ 日経BP社

雑誌「日経コンピュータ」で実名入りで報道されていた人気連載記事をまとめたもの。

雑誌で時々読んだことがあり、大変興味深く、日経新聞の紙面でデカデカと報道されていたニュースの裏側を実に丹念な取材で経緯や理由を明らかにしていて、まさに生きたケース・スタディ集。

海外の経営系大学院で教えるような事例は、日本ではなかなか目にする機会がないだけに大変貴重な生きた教材です。まさに他山の石です。

ただ、本書はいろいろな制約もあり、トラブル発生時と現在では当該企業の状況が異なっている(はず?)なので、徒に評価を貶めても困るので・・・という訳で具体的な企業名が伏せられているのが、かなり残念。

そして、雑誌に連載をまとめたので時期的に古くなっている一方で、私は昨日読んだけど、出たのは2002年ということで、更に古い話となっています。

だけど・・・・本質は変わらないはず。実際に私がシステム系の部署にいて経験したことや、取引業者さんなどから聞いた話、友人から聞いた話などと非常に重なることが多かったです。

逆に言えば、それだけ普遍性があり、本質的な原因なのでしょう。出版から時間は経っていますが、十分に今でも当てはまります。つ~か、現在の自分の職場とかでも他人事じゃなくて、リアルで同時進行している感があります。うっ、胃が痛くなる・・・。

まっ、現在のところは置いといて。以前いた会社でいうと・・・。

分析系のお仕事メインで、社内システム関係兼務だったりしましたが、某通販向けの顧客分析ソフトで定評ある会社のパッケージを使っていたんですが、それ使い始めてから売上落ちる一方でね。オーナーが見る限り、商品力が落ちた訳でもなく、カタログの質も悪くないはずなのに何故売上が落ちるんだと大騒ぎになったらしい。

鳴り物入りで導入したパッケージソフトの使用を急遽中止。生の顧客データから、抽出条件の手動設定で試行錯誤を繰り返し、一から自社専用のデータベースマーケティング手法の開発をやりましたよ。まあ、その為に大学院でファイナンスとか統計やってた私を中途採用したってのもあったんですけどね。

ハウスリスト向けに特化した独自の顧客評価ルールの採用で、当然、売上・利益とも一気に上昇。私も臨時昇給とか1年に何度かあったけど、そりゃそうでしょう。あくまでも汎用性重視で最大公約数的なパッケージで、自社にベストのものなんてあるわけないんだから。

評価モデルなんて、パラメーターの数値をちょいいじるだけでアウトプットのパフォーマンスは激変しますし。そこがマーケティング担当者の存在価値だしね。

一時、紙のカタログ通販各社が売上を落とし、データベースマーケティングに多大な投資をして、販促費(カタログ配布数の絞込み)をやったものの、かえって売上・利益とも落とした縮小均衡になり、情報投資に金かけた分だけ丸々ドブに捨てたようなことをしていた時期もありました。

当時の四季報見ると、本当に爆笑しますよ。ほとんど全ての上場通販会社が横並びでやってましたからね。

もっともうちも調子の乗って、上司がやっちゃいましてね。小さい会社なのに数千万突っ込んで、当時日本で初めて売られたOLAPツールの第一号を入れることになり、見事に人柱にされてました。営業担当者はそもそもDBマーケティング分かってないし、マニュアルも英語のみ、導入スケジュールは遅れる一方でオーナー社長はしびれを切らし、支払いを止める直前までいきましたね。

しかもレビュー段階で全然、使えないし、ちっとも仕様を満たしてない。検収作業中でも、どうしょうもなくて、それでも導入後のフォローを条件にOKしたものの、最終的に粗大ゴミとなりました。

その導入準備中、上司の仕事は全て私が担当し、自分の仕事も当然やって相当苦労しましたね。だからこそ、自分で作業効率化の業務ツールを作成することになったりもしたのですが・・・。

まあ、上司はプロジェクトぽしゃって、連日吊るし上げられ、不倫に走って退職。私は、転職1年半で見事部長になったというおまけつき。なんだかねぇ~。でも、上司は決して悪い人ではなく、技術に対する関心が非常に高く勉強熱心だったんですよ。

ただありがちですが、この手の人がよく陥りやすい、新しい技術の面白さばかりに目を奪われ、それを仕事で使って利益が上がるかは別であり、たいていの場合、レガシーシステムの方が費用対効果は良いとことを意識していなかったことが致命的でした。

システム関係の責任者としては、決定的な欠陥だと思います。

5年のリース契約をむすび、その分析ツール専用サーバとして準備した大きな黒いPC。実に使い勝手が悪く、むしろ作業効率が落ちるので私は一切、それを使用することを拒否しましたが、その後、数年に渡って経理担当役員がそのサーバーの前に来るたびに、「これなんか使えないかな?」とつぶやき、私の前で溜息をつく光景が忘れられません。

あるだけ邪魔でその割に大きくて目立つものの、全く使用されず、電源さえ入れられないまま、リース会社に毎月たくさんのお金を支払わされるオブジェ。そりゃ、経理の役員だったら、見るだけで苦痛以外の何物でもないでしょう。

私は、完全に書籍とかを置く台とみなしてましたけど・・・。実話です。

だいたい、日本語化も満足にできていないうえに、外資系の合弁企業で営業さんはただの代理店としての販売だけなんだもん。そもそも英語版でのバグも多数あったようで、よくそんなもんで日本で売ろうとしたものです。

まあ、実に、実によくある話です。

それ以外にもいろいろあるなあ~。

私が一番最初に勤めたいわゆる総合電機の会社でも何十年も前から作成されたCOBOLによるプログラムを当時、ようやく日本に入ってきたばかりのオブジェクト指向(その頃、日本語の本さえなかったので英語で勉強した)対応へ自動で変換するツールがあり(自社の他事業部の開発・販売)、それを工場で購入し、導入することになりました。

とりあえず、あまり大きくないステップ数のもので、どんなふうになるか解析・変換ツールにかけてみたら・・・ステップ数が多過ぎて、解析不能だって! いや、あくまでもサンプルなんで、あえて中規模のものだったのに・・・・。

相手側(事業部)の担当者も、これには苦笑せざるを得ず、思いっきり面目なくしてましたが、そんなものです。同じ会社なのに・・・ねぇ~。

そして、その言い訳で出てきた話として、同じ会社だから・・・率直な話をしますと・・・と前置きされた限りでは、その製品の開発を大手の石油元売り会社と、今回のプロジェクトと同時平行でやっているらしい。言葉は悪いが、この手のはいくつか同時平行して開発を行い、成功事例が生まれたら、それを持って他のところにも一気に拡販・伝播させるらしい。

つ~ことは、平行している個々のプロジェクトは、全て実験ってことだったりする。相手企業の金で、実験してリスク分散し、成功事例は自社の手柄として他社持って行くわけで、合理的ではあるものの、なんだかなあ~と新入社員の私は思ったものです。

だから、革新的で新技術を使用したシステム投資ってのは、そりゃ経営的にはどうかと思うわけですよ。私技術者としては、すっごく刺激で面白いけどね。

自分がシステム関係を担当していた時は、それまで勘定系(オフコン)1台で無理して分析系の作業をさせてたので業務にも影響が出かない状態だったので、分析専用にもう1台、まったく同じ購買履歴を持たせたオフコンを購入しただけで、基本的に全てツールは内製化してました。

そりゃ情報投資としての費用は、前任者に比べて飛躍的に下がるでしょう。しかも自分で作るから、必要に応じていかようにも変更・修正できるし、その分析手法を熟知せざるを得ないので、必然的に出てくる数字の理解度も増すわけで、各種分析やそれに基づく販促企画の精度が増すのも当然です。

当初、外部から購入しようと思っていたんだけど、あいみつ取ると、値段ばかり高い割にこちらのやりたいことは何にもできず、しかも新しい分析をしようとすると自由度がなく、何もできないものばかり。それで仕方なく内製化したのですが、その結果は驚くべきものでした!

ただね、当然問題もあるわけです。私が直接教えた部下は、当人が優秀だったこともあり、全てを吸収し、更にツールを改善していったぐらいでしたが、私が退職後、彼が他部署へ異動になると、後任はできたツールをただそのまま使用することしかできず、根本的なツールでやっている内容の理解、更にその改善など全くできない状況に陥ったそうです。

その後もいろいろと情報は入ってきましたが、その後も担当者が次々代わり、結局、出来上がったものをそのまま使う以上の使い方が出来なかったので、マーケティング精度は落ち続け、せっかく上場したのに、赤字になったとか・・・・馬鹿だよねぇ~。

私が残した膨大なマーケティング資料も、使いこなせなかったようだし、そもそも読んでもいないとか・・・。ありがちな話だけに泣けてきます。

他にも某ソフトウエア会社では、プレスリリースしちゃったからとコレコレができるとパッケージに書かれている機能が完全に動かないのに、それをGM(ゴールデン・マスター)としてプレスして販売しちゃうんだもん。当時、絶句した覚えがあります。どうやら、販売後1ヶ月以内に修正パッチ出せばいいやってことらしいけど、それが普通らしい。この業界の常識って・・・!

以上、私の経験でしたが、本書にはこういったこととまさに1対1対応しちゃいそうな事例がたくさん載っています。経験がある人なら、読んでいるうちに確かに&確かに、この手のあるよと納得することばかりでしょう。

また、同様の事例にニアミスしそうになったことなども多々痛感されることでしょう。

転ばぬ先の杖です。実経験の無い人が読んでも、このリアルさは感じ取れないし、生かせないと思いますが、ある程度の中堅以上の人なら、結構、役に立つと思います。まさに火ダルマプロジェクトでデス・マーチ突入する前に、または、自社のプロジェクト担当者や発注先の会社の担当者が逃げ出す前に、こういうケースを頭に入れつつ、行動しないといけません。

どんなものでも必ず予兆があります。天災の大地震でさえ、気をつけていれば、事前に分かる場合もあるのです。膨大な影響が出て、どうしょうもなくなる前に是非気付き、少しでも先回りして対処法を取れればなあ~って心から思います。

しかし、あまり気にしていると・・・最近、過敏性腸症候群になりかけているような・・・。ストレスに弱い私(涙)。それでも、昔のような売上に責任を持つポジションでもないのでずいぶんと楽なはずなんですけどねぇ~。

まあ、あまり気にせず、淡々とできるお仕事でも頑張りましょうと思ってしまう私でした。ふう~。南の島、来年行こうかな? またバハマとか・・・・ブラジル行くと日本で生きていくのが辛くなるので・・・。

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あっ、書き漏れていたのを思い出した!
しばしばやってしまう間違いのありがちな例に、コンサルティング・ファームに依頼して、数十冊に及ぶバインダーの業務分析・改善提案書を作ってもらったものの、実際にそれに基づいたシステムを構築しようと依頼すると、そのバインダーを見れば、どこのソフトウェアハウスでも出来るからと一向にやってくれないとか挙がってました。

で、そのバインダーを元に別なソフト会社に依頼しようとすると、全然そのバインダーは使えず、結局何億円も無駄にしたバインダーは、総務の書棚に放り込まれ、一回も使用されることなく、金をドブに捨てた結果になったとかね。

いかにもありがち・・・。似たような話を実によく聞くしね。

勿論、そりゃコンサルティング・ファームの人達は経営分析の専門家ではあっても、必ずしも業務システムの専門家とは限らないし、彼らが実際に最終場面まで立会い、企業に対して投資に見合った以上の結果をもたらしたという話しは、ほとんど聞きませんね。

専門家としての分析手法を期待し、彼らを使いこなして自社にとって最適なシステム全体を作り上げる部品として使うのならば、有用な価値があるのでしょうか、企業経営の根幹たる部分を外部に一任してそれをそのままうのみにして(自己消化せず)適用させようとする時点で、経営者としていかがなものなんでしょうね?

他社に勝る自社の競争優位の原動力は、あくまでも自社を知り尽くした社内で生み出すべきだし、またそうでなければ(外部から分かる程度の一般的なものでは)、競争優位にならないと思うんですけどね。

アウトソーシングしかり、業務提携しかり、外部の力を効率よく利用すること自体は、合理的だと思いますが、それを使いこなすだけのノウハウを自社内で有する限りという制約条件があるように思えます。

それを有機的に自社内の強みと合わせることで、他社にない競争優位を作り出せなければ、自社ではなく、他社が勝って当たり前でしょう。とまあ、そんなことをつらつらと考えながら読みました。本書を。
【目次】第1章 増える「動かないコンピュータ」
第2章 パッケージ・ソフトの導入に手こずる
第3章 大規模システム開発の相次ぐ失敗
第4章 中堅・中小企業が失敗する十一の理由
第5章 世界各国で座礁,インターネット・システム
第6章 万全の対策、しかし停止する大規模システム
動かないコンピュータ ― 情報システムに見る失敗の研究(amazonリンク)

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posted by alice-room at 19:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 実用・ビジネスB】 | 更新情報をチェックする
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